第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法13

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:00 ポスター会場 (神経)

座長:松尾篤(畿央大学健康科学部理学療法学科)

神経 ポスター

[0650] 急性期脳卒中片麻痺患者の胸腹部可動性と麻痺重症度の関連

真子裕太1, 金子秀雄2, 吉田達郎1, 北島淳一1, 土井亮1 (1.公立八女総合病院, 2.国際医療福祉大学福岡保健医療学部)

キーワード:急性期脳卒中, 呼吸運動, 胸郭可動性

【はじめに,目的】
脳卒中発症早期の合併症の一つとして肺合併症があげられ,先行研究では脳卒中患者の21.4%に認められたとの報告がある。肺合併症に関連する因子として換気能力,上肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS),身体能力自立度などがあげられる。そのため肺合併症予防には麻痺重症度やADL能力に加え換気能力も把握することが重要となる。そこで今回,急性期でも測定可能な換気能力の指標として深呼吸時の胸腹部可動性に着目し,急性期脳卒中片麻痺患者の胸腹部可動性と麻痺重症度の関連について検討した。
【方法】
対象者は発症前独歩で発症後意思疎通が可能な急性期脳卒中片麻痺患者11名(69±10歳,右片麻痺4名,左片麻痺7名)とし,脳卒中や胸郭の手術の既往,呼吸器疾患などが有る場合は除外した。上肢BRS,Barthel Index(BI),胸腹部可動性(呼吸運動評価スケール)を発症から1週間以内に測定し,それから1週間後,2週間後とそれぞれ測定した。呼吸運動評価スケールの評価は,呼吸運動測定器を用いて上部胸郭(左右の第3肋骨),下部胸郭(左右の第8肋骨),腹部(上腹部)の5箇所における深呼吸運動を測定した。対象者はベッド上背臥位にて最大呼気位から最大吸気位までの深呼吸を行った。その際,呼吸運動測定器に表示された9段階(0~8,基準範囲4~7)のスケールから数値として読み取った。各部位とも2回測定し,スケール値の最大値を記録した。左右の胸郭スケール値は上下部をそれぞれ平均し,腹部を含めた3区分の合計スケール値を求めた。上下部胸郭および腹部のスケール値は4未満,合計スケール値は12未満を可動性低下とした。各時期での呼吸運動評価スケール値や上肢BRS,BIの比較にはWilcoxonの符号順位検定を用いて比較しBonferroni補正を行った。各時期での上肢BRSやBIと呼吸運動評価スケール値の相関にはSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%としそれ未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の主旨および方法に関する説明を行い,同意を得た。
【結果】
各時期(初回,1週間後,2週間後)でスケール値が基準値未満を示した対象者数は合計スケール値(9,8,8人)となり対象者の多くは胸腹部可動性の低下を認めた。また,上部胸郭(9,8,8人),下部胸郭(9,9,8人),腹部(4,2,2人)となり,各時期とも上下部胸郭で可動性低下を多く認めた。上部および下部胸郭スケール値の左右差は,時期により異なるが約半数に認め,その多くは麻痺側が低値であった。上肢BRSは初回と比べ2週間後で有意に増加した。また,BIは初回に比べ1週間後,2週間後で増加し,各時期において有意に増加した。各部スケール値もBIと同じように増加傾向を示し,上部胸郭は初回と2週間後で有意に増加した。しかし,右片麻痺患者の下部胸郭と腹部スケール値は2週間後でも増加傾向を示さなかった。上肢BRSと各スケール値は初回では相関はなく(rs=-0.04~0.23),1週間後では有意差は認めないが麻痺側上部胸郭で中等度の正の相関が,腹部で負の相関があった(それぞれrs=0.41,-0.43)。2週間後では非麻痺側上部胸郭で中等度の有意な正の相関が認められた(rs=0.62)。BIと各スケール値は初回では有意差は認めないが非麻痺側上下部胸郭で中等度の正の相関があり(それぞれrs=0.44,0.45),1週間後では相関はなく(rs=-0.03~0.22),2週間後では麻痺側下部胸郭で中等度の有意な正の相関が認められた(rs=0.64)。
【考察】
対象者の7割以上が胸腹部可動性低下を示し,ほとんどが上下部胸郭に可動性低下を認めた。これは麻痺側と非麻痺側の可動性低下を示していることから,麻痺側の呼吸筋の随意性低下や対象者が高齢であるため発症前から可動性が低下していたことが考えられる。また,右片麻痺患者では下部胸郭と腹部の可動性が改善しなかった。先行研究では右片麻痺の横隔膜運動が障害されやすいことが指摘されている。そのため右片麻痺患者では横隔膜運動が反映する下部胸郭と腹部可動性が改善しなかったことが考えられる。上肢BRS,BIと胸腹部可動性では,発症1週間以内では関連を示さないが,回復に伴い麻痺側および重症度に関連した胸郭可動性を示す可能性が考えられる。今後さらに対象者を増やし,重症度や麻痺側による違いを検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
呼吸運動評価スケールを用いて脳卒中急性期に胸腹部可動性が低下している患者が多く存在することを示した。これは急性期脳卒中患者の肺合併症予防を考えるうえで有益な情報と考える。