第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法14

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM ポスター会場 (神経)

座長:永井将太(金城大学医療健康学部理学療法学科)

神経 ポスター

[0655] 認知課題付加が脳卒中片麻痺者の静止立位時のCOP動揺と下腿筋同時活動に与える影響

植田耕造1,2, 菊地萌2, 坂元諒2, 大住倫弘1, 中野英樹1, 向井公一4, 矢田定明3, 森岡周1 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 2.星ヶ丘厚生年金病院リハビリテーション部, 3.星ヶ丘厚生年金病院リハビリテーション科, 4.四條畷学園大学リハビリテーション学部)

Keywords:脳卒中片麻痺者, 認知課題付加, COP動揺

【はじめに,目的】
近年,静止立位中の認知課題付加が脳卒中片麻痺者の姿勢制御に影響することが報告されている。しかしその影響は,全体的な動揺の増加(de Haart,2004)や減少(Hyndman,2009)と一定の見解を得ておらず,各下肢におけるCOP(center of foot pressure)動揺の変化や動揺が変化する原因も明確にはなっていない。
片麻痺者は足関節周囲の同時活動の増加により姿勢安定性を増加させているとの報告があり(Chow,2012),認知課題付加によりこの同時活動が変化することで姿勢制御の変化が起こっている可能性が考えられる。現に,認知課題付加により,若年者のヒラメ筋H反射の減少(Weaver,2012)や,高齢者の足関節stiffnessの減少(Kang,2010)が報告されており,認知課題付加により同時活動が減少している可能性がある。
本研究の目的は,脳卒中片麻痺者の静止立位における認知課題付加が,全体的なCOP動揺と,各下肢のCOP動揺や下腿筋の同時活動に及ぼす影響を調べることとした。
【方法】
対象は発症後6ヵ月以内の当院入院中の脳卒中後片麻痺者7名(平均年齢69.4±5.8歳,男性5,女性2名,右片麻痺2,左片麻痺5名,下肢Brunnstrom recovery stage4~6,介助なしで立位保持が20秒間可能な者)とした。対象者の歩行能力はFunctional Ambulation Categoriesで2~5であった。
まず,座位で認知課題(short term digit span memory task)を実施し,各被験者が最大限に記憶できる個数を評価し,その個数を用いて課題を2回実施し,座位での認知課題の成績を測定した。次に安静座位時20秒間の筋電図を測定した。
立位は両踵間9cm,足角30°とし,「普段通り立って下さい」と口頭指示したControl条件と,認知課題を実施しながらのDual条件の2条件を,Control,Dual条件の順に各2回ずつ実施し,その際の重心動揺と筋活動を測定した。
重心動揺測定はANIMA社製キネトグラビコーダG-7100を使用し,sampling周波数100Hzで測定した。評価項目は,全体COPのX,Y方向の単位軌跡長(cm/s),最大振幅(cm),平均振幅(cm)と,麻痺側(Paretic Side:PS),非麻痺側(non Paretic Side:nPS)のCOPのX,Y方向の単位軌跡長(cm/s),PS,nPSの荷重率とした。
筋活動測定は表面筋電図(酒井医療社製,MyoSystem1200)を使用し,両下肢の前脛骨筋,腓腹筋を対象としsampling周波数1KHzで測定した。座位,立位測定時に得た筋電図から,Chowら(Chow 2012)の方法を用い全波整流,フィルター処理後にcoactivation duration(CD)とcoactivation index(CI)を両足ともに算出した。なおCDは立位中の同時活動の期間を,CIは振幅を表している。
統計解析は,Control条件とDual条件の重心動揺計の各項目やCD,CIを,対応のあるt検定かWilcoxon符号付き順位検定を用いて比較した。有意水準は5%とし,10%以下を傾向有りとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての被験者に対して,研究内容を紙面および口頭にて説明し,同意を得た。なお本研究は本病院臨床研究審査委員会(番号1333)にて承認されている。
【結果】
Control条件に比べてDual条件で,全体COPのY方向の単位軌跡長は有意に増加(p=0.03),平均振幅は有意に減少(p=0.014),最大振幅は減少傾向(p=0.078)を示した。X方向の単位軌跡長,最大振幅,平均振幅は有意差を認めなかった(p>0.05)。
各下肢のX,Y方向の単位軌跡長は有意差を認めず(p>0.05),荷重率はnPSで増加傾向(p=0.057),PSで減少傾向(p=0.057)を示した。
各下肢のCDは有意差を認めず,CIはnPSにおいて減少傾向(p=0.079)を認めた。
【考察】
認知課題付加による姿勢制御の変化として,全体COPの結果から,左右方向は変化せず,前後方向のみでCOP動揺が狭い範囲で,より小さく速い動揺となることが示された。これはHyndmanら(Hyndman,2006,2009)による前後方向で特に減少するとの結果と一致している。小さく速いバランス調整は自動的な制御であると言われており(McNevin,2003),認知課題付加により,より自動的な立位制御になった結果であると考えられる。
しかし,PS,nPSで見てみると,nPSへの荷重が増加し,そのnPSのCIが減少したが,各下肢の前後,左右方向の重心動揺の値に変化を認めなかった。つまり,全体的な姿勢制御の変化を認めたことから,認知課題付加により片麻痺者の姿勢制御が変化することは示唆されるが,それは各下腿筋の同時活動やCOPの変化だけでは説明できないと考えられる。片麻痺者は両下肢COPの同期化が減少することが報告(Mansfield,2011)されており,このような両下肢間の関係性の変化や,身体の他の部位の筋活動の変化も影響する可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
認知課題付加が脳卒中片麻痺者の前後方向の動揺や,非麻痺側の同時活動を減少させる可能性があることを示した。