第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

その他1

2014年5月30日(金) 18:05 〜 18:55 第5会場 (3F 303)

座長:菅原慶勇(市立秋田総合病院リハビリテーション科)

内部障害 口述

[0658] 栄養状態が施設入所要介護高齢者の身体機能・日常生活活動能力におよぼす影響

加茂智彦1,2, 髙山慶太3, 若林秀隆4, 石井秀明2, 石田武希2 (1.介護老人保健施設さくらの苑, 2.聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科, 3.聖隷藤沢愛光園ケアサービス課, 4.横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)

キーワード:栄養状態, パス解析, 施設入所者

【はじめに,目的】
高齢者にみられる低栄養は生理的機能の低下とともに身体機能の低下を引き起こす。また,身体機能の低下はADL低下を引き起こし,死亡率の増加,QOL低下を招くことになる。このようにリハビリと栄養は相互関係になっており,切っても切り離せない関係である。しかし,栄養状態が悪化し身体機能が低下,ADLの低下が引き起こされるのか,身体機能が低下し,栄養状態が悪化,ADLが低下するのか明らかになっていない。そこで,本研究では栄養状態が身体機能を介してADLに影響を与えるのか,もしくは身体機能が栄養状態を介してADLに影響を与えるのかをパス解析を用いて検討した。
【方法】
対象は施設入所している要介護高齢者191名の内,脳卒中発症から6ヶ月以内,骨折受傷や手術後3カ月未満,悪性腫瘍を呈している方を除外し,すべての測定項目が実施可能であった175名(男性:25名,女性:150名)とした。測定項目は,年齢,BI,MMSE,簡易栄養状態評価表(MNA),SPPB(Short Physical Performance Battery),四肢骨格筋肉量(AMM)とした。四肢骨格筋肉量は生体電気インピーダンス法にて測定した。栄養状態が身体機能を介してADLに影響を与えるのか(モデル1),身体機能が栄養状態を介してADLに影響を与えるのか(モデル2)を二つのパス図を用いて,モデル適合度により検討した。モデル適合度はχ2,GFI,AGFI,RMSEAを用いて判断した。統計処理は,IBM SPSS Statistics19とIBM SPSS Amos19を用いて行い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全対象者または家族に研究の目的および測定に関する説明を十分に行い,口頭または書面にて同意を得た。
【結果】
対象者の年齢は86.6±7.5歳,身長は151.0±6.3cm,体重は42.9±7.9kg,BMIは18.7±2.9,介護度は3.3±1.3,BIは40.0(15-60)点,MMSEは12.0(0-20)点,MNAは17.2±3.9点,SPPBは1.4±2.7点,筋肉量は5.6±0.6kgであった。栄養状態が身体機能を介してADLに影響を与えるという仮説モデル(モデル1)のモデル適合度であるχ2,GFI,AGFI,RMSEAの値は,それぞれ,9.993(p=0.075),0.98,0.92,0.076であった。身体機能が栄養状態を介してADLに影響を与えるという仮説モデル(モデル2)のχ2,GFI,AGFI,RMSEAの値は,それぞれ,13.487(p<.05),0.96,0.89,0.099であった。先行研究より,χ2はp>.05,GFIは0.90以上,AGFIは0.90以上,RMSEAは0.08以下がモデル適合度の基準として示されており,本研究のモデル1はすべて基準を満たしていた。しかし,モデル2は基準を満たしていなかった。このことから,栄養状態が身体機能を介してADLに影響を与えるという仮説モデル(モデル1)を採用した。モデル1のパス図において,MNAがBIに直接影響を与える指標である標準化直接効果は0.23であった。また,MNAがSPPBを介し,BIに間接的に与える影響を示す指標である標準化間接効果は0.42であった。MNAがBIに直接与える影響と,SPPBを介して影響を与える間接的影響を総合した標準化総合効果は0.66であった。MMSEとSPPBがBIに与える標準化総合効果はそれぞれ0.38,0.53であった。
【考察】
本研究では二つのパス図を比較することで,栄養状態が悪化し身体機能が低下,ADLの低下が引き起こされるのか,身体機能が低下し,栄養状態が悪化,ADLが低下するのか明らかにした。本研究の結果から,身体機能が栄養状態を介してADLに影響を与えるというメカニズムではなく,栄養状態が身体機能を介してADLに影響を与えるというメカニズムが明らかになった。先行研究から,栄養状態の悪化がADL能力を低下させることが報告されているが,本研究の結果から,栄養状態の悪化が身体機能の低下を引き起こし,その結果ADL能力の低下を引き起こしていることが明らかになった。また,栄養状態がADL能力に直接与える影響よりも,身体機能を介して間接的に与える影響の方が大きいことが明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,身体機能が栄養状態を介してADLに影響を与えるというメカニズムではなく,栄養状態が身体機能を介してADLに影響を与えるというメカニズムが明らかになった。また,ADL能力の改善には身体機能だけでなく栄養状態の改善が必要であると考えられ,リハビリ職種がリハビリにおいても栄養状態を考慮する必要があると考えられる。今後は,前向きコホートなどで更なる要因を検討していく必要があると考えられる。