[0660] 腰椎疾患周術期に生じる体幹筋萎縮に関する検討
Keywords:腹直筋萎縮量, 周術期炎症状態, 術前栄養状態
【はじめに】
昨今,リハビリテーションと栄養管理の関係が注目されるようになり,その重要性が謳われている。その中で筆者らは,第48回理学療法学術大会にて整形外科疾患周術期の筋萎縮程度に関する報告を行った。周術期に筋萎縮(筋蛋白異化)が生じる要因としては,「炎症性ストレス」「飢餓」「廃用」などが挙げられるが,筋萎縮に影響を与える主因子については明らかになっていない。周術期に生じる筋萎縮に大きく関与する因子が明らかになれば,整形外科疾患周術期のリハビリ効果をより高める事が出来る可能性がある。そこで今回は,腰椎疾患周術期症例の腹直筋萎縮量の調査,及び筋萎縮量と周術期炎症状態,筋萎縮量と術前栄養状態の関係性について着目し分析を行った。
【方法】
対象は2012年8月から2013年11月までに当院にて腰椎手術を施行した者18名(男性9例,女性9例,年齢(Mean±SD)62±17.1歳,身長161±9.93cm,体重62.2±12.13kg,BMI23.8±2.46,在院日数12.6±3.2日)とした。腹直筋萎縮量に関しては,超音波診断装置(HITACHI社製EUB-5500)にて筋厚を測定して評価した。測定部位は臍部中央より側方5cm部とした。測定は術前(Pre)と術後7日目(Post)に行い,Pre値とPost値の差を腹直筋萎縮量と定義した。周術期炎症状態に関しては,C反応性蛋白(C-Reactive protein:以下,CRP値),白血球数(White Blood Cell:以下WBC)をカルテより後方視的に調査し,術後一週間内のPeak値を代表値とした。術前栄養状態に関しては,血清アルブミン値(以下,Alb値)とMini Nutritional Assesment(以下,MNA)にて評価を行った。統計処理に関しては,腹直筋萎縮量はPre値とPost値を比較し,Wilcoxon符号付順位検定にて解析した。筋萎縮量と周術期炎症状態,及び筋萎縮量と術前栄養状態の関係性については,Spearmanの順位相関係数を用いて解析した。全ての解析の有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
本研究は,対象者に書面と口頭にて研究目的・方法を説明し,署名にて同意を得た。また本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。
【結果】
超音波診断装置による腹直筋厚測定の級内相関係数(ICC1:1)はp=0.998であり,高い信頼性が得られた。腹直筋厚に関してはPre:8.9±2.58mm,Post:8.4±2.39mmであり,腹直筋萎縮量は0.43±0.595mmであった。検定の結果,腹直筋は術後有意に萎縮した(P<0.01)。周術期炎症状態に関しては,CRP値のPeak値は4.3±3.58mg/dl,WBCのPeak値は9633±3301.5µlであった。術前栄養状態に関しては,術前Alb値は4.4±0.27g/dlであり全例で3.8g/dl以上であった。術前MNA scoreは24.8±2.98であり,栄養状態良好が11名,At riskが7名であった。Alb値は全例で基準値範囲内であったため,術前栄養状態の評価はMNAのみ採用した。検定の結果,腹直筋萎縮量とCRP値及びWBC,腹直筋萎縮量とMNA Scoreの間に相関関係は認めなかった。
【考察】
腰椎疾患周術期症例の腹直筋は,術後7日目までに萎縮が生じる可能性が示唆された。よって,整形外科疾患周術期においても筋蛋白異化亢進が起こる可能性が示唆された。しかし今回の研究モデルにおいては,周術期炎症反応の強さと腹直筋萎縮量の関係性は見出せなかった。一般的に,周術期の筋蛋白異化は破壊された細胞治癒などの為に生じ,炎症の強さに比例して筋蛋白異化が亢進するとされているが,整形外科疾患周術期においては炎症の強さと筋萎縮量は必ずしも一致しない可能性が示唆された。また,腹直筋萎縮量とMNA Scoreも同様に相関関係を認めなかった。今回は全例が術前Alb値3.8以上,MNAで低栄養と分類される者もいなかった。よって今回の研究結果のみを見れば,栄養状態の良い整形外科疾患周術期症例に栄養管理を行う必要性は見出せなかった。しかし低栄養症例はその限りでは無い可能性があるため,検討の余地があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は整形外科疾患症例に対し,適切なリハビリテーションと栄養管理を行う事を目的とした基礎研究である。本研究では,腰椎疾患周術期の筋萎縮と周術期炎症状態,及び術前栄養状態との関係性は見出せなかった。しかし,低栄養症例や術後摂取エネルギー不良例の場合は,この限りでは無い可能性がある。今後症例数を増やすと共に,低栄養状態である整形外科疾患周術期症例の術後反応や因子分析,痛みや日常生活動作への影響の調査,及び各種介入研究等も行っていきたいと考える。
昨今,リハビリテーションと栄養管理の関係が注目されるようになり,その重要性が謳われている。その中で筆者らは,第48回理学療法学術大会にて整形外科疾患周術期の筋萎縮程度に関する報告を行った。周術期に筋萎縮(筋蛋白異化)が生じる要因としては,「炎症性ストレス」「飢餓」「廃用」などが挙げられるが,筋萎縮に影響を与える主因子については明らかになっていない。周術期に生じる筋萎縮に大きく関与する因子が明らかになれば,整形外科疾患周術期のリハビリ効果をより高める事が出来る可能性がある。そこで今回は,腰椎疾患周術期症例の腹直筋萎縮量の調査,及び筋萎縮量と周術期炎症状態,筋萎縮量と術前栄養状態の関係性について着目し分析を行った。
【方法】
対象は2012年8月から2013年11月までに当院にて腰椎手術を施行した者18名(男性9例,女性9例,年齢(Mean±SD)62±17.1歳,身長161±9.93cm,体重62.2±12.13kg,BMI23.8±2.46,在院日数12.6±3.2日)とした。腹直筋萎縮量に関しては,超音波診断装置(HITACHI社製EUB-5500)にて筋厚を測定して評価した。測定部位は臍部中央より側方5cm部とした。測定は術前(Pre)と術後7日目(Post)に行い,Pre値とPost値の差を腹直筋萎縮量と定義した。周術期炎症状態に関しては,C反応性蛋白(C-Reactive protein:以下,CRP値),白血球数(White Blood Cell:以下WBC)をカルテより後方視的に調査し,術後一週間内のPeak値を代表値とした。術前栄養状態に関しては,血清アルブミン値(以下,Alb値)とMini Nutritional Assesment(以下,MNA)にて評価を行った。統計処理に関しては,腹直筋萎縮量はPre値とPost値を比較し,Wilcoxon符号付順位検定にて解析した。筋萎縮量と周術期炎症状態,及び筋萎縮量と術前栄養状態の関係性については,Spearmanの順位相関係数を用いて解析した。全ての解析の有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
本研究は,対象者に書面と口頭にて研究目的・方法を説明し,署名にて同意を得た。また本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。
【結果】
超音波診断装置による腹直筋厚測定の級内相関係数(ICC1:1)はp=0.998であり,高い信頼性が得られた。腹直筋厚に関してはPre:8.9±2.58mm,Post:8.4±2.39mmであり,腹直筋萎縮量は0.43±0.595mmであった。検定の結果,腹直筋は術後有意に萎縮した(P<0.01)。周術期炎症状態に関しては,CRP値のPeak値は4.3±3.58mg/dl,WBCのPeak値は9633±3301.5µlであった。術前栄養状態に関しては,術前Alb値は4.4±0.27g/dlであり全例で3.8g/dl以上であった。術前MNA scoreは24.8±2.98であり,栄養状態良好が11名,At riskが7名であった。Alb値は全例で基準値範囲内であったため,術前栄養状態の評価はMNAのみ採用した。検定の結果,腹直筋萎縮量とCRP値及びWBC,腹直筋萎縮量とMNA Scoreの間に相関関係は認めなかった。
【考察】
腰椎疾患周術期症例の腹直筋は,術後7日目までに萎縮が生じる可能性が示唆された。よって,整形外科疾患周術期においても筋蛋白異化亢進が起こる可能性が示唆された。しかし今回の研究モデルにおいては,周術期炎症反応の強さと腹直筋萎縮量の関係性は見出せなかった。一般的に,周術期の筋蛋白異化は破壊された細胞治癒などの為に生じ,炎症の強さに比例して筋蛋白異化が亢進するとされているが,整形外科疾患周術期においては炎症の強さと筋萎縮量は必ずしも一致しない可能性が示唆された。また,腹直筋萎縮量とMNA Scoreも同様に相関関係を認めなかった。今回は全例が術前Alb値3.8以上,MNAで低栄養と分類される者もいなかった。よって今回の研究結果のみを見れば,栄養状態の良い整形外科疾患周術期症例に栄養管理を行う必要性は見出せなかった。しかし低栄養症例はその限りでは無い可能性があるため,検討の余地があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は整形外科疾患症例に対し,適切なリハビリテーションと栄養管理を行う事を目的とした基礎研究である。本研究では,腰椎疾患周術期の筋萎縮と周術期炎症状態,及び術前栄養状態との関係性は見出せなかった。しかし,低栄養症例や術後摂取エネルギー不良例の場合は,この限りでは無い可能性がある。今後症例数を増やすと共に,低栄養状態である整形外科疾患周術期症例の術後反応や因子分析,痛みや日常生活動作への影響の調査,及び各種介入研究等も行っていきたいと考える。