[0657] 長期療養高齢患者の運動機能が栄養状態に及ぼす影響(第一報)
キーワード:M-FIM, GNRI, 長期療養高齢患者
【はじめに】長期療養施設に入院している高齢者は,異化亢進状態により,身体活動量や食事摂取量が減少した結果,タンパク質・エネルギー低栄養状態に陥っていることが多い。この低栄養状態により,骨格筋量や脂肪量が減少し,同時に血清アルブミン値(Alb)も低下傾向にあるとされている。加えて,低下したAlbが高齢患者の運動機能に悪影響を及ぼすと報告されている。しかし,これまでの栄養評価はその独立した指標としてAlbを使用してきたが,近年体重を踏まえた総合的な栄養状態を捉えることが重要であるとされており,Albに体重を加味した栄養機能を評価するGeriatric Nutritional Risk Index(GNRI)が高齢者の栄養評価に用いられている。今回,GNRIを使用して,栄養サポートチーム(NST)介入前における当院介護保険療養病棟で長期療養中の高齢患者の運動機能(M-FIM)が栄養状態に及ぼす影響について調査することを本研究の目的とした。
【方法】対象は,当院におけるNST介入前の2007年4月から2011年3月までの4年間に長期療養を目的に入院された経口摂取可能な高齢者で,認知機能低下例を除く26例(男性5名・女性21名,84.8±8.8歳)であった。方法は,カルテ記載内容より,体重,BMI,Alb,運動機能としてM-FIM,FIMの認知機能(C-FIM),FIMの食事動作項目(E-FIM)を後方視的に抽出し,加えて,Albと体重を用いてBouillanneらの式より,GNRIを算出した。M-FIMは中央値である28点より高い群(M-FIM上位群)と低い群(M-FIM下位群)の2群に分類し,群間比較のため,対応のないt検定を用いた。さらに,M-FIMとGNRI,Alb,C-FIM,E-FIMとの関連性を調べるため,Pearsonの相関係数を用いて検討した。なお,有意水準は危険率5%未満とした。統計処理には,IBM SPSS statistics ver.19を使用した。
【倫理的配慮】本研究を実施するにあたり,ヘルシンキ宣言,厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針及び当法人の倫理規定に基づき,実施した。また用いたデータを匿名化し,個人情報管理に配慮した。
【結果】M-FIM上位群,下位群のGNRIは各々89.3±8.9,79.6±9.2,Alb(g/dl)は3.5±0.5,3.0±0.4,C-FIM(点)は17.7±6.4,10.4±4.7,E-FIM(点)は5.6±1.0,3.0±1.3であり,GNRI,Alb,C-FIM,E-FIMはM-FIM下位群より上位群で有意に高値であった(p<0.05)が,体重とBMIには有意差がなかった。また,M-FIMとGNRI及びAlbでは,各々r=0.479(p=0.013),r=0.491(p=0.011)と軽度の相関を示した。
【考察】NST介入前において,M-FIMの高低により,GNRI,Alb,C-FIM,E-FIMに有意差がみられたのは,M-FIM上位群がGNRI平均89.3と中等度の栄養障害であり,M-FIM下位群がGNRI平均79.6と重度な栄養障害であった。すなわち,リハビリテーション・ケア(リハ・ケア)の実施にあたり,栄養状態に対応した運動処方や運動負荷量の設定が困難であった結果,運動機能と栄養状態のバランスの崩れを招来し,これが運動機能の維持・改善,ひいては生活機能に負の影響を及ぼしたと推察された。若林は,栄養障害が重度な場合は機能維持もしくは栄養改善を優先し,栄養状態が改善中であれば機能改善を目標としたレジスタンストレーニングを体重や筋力をモニタリングしながら愛護的に実施することを推奨している。さらに,栄養障害が軽度~中等度の場合は適切な栄養管理の下での栄養改善と機能改善を目標にしている。また,栄養評価によるリハビリテーションの目標設定として,Alb3.6g/dl以上,BMI22前後であれば良好な栄養状態を維持しながら,積極的なリハ・ケアを実施し,Alb2.5g/dl以下,BMI16以下のような重度な栄養障害であってもエネルギー摂取量が十分で,栄養状態が改善中であれば積極的な運動療法で機能向上が可能であると述べている。本研究では,運動機能と栄養評価が関連性を示したように,M-FIM上位群においては適切な栄養管理下での機能改善を行い,M-FIM下位群においても機能維持もしくは栄養改善を優先することを多職種間でのリハ・ケアの目標に設定することが,長期療養高齢患者の運動機能を向上させるために必要である。長期療養高齢患者のリハ・ケアの展開において,運動負荷に伴う負の影響を招来するリスクを視野に入れると共に,栄養状態をバイタルサインの一指標として捉え,これに基づいた運動処方や運動負荷量の設定を行うことが,今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】長期療養中の高齢患者に対しては,総合的な栄養評価や最適な運動療法の目標設定を行うことに加えて,NSTを含めた多職種間での連携と協働による包括的なリハ・ケアの実施が重要である。
【方法】対象は,当院におけるNST介入前の2007年4月から2011年3月までの4年間に長期療養を目的に入院された経口摂取可能な高齢者で,認知機能低下例を除く26例(男性5名・女性21名,84.8±8.8歳)であった。方法は,カルテ記載内容より,体重,BMI,Alb,運動機能としてM-FIM,FIMの認知機能(C-FIM),FIMの食事動作項目(E-FIM)を後方視的に抽出し,加えて,Albと体重を用いてBouillanneらの式より,GNRIを算出した。M-FIMは中央値である28点より高い群(M-FIM上位群)と低い群(M-FIM下位群)の2群に分類し,群間比較のため,対応のないt検定を用いた。さらに,M-FIMとGNRI,Alb,C-FIM,E-FIMとの関連性を調べるため,Pearsonの相関係数を用いて検討した。なお,有意水準は危険率5%未満とした。統計処理には,IBM SPSS statistics ver.19を使用した。
【倫理的配慮】本研究を実施するにあたり,ヘルシンキ宣言,厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針及び当法人の倫理規定に基づき,実施した。また用いたデータを匿名化し,個人情報管理に配慮した。
【結果】M-FIM上位群,下位群のGNRIは各々89.3±8.9,79.6±9.2,Alb(g/dl)は3.5±0.5,3.0±0.4,C-FIM(点)は17.7±6.4,10.4±4.7,E-FIM(点)は5.6±1.0,3.0±1.3であり,GNRI,Alb,C-FIM,E-FIMはM-FIM下位群より上位群で有意に高値であった(p<0.05)が,体重とBMIには有意差がなかった。また,M-FIMとGNRI及びAlbでは,各々r=0.479(p=0.013),r=0.491(p=0.011)と軽度の相関を示した。
【考察】NST介入前において,M-FIMの高低により,GNRI,Alb,C-FIM,E-FIMに有意差がみられたのは,M-FIM上位群がGNRI平均89.3と中等度の栄養障害であり,M-FIM下位群がGNRI平均79.6と重度な栄養障害であった。すなわち,リハビリテーション・ケア(リハ・ケア)の実施にあたり,栄養状態に対応した運動処方や運動負荷量の設定が困難であった結果,運動機能と栄養状態のバランスの崩れを招来し,これが運動機能の維持・改善,ひいては生活機能に負の影響を及ぼしたと推察された。若林は,栄養障害が重度な場合は機能維持もしくは栄養改善を優先し,栄養状態が改善中であれば機能改善を目標としたレジスタンストレーニングを体重や筋力をモニタリングしながら愛護的に実施することを推奨している。さらに,栄養障害が軽度~中等度の場合は適切な栄養管理の下での栄養改善と機能改善を目標にしている。また,栄養評価によるリハビリテーションの目標設定として,Alb3.6g/dl以上,BMI22前後であれば良好な栄養状態を維持しながら,積極的なリハ・ケアを実施し,Alb2.5g/dl以下,BMI16以下のような重度な栄養障害であってもエネルギー摂取量が十分で,栄養状態が改善中であれば積極的な運動療法で機能向上が可能であると述べている。本研究では,運動機能と栄養評価が関連性を示したように,M-FIM上位群においては適切な栄養管理下での機能改善を行い,M-FIM下位群においても機能維持もしくは栄養改善を優先することを多職種間でのリハ・ケアの目標に設定することが,長期療養高齢患者の運動機能を向上させるために必要である。長期療養高齢患者のリハ・ケアの展開において,運動負荷に伴う負の影響を招来するリスクを視野に入れると共に,栄養状態をバイタルサインの一指標として捉え,これに基づいた運動処方や運動負荷量の設定を行うことが,今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】長期療養中の高齢患者に対しては,総合的な栄養評価や最適な運動療法の目標設定を行うことに加えて,NSTを含めた多職種間での連携と協働による包括的なリハ・ケアの実施が重要である。