[0652] 脳卒中片麻痺患者の視覚性入力により誘発される重心動揺
キーワード:片麻痺, 重心動揺, 視覚入力
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者(以下CVA患者)は立位や座位姿勢における重心動揺が健常者よりも大きく,また麻痺側下肢への荷重が少ないなどの姿勢異常がみられる。一般に,姿勢制御は,筋骨格系と神経系の相互作用によって行われるが,高齢化にともない視覚性情報により強く依存して行われることが報告されている。CVA患者においても,これと同様な傾向がみられることが報告されている。そこで本研究は,視運動性刺激(optokinetic stimulation;OKS)を用いてCVA患者と健常高齢者の重心動揺に対する視覚性情報による影響について調べたので以下に報告する。
【方法】
本実験は,端座位が自立しているCVA患者4名(右片麻痺2名,左片麻痺2名,男性4名,平均年齢67.5±7.0歳,発症から4~6か月),およびコントロール群として健常高齢者6名(男性2名,女性4名,平均年齢61.7±2.1歳)を対象とした。重度高次脳機能障害,重度認知機能低下,重度の感覚障害,Romberg徴候陽性,著しい視力障害を呈すものは除外した。
被験者に背もたれのない椅子上に設置した重心動揺計(UM-BAR,ユニメック社)上に端座位姿勢をとらせた。このとき膝関節90度屈曲位とし,足底面は床へ接地させた。装具は着用せず靴は履いた状態で行った。被験者の前方1mにスクリーンを設置し,後方よりランダムドットパターン(横102cm,縦62cm)を投影した。ランダムドットパターンを右または左方向に連続して移動(20°/sec)させ,OKSとした。重心動揺の測定は,ランダムドットパターンの投影開始と同時に60秒間の測定を行った。各刺激毎に総軌跡長(mm),X軸,Y軸軌跡長(mm)を求めた。さらにX軸,Y軸の重心動揺の時間変化に対して直線回帰を行い,回帰直線の傾きを重心移動の指標とした。重心移動の有意性の判定には,コントロール群においては,右方向および左方向への刺激による重心動揺結果の比較を,対応のあるt検定(有意水準5%)を用いて行った。CVA患者群においては,麻痺側と非麻痺側方向へのOKSによる重心動揺結果に対して同様な検定を行った。なお実験および解析には,MATLAB(Mathworks),およびStatView5.0(HULINKS社)を用いて行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての被検者に対して,実験の目的,方法,安全性について十分に説明を行い,同意を得られた者を対象とした。なお,本研究は健康科学大学及び湯村温泉病院の倫理委員会の承諾を得て行った。
【結果】
コントロール群では,右方向と左方向のOKSによって総軌跡長及びX軸・Y軸軌跡長に有意な差は認められなかった。X軸方向の重心移動の傾きは,左右の刺激方向による差はみられなかったが,刺激方向に重心点が傾いていく傾向が観察された。
CVA患者群においても,麻痺側方向と非麻痺側方向へのOKSによる総軌跡長及びX軸・Y軸軌跡長に有意差は認められなかった。重心移動の傾きにおいても,非麻痺側方向への刺激では,重心移動の傾きはほとんど観察されなかった。しかしながら,麻痺側方向のOKSにより,重心移動の傾きが麻痺側に移動する傾向を示した。非麻痺側方向への刺激による重心の傾きと比較して有意に大きい値(p<0.05)を示す結果となった。
【考察】
本研究では,OKSを用いてCVA患者と健常高齢者の重心動揺の違いを調べた。コントロール群は,左右方向へのOKSにより両方向ともに同程度の重心移動がみられた。これは,回旋性のOKSにより,身体が刺激方向に偏位するという先行研究と一致する結果となった。
一方,CVA患者においては,麻痺側方向のOKSにのみ重心移動が認められる結果となった。CVA患者は安静時において非麻痺側に荷重が偏るとされており,身体が正中位にあっても重心が非麻痺側に変位していることが知られている。したがって,重心点が移動可能な距離は非麻痺側にはほとんどないが,麻痺側に大きかったために非麻痺側方向のOKSを行っても,重心移動が生じないが,非麻痺側への刺激には,大きな重心移動が生じたと考えられる。
本研究で用いた麻痺側方向へのOKSは,CVA患者が非麻痺側を軸として方向転換を行うときに生じる外界の動きと類似している。方向転換時に,本研究で観察された麻痺側への重心移動が生じている可能性があり,方向転換時の転倒の要因の一つになっている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
OKSを用いて,CVA患者の重心点を麻痺側に移動させることが可能であることは治療という点で興味深い。立位姿勢において麻痺側への荷重量と歩行速度,ADL能力に正相関があることが報告されているが,本研究で示した左右方向へのOKSによる麻痺側への重心移動を繰り返す事によって,重心位置の矯正が可能となれば視覚入力を用いた新たなリハビリテーションの開発に繋がる可能性があると考えられる。
脳卒中片麻痺患者(以下CVA患者)は立位や座位姿勢における重心動揺が健常者よりも大きく,また麻痺側下肢への荷重が少ないなどの姿勢異常がみられる。一般に,姿勢制御は,筋骨格系と神経系の相互作用によって行われるが,高齢化にともない視覚性情報により強く依存して行われることが報告されている。CVA患者においても,これと同様な傾向がみられることが報告されている。そこで本研究は,視運動性刺激(optokinetic stimulation;OKS)を用いてCVA患者と健常高齢者の重心動揺に対する視覚性情報による影響について調べたので以下に報告する。
【方法】
本実験は,端座位が自立しているCVA患者4名(右片麻痺2名,左片麻痺2名,男性4名,平均年齢67.5±7.0歳,発症から4~6か月),およびコントロール群として健常高齢者6名(男性2名,女性4名,平均年齢61.7±2.1歳)を対象とした。重度高次脳機能障害,重度認知機能低下,重度の感覚障害,Romberg徴候陽性,著しい視力障害を呈すものは除外した。
被験者に背もたれのない椅子上に設置した重心動揺計(UM-BAR,ユニメック社)上に端座位姿勢をとらせた。このとき膝関節90度屈曲位とし,足底面は床へ接地させた。装具は着用せず靴は履いた状態で行った。被験者の前方1mにスクリーンを設置し,後方よりランダムドットパターン(横102cm,縦62cm)を投影した。ランダムドットパターンを右または左方向に連続して移動(20°/sec)させ,OKSとした。重心動揺の測定は,ランダムドットパターンの投影開始と同時に60秒間の測定を行った。各刺激毎に総軌跡長(mm),X軸,Y軸軌跡長(mm)を求めた。さらにX軸,Y軸の重心動揺の時間変化に対して直線回帰を行い,回帰直線の傾きを重心移動の指標とした。重心移動の有意性の判定には,コントロール群においては,右方向および左方向への刺激による重心動揺結果の比較を,対応のあるt検定(有意水準5%)を用いて行った。CVA患者群においては,麻痺側と非麻痺側方向へのOKSによる重心動揺結果に対して同様な検定を行った。なお実験および解析には,MATLAB(Mathworks),およびStatView5.0(HULINKS社)を用いて行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての被検者に対して,実験の目的,方法,安全性について十分に説明を行い,同意を得られた者を対象とした。なお,本研究は健康科学大学及び湯村温泉病院の倫理委員会の承諾を得て行った。
【結果】
コントロール群では,右方向と左方向のOKSによって総軌跡長及びX軸・Y軸軌跡長に有意な差は認められなかった。X軸方向の重心移動の傾きは,左右の刺激方向による差はみられなかったが,刺激方向に重心点が傾いていく傾向が観察された。
CVA患者群においても,麻痺側方向と非麻痺側方向へのOKSによる総軌跡長及びX軸・Y軸軌跡長に有意差は認められなかった。重心移動の傾きにおいても,非麻痺側方向への刺激では,重心移動の傾きはほとんど観察されなかった。しかしながら,麻痺側方向のOKSにより,重心移動の傾きが麻痺側に移動する傾向を示した。非麻痺側方向への刺激による重心の傾きと比較して有意に大きい値(p<0.05)を示す結果となった。
【考察】
本研究では,OKSを用いてCVA患者と健常高齢者の重心動揺の違いを調べた。コントロール群は,左右方向へのOKSにより両方向ともに同程度の重心移動がみられた。これは,回旋性のOKSにより,身体が刺激方向に偏位するという先行研究と一致する結果となった。
一方,CVA患者においては,麻痺側方向のOKSにのみ重心移動が認められる結果となった。CVA患者は安静時において非麻痺側に荷重が偏るとされており,身体が正中位にあっても重心が非麻痺側に変位していることが知られている。したがって,重心点が移動可能な距離は非麻痺側にはほとんどないが,麻痺側に大きかったために非麻痺側方向のOKSを行っても,重心移動が生じないが,非麻痺側への刺激には,大きな重心移動が生じたと考えられる。
本研究で用いた麻痺側方向へのOKSは,CVA患者が非麻痺側を軸として方向転換を行うときに生じる外界の動きと類似している。方向転換時に,本研究で観察された麻痺側への重心移動が生じている可能性があり,方向転換時の転倒の要因の一つになっている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
OKSを用いて,CVA患者の重心点を麻痺側に移動させることが可能であることは治療という点で興味深い。立位姿勢において麻痺側への荷重量と歩行速度,ADL能力に正相関があることが報告されているが,本研究で示した左右方向へのOKSによる麻痺側への重心移動を繰り返す事によって,重心位置の矯正が可能となれば視覚入力を用いた新たなリハビリテーションの開発に繋がる可能性があると考えられる。