第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

その他1

Fri. May 30, 2014 6:05 PM - 6:55 PM 第5会場 (3F 303)

座長:菅原慶勇(市立秋田総合病院リハビリテーション科)

内部障害 口述

[0659] 回復期リハビリテーション病棟に入院する高齢脳卒中患者の栄養管理における下腿最大周径測定の意義

今井正樹1,2, 小暮英輔1, 榎本洋司1, 福田千佳志1, 西田裕介2 (1.慈誠会徳丸リハビリテーション病院, 2.聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科)

Keywords:栄養管理, 下腿最大周径, 脳卒中

【はじめに】ヒトの栄養状態の把握には,血清アルブミン値(以下Alb)と他の栄養指標を組み合わせて,包括的に評価を行うことが薦められている。簡便に全身骨格筋量を測定する方法として,これまで上腕筋囲径(以下,AMC)と下腿最大周径(以下MCC)についての報告がある。しかし,回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)における高齢脳卒中患者は,老化に伴う筋量減少(以下サルコペニア),発症後の機能障害に伴う廃用性筋萎縮,中枢性の筋の組織学的変化など神経・筋の変化が生じていることが考えられ,身体計測値の妥当性について検討を行う必要がある。本研究は,「回復期病棟の高齢脳卒中患者の栄養状態は,MCCにより反映される」を仮説として,患者の栄養状態をBMIと定義し,MCCのBMIへの影響度および独立変数としての有意性について検討した。
【方法】対象は2013年8月31日時点で在院していた当院回復期病棟患者124名のうち,脳卒中患者80名から回復期対象外の患者と65歳未満の患者を除く67名(男性40名,女性27名)とした。カルテ情報から年齢・発症日・測定日に最も近い日の血液生化学検査情報(Alb,CRP)・体重を抽出して,患者の基礎データとした。身体計測については,対象者に対して担当理学療法士が身長・上腕周囲長・上腕三頭筋皮下脂肪厚・MCCの測定を行い,測定値からAMCおよびBody Mass Index(以下BMI)を算出した。身長は原則背臥位での測定としたが,円背など関節の変形により実測が困難な患者に対しては久保らの研究による身長の推定式より算出した。MCCは西田らの研究より,坐位姿勢で腓骨頭下端と外果中央を結ぶ下腿長を100%とした時の腓骨頭下端から26%地点を最大膨隆部として測定した。身体計測はそれぞれ2回行い,平均値を採用した。測定する上肢・下肢については,脳卒中後の片麻痺患者は非麻痺側,それ以外の者は両側を測定し数値の大きい方を採用した。測定したAMC・MCCについては,日本人の新身体計測基準値の年代別の平均値に対するパーセンテージに変換し,%AMCおよび%MCCとして補正した。統計学的分析として,従属変数をBMI,独立変数を年齢,Alb,%AMC,%MCCとしてステップワイズ法にて独立変数を選択した後,重回帰分析にて重回帰式を算出した。有意水準は全て5%未満とした。統計ソフトはR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮】本研究を行うにあたり,ヘルシンキ宣言および個人情報保護法に沿ってカルテの調査を行い,調査内容が院外に流出しないように細心の注意を払った。
【結果】対象者67名の基礎データは,年齢76.2±6.9歳,BMI21.3±1.7 kg/m2,Alb3.6±0.5g/dl,CRP0.6±1.0mg/dlであり,年齢・BMIに男女間の有意差は認められなかった。発症から測定日までの期間は105.2±50.2日だった。ステップワイズ法にて独立変数を選択した結果,決定変数はMCC,年齢の順で選択された。これらの変数を用いた重回帰分析によるBMIの推定式はBMI=7.36+0.24×%MCC-0.13×年齢だった。標準偏回帰係数は%MCCが0.76,年齢が-0.28であり,この式の決定係数は0.60だった。
【考察】本研究の仮説に対して,重回帰分析の結果から%MCCがBMIを構成する要因として有意性および影響度の高さが認められ,仮説は成立した。この重回帰式の解釈として,全身骨格筋量の指標としての%MCCの数値が大きい程栄養状態は良好であり,加齢に伴い栄養状態は悪化していくと考える。また決定係数0.60という結果から適合性の高さについても認められ,高齢脳卒中患者における%MCCが全身骨格筋量を評価する指標となることが示唆された。バイオインピーダンス法(以下BI法)を用いた先行研究では,脳卒中患者と健常者を比較して非麻痺側上下肢の筋量は健常者と有意な差がなく保たれていたこと,またサルコペニアについての先行研究では,男女とも下腿囲とBMIが強い正の相関関係を示したとの報告があり,本研究の結果は先行研究の結果を支持するものと考える。研究の限界として,本研究で行った身体計測法は簡便に体格や全身骨格筋量の指標を示すものであり,身体計測のみでは正確な身体組成や栄養状態を示すことは困難であると考える。ステップワイズ法により決定変数から除外された%AMCも含めて,BI法など身体計測と比べて精度の高い身体組成の評価により検討を行っていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究より,高齢脳卒中患者の栄養状態はメジャーひとつで簡便に測定可能なMCCと年齢から捉えられることが示唆された。理学療法士が運動処方する際は,加齢の影響やAlbの変化など全身状態を捉えて負荷量を調整し,全身骨格筋量を増加させていくように運動療法と栄養療法を併用することで患者の機能回復が期待されると考える。