[0648] 急性期脳卒中患者における誤嚥性肺炎発症の要因についての検討
Keywords:脳卒中, 誤嚥性肺炎, NIHSS
【はじめに,目的】
肺炎は2011年より日本における死因の第三位となり,なかでも誤嚥性肺炎が感染性呼吸器疾患の多くを占めている。誤嚥性肺炎は脳卒中合併症のひとつで,予後不良かつ在院日数を延長させる要因とされている。平成25年4月から平成25年10月の間に入院した急性期脳卒中患者203名(平均年齢71.1±11.6歳)のうち20名に肺炎が発症した。脳卒中急性期合併症として呼吸器感染症は22%との報告もあるが,当院での誤嚥性肺炎発症率は9.8%であった。脳卒中の重症度評価スケールとしてNational Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS)が広く使用されており,本研究ではNIHSSと肺炎発症との関係性を調査するとともに,急性期脳卒中患者における誤嚥性肺炎発症の要因を調査,リスク因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】
統計処理はNIHSSと肺炎発症率との相関をpearsonの積率相関係数を用いて分析した。また,肺炎発症患者20名のNIHSSは平均18.9±12.4であるが,今回,肺炎発症者のNIHSS中央値より標準偏差外を外れ値として,これに該当する8名を除外した12名(年齢平均74.0±8.4,NIHSS平均20.1±7.1)を肺炎群とした。そして全入院患者より肺炎を発症しなかった肺炎群と同等の範囲に該当する31名(年齢平均71.7±11.0,NIHSS平均14.9±6.2)を非肺炎群とした。そしてこれら2群に対してt検定を用いて分析を行った。分析項目は,摂食・嚥下障害者における摂食状況のレベル(以下摂食状況のレベル),運動Functional Independence Measure(以下FIM),認知FIM,総合FIM,在院日数とした。肺炎の診断は日本呼吸器学会が定める肺炎の重症度分類に該当する所見とX線写真判定により肺炎発症と判断したものとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うにあたり,当院倫理規定および個人情報保護法に沿ってカルテの調査を行い,記載内容が院外に流出しないように細心の注意をした。
【結果】
NIHSSと肺炎発症率に正の相関を認めた(r=0.73)。各項目の平均(肺炎肺群,非肺炎群)と示す。摂食状況のレベル(2.3±1.4,4.8±3.0),運動FIM(13.4±1.0,17.4±7.5),認知FIM(7.8±8.6,13.6±10.0),総合FIM(21.3±9.5,30.9±15.1),在院日数(58.8±51.4,28.8±17.7)であった。このうち摂食状況のレベル,総合FIM,在院日数に有意差を認めた。
【考察】
肺炎の発症率と入院時NIHSSの関係性においては,NIHSSの得点が高いほど肺炎発症率が高い傾向にあることが示唆された。これより入院時NIHSSを評価することで肺炎発症を推測し,予防可能であると思われる。摂食状況のレベルで認めた有意差は経口摂取が可能かどうかにある。何らかの原因で経口摂取が不可能な状態であると,肺炎を発症する傾向にある。これは嚥下機能や意識レベルの低下により,不顕性誤嚥のリスクが高まることが一因である。それに加え,口腔機能低下に伴い唾液分泌不足が生じ,口腔内常在菌が繁殖することもリスク因子と考えられる。そのため口腔ケアの実施や摂食・嚥下リビリテーションが重要である。また,総合FIMも有意差を認めた。FIMは現在「している」状況を示し,介助量測定に適する評価法である。総合FIMが低い,つまりADL介助量が多いことは肺炎発症リスクが高い状態であることが分かった。ADL介助量が多い人はセルフケアが不足しやすく,誤嚥物の喀出力が劣り,防衛体力も低下するので誤嚥性肺炎になると考えられる。よって早期より離床し,ADL能力向上を図り介助量軽減することが肺炎予防に有用と思われる。さらに肺炎を発症すると在院日数が明らかに延長する。脳卒中の療養に肺炎治療が加わるだけでなく,安静臥床による廃用を引き起こす可能性が高くADL低下に繋がる。その結果,介護が必要になる,在宅復帰困難になるなどの問題が生じ,転帰先検討も容易ではなくなる。円滑に転帰先を決めるには肺炎を発症しないことは不可欠である。今後は意識障害や栄養状態との関係性を含め継時的に調査し,肺炎発症に与える影響を詳細に検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
嚥下障害やADL低下は肺炎発症のリスク因子であり,NIHSS高得点である重症患者は肺炎発症率が高い傾向があることが示唆された。肺炎発症のリスク因子を明らかにし予防することは,脳卒中急性期リハビリテーションをより円滑に実施するための一助となると考える。
肺炎は2011年より日本における死因の第三位となり,なかでも誤嚥性肺炎が感染性呼吸器疾患の多くを占めている。誤嚥性肺炎は脳卒中合併症のひとつで,予後不良かつ在院日数を延長させる要因とされている。平成25年4月から平成25年10月の間に入院した急性期脳卒中患者203名(平均年齢71.1±11.6歳)のうち20名に肺炎が発症した。脳卒中急性期合併症として呼吸器感染症は22%との報告もあるが,当院での誤嚥性肺炎発症率は9.8%であった。脳卒中の重症度評価スケールとしてNational Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS)が広く使用されており,本研究ではNIHSSと肺炎発症との関係性を調査するとともに,急性期脳卒中患者における誤嚥性肺炎発症の要因を調査,リスク因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】
統計処理はNIHSSと肺炎発症率との相関をpearsonの積率相関係数を用いて分析した。また,肺炎発症患者20名のNIHSSは平均18.9±12.4であるが,今回,肺炎発症者のNIHSS中央値より標準偏差外を外れ値として,これに該当する8名を除外した12名(年齢平均74.0±8.4,NIHSS平均20.1±7.1)を肺炎群とした。そして全入院患者より肺炎を発症しなかった肺炎群と同等の範囲に該当する31名(年齢平均71.7±11.0,NIHSS平均14.9±6.2)を非肺炎群とした。そしてこれら2群に対してt検定を用いて分析を行った。分析項目は,摂食・嚥下障害者における摂食状況のレベル(以下摂食状況のレベル),運動Functional Independence Measure(以下FIM),認知FIM,総合FIM,在院日数とした。肺炎の診断は日本呼吸器学会が定める肺炎の重症度分類に該当する所見とX線写真判定により肺炎発症と判断したものとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うにあたり,当院倫理規定および個人情報保護法に沿ってカルテの調査を行い,記載内容が院外に流出しないように細心の注意をした。
【結果】
NIHSSと肺炎発症率に正の相関を認めた(r=0.73)。各項目の平均(肺炎肺群,非肺炎群)と示す。摂食状況のレベル(2.3±1.4,4.8±3.0),運動FIM(13.4±1.0,17.4±7.5),認知FIM(7.8±8.6,13.6±10.0),総合FIM(21.3±9.5,30.9±15.1),在院日数(58.8±51.4,28.8±17.7)であった。このうち摂食状況のレベル,総合FIM,在院日数に有意差を認めた。
【考察】
肺炎の発症率と入院時NIHSSの関係性においては,NIHSSの得点が高いほど肺炎発症率が高い傾向にあることが示唆された。これより入院時NIHSSを評価することで肺炎発症を推測し,予防可能であると思われる。摂食状況のレベルで認めた有意差は経口摂取が可能かどうかにある。何らかの原因で経口摂取が不可能な状態であると,肺炎を発症する傾向にある。これは嚥下機能や意識レベルの低下により,不顕性誤嚥のリスクが高まることが一因である。それに加え,口腔機能低下に伴い唾液分泌不足が生じ,口腔内常在菌が繁殖することもリスク因子と考えられる。そのため口腔ケアの実施や摂食・嚥下リビリテーションが重要である。また,総合FIMも有意差を認めた。FIMは現在「している」状況を示し,介助量測定に適する評価法である。総合FIMが低い,つまりADL介助量が多いことは肺炎発症リスクが高い状態であることが分かった。ADL介助量が多い人はセルフケアが不足しやすく,誤嚥物の喀出力が劣り,防衛体力も低下するので誤嚥性肺炎になると考えられる。よって早期より離床し,ADL能力向上を図り介助量軽減することが肺炎予防に有用と思われる。さらに肺炎を発症すると在院日数が明らかに延長する。脳卒中の療養に肺炎治療が加わるだけでなく,安静臥床による廃用を引き起こす可能性が高くADL低下に繋がる。その結果,介護が必要になる,在宅復帰困難になるなどの問題が生じ,転帰先検討も容易ではなくなる。円滑に転帰先を決めるには肺炎を発症しないことは不可欠である。今後は意識障害や栄養状態との関係性を含め継時的に調査し,肺炎発症に与える影響を詳細に検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
嚥下障害やADL低下は肺炎発症のリスク因子であり,NIHSS高得点である重症患者は肺炎発症率が高い傾向があることが示唆された。肺炎発症のリスク因子を明らかにし予防することは,脳卒中急性期リハビリテーションをより円滑に実施するための一助となると考える。