[0667] 心臓外科における術前呼吸リハビリテーションと術後肺炎の関連について
Keywords:心臓外科手術, 呼吸リハビリテーション, 肺炎予防
【はじめに,目的】
術前の呼吸機能や運動耐容能は,耐術能を規定し術後呼吸器合併症を予防すると言われており,術前呼吸リハビリテーションを行うことで,呼吸機能や運動耐容能向上させることは低肺機能・低体力患者にとって重要である。しかし心臓外科領域で手術の対象となる患者は,リスクが非常に高く呼吸法指導やオリエンテーションは可能であっても運動療法を行い運動耐容能を改善させることは困難であった。私たちは過去の研究で,術後肺炎の要因にせん妄,拘束性換気障害,混合性換気障害,端座位開始日の遅延,を認め報告した。今回の研究の目的は,上記呼吸器障害を呈する患者に術前呼吸リハビリテーションを導入し術後肺炎の発症が軽減したか否かを検討することである。
【方法】
対象は2006年7月から2013年6月の間に入院し,開胸手術を施行した1150例とし緊急手術例,術前呼吸機能検査が測定できていないものは除外した。術前呼吸リハビリテーションを施行していなかった2006年7月~2011年6月の751例(以下,未施行群)と術前呼吸リハビリテーションを開始した2011年7月~2013年6月の399例(以下,施行群)の2群にわけた。調査項目は,年齢,NYHA分類,BMI,術前呼吸機能検査から得られた%VC,FEV1%,FEV1L,混合性換気障害の有病率,手術時間,出血量,挿管時間,手術後から端座位開始日・歩行開始日・歩行自立日,合併症としてせん妄・肺炎発症率とした。せん妄,肺炎の定義は,合併症としてカルテに記載されているものとした。2群間の比較をχ2検定,対応のないt検定で行い,統計危険率5%を有意水準とした。次に術前呼吸リハビリテーションの効果を検討した。施行群の中で,先行研究の結果より拘束性換気障害例,混合性換気障害例に適応した8例とした。調査項目は,術前呼吸リハビリテーション施行日数,術前呼吸機能検査から得られた%VC,FEV1%,FEV1L,6分間歩行試験を入院直後と手術直前で評価を行った。2群間を対応のあるt検定で行い解析にはIBM SPSS Statistics Version 19を使用し,統計危険率5%を有意水準とした。術前呼吸リハビリテーションの内容は,オリエンテーション,呼吸・咳嗽法指導,筋力増強練習,有酸素運動を行い,頻度は入院日から手術日まで休日を除き施行した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言,当院臨床研究に関する倫理指針,患者の同意を得て医の倫理委員会の承認(1340号)を得て行った。
【結果】
未施行群と施行群の検討では,手術時間(分)345.3±277.2vs306.2±113.8,端座位開始日2.0±3.0vs1.7±1.2,せん妄(%)4vs2,術後肺炎(%)5vs2で有意差を認めた。術前呼吸リハビリテーションの検討では,術前呼吸リハビリテーション日数は11.8±4.8日であった。経時的変化では%VC 66.6±28.0vs79.0±22.7,FEV1L0.8±0.2vs1.0±0.3,6MWT(m)251.5±68.1vs322.8±50.6で有意差を認め,その他の項目では有意差を認めなかった。
【考察】
今回の検討では,術後肺炎は術前呼吸リハビリテーションを導入前で5%,術前呼吸リハビリテーションを導入後で2%へ減少し有意差を認めた。術後肺炎の発症を低下させたのは,①術前の呼吸機能を向上させ術後の呼吸機能低下に備えることが可能であったこと②術前呼吸リハビリテーションによる運動耐容能改善により周術期のいわゆる体力低下を最小限に抑えることが可能となり早期離床が円滑に進んだことによるものと考えた。①については,術前呼吸リハビリテーションを行うことで%VC,FEV1Lや6分間歩行距離の向上を認めdeconditioningを改善することが可能で運動耐容能の増加を認めた。高橋らは,術直後の平均肺活量は術前の48%,1週間で72.1%と胸郭・肺のコンプライアンスは低下し,術前までの回復に時間がかかることを報告しており,術後の呼吸機能低下は肺炎発症を上昇させるが,術前呼吸機能向上させ予備力を備えたことで術後肺炎の発症を減少させたと考えた。②については,今回の検討では術前の背景因子や術後のリハビリテーションの進行状況に有意差は認めなかった。つまり術後肺炎の発症が低下したのは,周術期の体力低下を最小限に抑えることで,早期離床が進みせん妄発症を軽減できたためと考えた。佐藤らによると,重度の呼吸器障害をもった心疾患患者でも,術前呼吸リハビリテーションを行うことで有用な効果が期待できると報告しており,当院でも同様の結果を得ることができた。本研究の限界として,術前呼吸リハビリテーション以外にも,薬物療法・医療技術の進歩等の影響もあり単独効果とは言えないのが現状である。
【理学療法学研究としての意義】
今後は以前適応ではなかった低肺機能を有する患者に対する心臓外科手術が増加することが予想され,理学療法の方法の一つとして役立つと思われる。
術前の呼吸機能や運動耐容能は,耐術能を規定し術後呼吸器合併症を予防すると言われており,術前呼吸リハビリテーションを行うことで,呼吸機能や運動耐容能向上させることは低肺機能・低体力患者にとって重要である。しかし心臓外科領域で手術の対象となる患者は,リスクが非常に高く呼吸法指導やオリエンテーションは可能であっても運動療法を行い運動耐容能を改善させることは困難であった。私たちは過去の研究で,術後肺炎の要因にせん妄,拘束性換気障害,混合性換気障害,端座位開始日の遅延,を認め報告した。今回の研究の目的は,上記呼吸器障害を呈する患者に術前呼吸リハビリテーションを導入し術後肺炎の発症が軽減したか否かを検討することである。
【方法】
対象は2006年7月から2013年6月の間に入院し,開胸手術を施行した1150例とし緊急手術例,術前呼吸機能検査が測定できていないものは除外した。術前呼吸リハビリテーションを施行していなかった2006年7月~2011年6月の751例(以下,未施行群)と術前呼吸リハビリテーションを開始した2011年7月~2013年6月の399例(以下,施行群)の2群にわけた。調査項目は,年齢,NYHA分類,BMI,術前呼吸機能検査から得られた%VC,FEV1%,FEV1L,混合性換気障害の有病率,手術時間,出血量,挿管時間,手術後から端座位開始日・歩行開始日・歩行自立日,合併症としてせん妄・肺炎発症率とした。せん妄,肺炎の定義は,合併症としてカルテに記載されているものとした。2群間の比較をχ2検定,対応のないt検定で行い,統計危険率5%を有意水準とした。次に術前呼吸リハビリテーションの効果を検討した。施行群の中で,先行研究の結果より拘束性換気障害例,混合性換気障害例に適応した8例とした。調査項目は,術前呼吸リハビリテーション施行日数,術前呼吸機能検査から得られた%VC,FEV1%,FEV1L,6分間歩行試験を入院直後と手術直前で評価を行った。2群間を対応のあるt検定で行い解析にはIBM SPSS Statistics Version 19を使用し,統計危険率5%を有意水準とした。術前呼吸リハビリテーションの内容は,オリエンテーション,呼吸・咳嗽法指導,筋力増強練習,有酸素運動を行い,頻度は入院日から手術日まで休日を除き施行した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言,当院臨床研究に関する倫理指針,患者の同意を得て医の倫理委員会の承認(1340号)を得て行った。
【結果】
未施行群と施行群の検討では,手術時間(分)345.3±277.2vs306.2±113.8,端座位開始日2.0±3.0vs1.7±1.2,せん妄(%)4vs2,術後肺炎(%)5vs2で有意差を認めた。術前呼吸リハビリテーションの検討では,術前呼吸リハビリテーション日数は11.8±4.8日であった。経時的変化では%VC 66.6±28.0vs79.0±22.7,FEV1L0.8±0.2vs1.0±0.3,6MWT(m)251.5±68.1vs322.8±50.6で有意差を認め,その他の項目では有意差を認めなかった。
【考察】
今回の検討では,術後肺炎は術前呼吸リハビリテーションを導入前で5%,術前呼吸リハビリテーションを導入後で2%へ減少し有意差を認めた。術後肺炎の発症を低下させたのは,①術前の呼吸機能を向上させ術後の呼吸機能低下に備えることが可能であったこと②術前呼吸リハビリテーションによる運動耐容能改善により周術期のいわゆる体力低下を最小限に抑えることが可能となり早期離床が円滑に進んだことによるものと考えた。①については,術前呼吸リハビリテーションを行うことで%VC,FEV1Lや6分間歩行距離の向上を認めdeconditioningを改善することが可能で運動耐容能の増加を認めた。高橋らは,術直後の平均肺活量は術前の48%,1週間で72.1%と胸郭・肺のコンプライアンスは低下し,術前までの回復に時間がかかることを報告しており,術後の呼吸機能低下は肺炎発症を上昇させるが,術前呼吸機能向上させ予備力を備えたことで術後肺炎の発症を減少させたと考えた。②については,今回の検討では術前の背景因子や術後のリハビリテーションの進行状況に有意差は認めなかった。つまり術後肺炎の発症が低下したのは,周術期の体力低下を最小限に抑えることで,早期離床が進みせん妄発症を軽減できたためと考えた。佐藤らによると,重度の呼吸器障害をもった心疾患患者でも,術前呼吸リハビリテーションを行うことで有用な効果が期待できると報告しており,当院でも同様の結果を得ることができた。本研究の限界として,術前呼吸リハビリテーション以外にも,薬物療法・医療技術の進歩等の影響もあり単独効果とは言えないのが現状である。
【理学療法学研究としての意義】
今後は以前適応ではなかった低肺機能を有する患者に対する心臓外科手術が増加することが予想され,理学療法の方法の一つとして役立つと思われる。