[0665] 要介護高齢者におけるショートステイ入所前・中・後の機能的状態の差異についての検討
Keywords:要介護高齢者, ショートステイ, 機能
【はじめに,目的】
近年,要介護高齢者は増加しており,要介護高齢者の在宅生活継続のための有効な支援についての検討は急務となっている。施設入所を遅らせ,少しでも長く在宅生活を継続するには,施設などに短期間入所するショートステイサービスを利用することで,介護者が介護疲れからリフレッシュをはかることも重要となる。しかし,ショートステイを利用することで,要介護高齢者の機能的状態が悪化すれば,在宅生活の継続を逆に阻害することになる可能性がある。これまでにも海外では2週間程度の入所前後の調査により,高齢者のADLや問題行動の変化の有無や程度について報告があるが(Hirschら,1993;Nevilleら,2006),一定した見解は示されていない。国内では,ショートステイを利用する要介護高齢者に関して入所前・中・後で比較検討したものはなく,要介護高齢者の機能的状態が一時的な転居(relocation)に伴いどのような差異が生じるのかについては十分に検討されていない。本研究の目的は,ショートステイ入所前,入所中,入所後における要介護高齢者の機能的状態を記述するために,各時点のADLおよび行動心理・精神症状を比較することである。
【方法】
対象は,普段は在宅で生活し,平成25年7月~10月までの期間に当院併設の介護老人保健施設のショートステイを利用した要介護高齢者26名(男性9名,女性17名),平均年齢は84.6±10.7歳,平均要介護度は2.7±1.3であった。除外基準は,緊急利用となった者,病状の不安定な者や急な体調の変化が生じた者,施設への退所者,病院や施設からの入所者,独居で普段の生活の様子を観察できる介護者がいない者,介護者から正確な情報を得ることが困難な者,研究の同意が得られない者とした。調査は,ショートステイ入所前後については主介護者に調査票を渡し,入所中については施設の介護職員に調査票を渡し記載してもらうことで行った。記載内容は,入所前については入所前々日から前日の様子,入所中については退所前日から退所日の様子,入所後については退所翌日から翌々日の様子とした。評価項目は,ADLの指標としてBarthel Index(以下BI),抑うつ状態の指標としてCornell Scale for Depression in Dementia(以下CSDD),行動心理症状の指標としてNeuropsychiatric Inventory(以下NPI),意欲の指標としてVitality Index(以下VI)を用いた。CSDDとNPIについては点数が高くなるほど症状が重症であることを示す。統計学的検定は,ショートステイ入所前・中・後の差異を調べるために,総計ソフトSPSS 18.0 Jを用いてFriedman検定,その後の多重比較,Wilcoxon検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究計画は兵庫医科大学の倫理審査委員会の承認(第1484号)と吉備国際大学の倫理審査委員会の承認(13-08)を得た。調査依頼者には本研究の意義・方法・不利益等を文書と口頭で説明し,文書による同意を得た。
【結果】
ショートステイを利用している要介護高齢者のBIの値は,入所前・中・後の順に,45.8±28.0,53.7±28.1,48.3±29.5であり,入所前と比べ入所中では有意に高値であった(p<0.05)。CSDDの値は,入所前・中・後の順に,7.3±5.3,4.3±3.6,5.9±4.9であり,入所前と比べ入所中では有意に低値を示した(p<0.05)。NPIの値は,入所前・中・後の順に,6.1±9.0,3.5±5.9,3.8±6.0,VIの値は7.3±2.5,6.6±2.7,7.3±2.5であり,どちらも有意な差は認めなかった。
【考察】
BIとCSDDにおいては,入所前の自宅と比べ入所中の施設では改善の傾向が認められた。施設では人的・物理的環境が充当しており,要介護高齢者のADLをより引き出せる状況である可能性が考えられた。また,施設では抑うつ状態が過小評価される可能性が考えられた。入所後については,入所前と比べ有意な変化はみられず,介護老人保健施設への一時的な転居が機能的状態の悪化をもたらしていない可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
ショートステイは,要介護高齢者が少しでも長く在宅生活を継続していくために重要な役割を果たしており,理学療法士にもより効果的な関わりが求められている。今回の結果は,理学療法士が短期入所サービスで果たすべき適切な評価とマネージメントの意義の手がかりになると考える。
近年,要介護高齢者は増加しており,要介護高齢者の在宅生活継続のための有効な支援についての検討は急務となっている。施設入所を遅らせ,少しでも長く在宅生活を継続するには,施設などに短期間入所するショートステイサービスを利用することで,介護者が介護疲れからリフレッシュをはかることも重要となる。しかし,ショートステイを利用することで,要介護高齢者の機能的状態が悪化すれば,在宅生活の継続を逆に阻害することになる可能性がある。これまでにも海外では2週間程度の入所前後の調査により,高齢者のADLや問題行動の変化の有無や程度について報告があるが(Hirschら,1993;Nevilleら,2006),一定した見解は示されていない。国内では,ショートステイを利用する要介護高齢者に関して入所前・中・後で比較検討したものはなく,要介護高齢者の機能的状態が一時的な転居(relocation)に伴いどのような差異が生じるのかについては十分に検討されていない。本研究の目的は,ショートステイ入所前,入所中,入所後における要介護高齢者の機能的状態を記述するために,各時点のADLおよび行動心理・精神症状を比較することである。
【方法】
対象は,普段は在宅で生活し,平成25年7月~10月までの期間に当院併設の介護老人保健施設のショートステイを利用した要介護高齢者26名(男性9名,女性17名),平均年齢は84.6±10.7歳,平均要介護度は2.7±1.3であった。除外基準は,緊急利用となった者,病状の不安定な者や急な体調の変化が生じた者,施設への退所者,病院や施設からの入所者,独居で普段の生活の様子を観察できる介護者がいない者,介護者から正確な情報を得ることが困難な者,研究の同意が得られない者とした。調査は,ショートステイ入所前後については主介護者に調査票を渡し,入所中については施設の介護職員に調査票を渡し記載してもらうことで行った。記載内容は,入所前については入所前々日から前日の様子,入所中については退所前日から退所日の様子,入所後については退所翌日から翌々日の様子とした。評価項目は,ADLの指標としてBarthel Index(以下BI),抑うつ状態の指標としてCornell Scale for Depression in Dementia(以下CSDD),行動心理症状の指標としてNeuropsychiatric Inventory(以下NPI),意欲の指標としてVitality Index(以下VI)を用いた。CSDDとNPIについては点数が高くなるほど症状が重症であることを示す。統計学的検定は,ショートステイ入所前・中・後の差異を調べるために,総計ソフトSPSS 18.0 Jを用いてFriedman検定,その後の多重比較,Wilcoxon検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究計画は兵庫医科大学の倫理審査委員会の承認(第1484号)と吉備国際大学の倫理審査委員会の承認(13-08)を得た。調査依頼者には本研究の意義・方法・不利益等を文書と口頭で説明し,文書による同意を得た。
【結果】
ショートステイを利用している要介護高齢者のBIの値は,入所前・中・後の順に,45.8±28.0,53.7±28.1,48.3±29.5であり,入所前と比べ入所中では有意に高値であった(p<0.05)。CSDDの値は,入所前・中・後の順に,7.3±5.3,4.3±3.6,5.9±4.9であり,入所前と比べ入所中では有意に低値を示した(p<0.05)。NPIの値は,入所前・中・後の順に,6.1±9.0,3.5±5.9,3.8±6.0,VIの値は7.3±2.5,6.6±2.7,7.3±2.5であり,どちらも有意な差は認めなかった。
【考察】
BIとCSDDにおいては,入所前の自宅と比べ入所中の施設では改善の傾向が認められた。施設では人的・物理的環境が充当しており,要介護高齢者のADLをより引き出せる状況である可能性が考えられた。また,施設では抑うつ状態が過小評価される可能性が考えられた。入所後については,入所前と比べ有意な変化はみられず,介護老人保健施設への一時的な転居が機能的状態の悪化をもたらしていない可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
ショートステイは,要介護高齢者が少しでも長く在宅生活を継続していくために重要な役割を果たしており,理学療法士にもより効果的な関わりが求められている。今回の結果は,理学療法士が短期入所サービスで果たすべき適切な評価とマネージメントの意義の手がかりになると考える。