[0683] 脳損傷後片麻痺患者において立脚期の股関節内的モーメントに関連する因子の検討
キーワード:歩行分析, 片麻痺, 股関節
【はじめに,目的】
脳損傷後片麻痺患者の歩行機能と筋力には密接な関係があるとされる。特に股関節屈曲筋力や足関節の底屈筋力は快適,および最大歩行速度と関連することが報告されている(Nadeau. et. al. 1999)。しかし,これまでに片麻痺歩行における足関節運動の運動についての報告は散見されるが,股関節の運動に着目して片麻痺歩行の特徴についての生体力学的を行った報告は少ない。本研究の目的は回復期病院に入院中の脳損傷後片麻痺患者の歩行中の股関節運動の特徴を3次元動作解析装置により調査することである。
【方法】
対象は,回復期病院入院中の歩行可能な片麻痺患者25名を対象とした。対象者の原因疾患は脳梗塞13名,脳出血10名,くも膜下出血1名,脳腫瘍術後1名であり,発症後の平均日数が71.9±33,7日,男性19名,女性6名,平均年齢61.4±11.4歳,身長159.5±7.3cm,体重62.8±14.3kg,下肢のBrunnstrom Stage(BRS)III-VI,Barthel Index 84.2±11.2点であった。
対象者に5mの歩行路上で快適歩行速度での歩行を行わせ,VICON社製MX-T10とKistler社製床反力計を用いて歩行分析を行った。2回以上の歩行データを測定し,得られたデータから,荷重応答期の股関節内的伸展モーメント(MLR)と立脚終期の股関節内的屈曲モーメント(MTSt)を算出した。さらに初期接地時の股関節屈曲角度(AHIC),立脚終期の股関節最大伸展角度(AHTSt),遊脚期の股関節屈曲角度(AHSw),荷重応答期の遊脚期の最大膝屈曲角度(AKLR,AKSw)を求めた。また,下肢のBRS,下肢の深部感覚(DS)および表在感覚(SS),足関節底屈筋のModified Ashworth Scale(MAS),Short Form Berg Balance Scale(SFBBS),Functional Reach(FR),Trunk Impairment Scale(TIS),Barthel Index(BI),Activities-specific Balance Confidence Scale(ABC),10m歩行速度(TWT)と歩数(Steps),Timed Up and Go test(TUG)を行った。さらに筋力をアニマ社製徒手筋力計μTASを用いて,麻痺側股関節屈曲,膝関節伸展屈曲,足関節底背屈筋力を測定し,トルク体重比として算出した。
得られた結果に基づいて,股関節の関節モーメントに関連する指標について,PearsonおよびSpearmanの相関係数を求めた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を得て,測定施設の承諾を得た上で,本人の同意を得て測定を行った。
【結果】
まず,MLRは股,膝関節角度との間に関連が認められなかったが,MTStはAHIC(r=0.41,p<0.05),AHTSt(r=0.57,p<0.01),AHSw(r=0.42,p<0.05)やAKSw(r=0.46,p<0.05)と有意な相関を認めた。また,Impairmentの評価結果との関連性についてMTStはBRS(r=0.52,p<0.05)とTIS(r=0.61,p<0.01)との間に有意な相関を認めた。Activity limitationとの関係として,MLRではTUG(r=0.45,p<0.05)との間に有意な相関を認めたのみであったが,MTStではTWT(r=0.55,p<0.01),Steps(r=0.56,p<0.01),TUG(r=0.59,p<0.01)との間に有意な相関を認めた。MLRは膝伸展筋力と有意に相関し(r=0.47,p<0.01),MTStは膝伸展筋力(r=0.50,p<0.01)と足関節底屈筋力(r=0.55,p<0.01)と有意に相関した。
【考察】
歩行時の股関節内的モーメントのうち,立脚終期の股関節屈曲モーメントは,遊脚後期から初期接地の股関節屈曲角度だけでなく,遊脚のクリアランスを形成する遊脚期の膝屈曲角度と関連する重要な情報であった。BRSやTISと関連するだけでなく,歩行機能を反映する歩行の指標(TWT,Steps,TUG)と相関を示し,臨床的に重要な運動であることが示唆された。しかし,股関節屈曲モーメントは股関節の屈曲筋力と関連するのではなく,足関節の底屈筋力と相関を示しており,立脚終期の股関節運動を補償する足関節の支持性の存在がこのモーメントを発揮するために求められることがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度と関連する股関節の屈曲内的モーメントは歩行機能と関連する重要な指標であり,この改善には足関節の底屈筋力が求められることが示唆されたことは歩行トレーニングの目標の設定のために重要な知見であると考えられる。
脳損傷後片麻痺患者の歩行機能と筋力には密接な関係があるとされる。特に股関節屈曲筋力や足関節の底屈筋力は快適,および最大歩行速度と関連することが報告されている(Nadeau. et. al. 1999)。しかし,これまでに片麻痺歩行における足関節運動の運動についての報告は散見されるが,股関節の運動に着目して片麻痺歩行の特徴についての生体力学的を行った報告は少ない。本研究の目的は回復期病院に入院中の脳損傷後片麻痺患者の歩行中の股関節運動の特徴を3次元動作解析装置により調査することである。
【方法】
対象は,回復期病院入院中の歩行可能な片麻痺患者25名を対象とした。対象者の原因疾患は脳梗塞13名,脳出血10名,くも膜下出血1名,脳腫瘍術後1名であり,発症後の平均日数が71.9±33,7日,男性19名,女性6名,平均年齢61.4±11.4歳,身長159.5±7.3cm,体重62.8±14.3kg,下肢のBrunnstrom Stage(BRS)III-VI,Barthel Index 84.2±11.2点であった。
対象者に5mの歩行路上で快適歩行速度での歩行を行わせ,VICON社製MX-T10とKistler社製床反力計を用いて歩行分析を行った。2回以上の歩行データを測定し,得られたデータから,荷重応答期の股関節内的伸展モーメント(MLR)と立脚終期の股関節内的屈曲モーメント(MTSt)を算出した。さらに初期接地時の股関節屈曲角度(AHIC),立脚終期の股関節最大伸展角度(AHTSt),遊脚期の股関節屈曲角度(AHSw),荷重応答期の遊脚期の最大膝屈曲角度(AKLR,AKSw)を求めた。また,下肢のBRS,下肢の深部感覚(DS)および表在感覚(SS),足関節底屈筋のModified Ashworth Scale(MAS),Short Form Berg Balance Scale(SFBBS),Functional Reach(FR),Trunk Impairment Scale(TIS),Barthel Index(BI),Activities-specific Balance Confidence Scale(ABC),10m歩行速度(TWT)と歩数(Steps),Timed Up and Go test(TUG)を行った。さらに筋力をアニマ社製徒手筋力計μTASを用いて,麻痺側股関節屈曲,膝関節伸展屈曲,足関節底背屈筋力を測定し,トルク体重比として算出した。
得られた結果に基づいて,股関節の関節モーメントに関連する指標について,PearsonおよびSpearmanの相関係数を求めた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を得て,測定施設の承諾を得た上で,本人の同意を得て測定を行った。
【結果】
まず,MLRは股,膝関節角度との間に関連が認められなかったが,MTStはAHIC(r=0.41,p<0.05),AHTSt(r=0.57,p<0.01),AHSw(r=0.42,p<0.05)やAKSw(r=0.46,p<0.05)と有意な相関を認めた。また,Impairmentの評価結果との関連性についてMTStはBRS(r=0.52,p<0.05)とTIS(r=0.61,p<0.01)との間に有意な相関を認めた。Activity limitationとの関係として,MLRではTUG(r=0.45,p<0.05)との間に有意な相関を認めたのみであったが,MTStではTWT(r=0.55,p<0.01),Steps(r=0.56,p<0.01),TUG(r=0.59,p<0.01)との間に有意な相関を認めた。MLRは膝伸展筋力と有意に相関し(r=0.47,p<0.01),MTStは膝伸展筋力(r=0.50,p<0.01)と足関節底屈筋力(r=0.55,p<0.01)と有意に相関した。
【考察】
歩行時の股関節内的モーメントのうち,立脚終期の股関節屈曲モーメントは,遊脚後期から初期接地の股関節屈曲角度だけでなく,遊脚のクリアランスを形成する遊脚期の膝屈曲角度と関連する重要な情報であった。BRSやTISと関連するだけでなく,歩行機能を反映する歩行の指標(TWT,Steps,TUG)と相関を示し,臨床的に重要な運動であることが示唆された。しかし,股関節屈曲モーメントは股関節の屈曲筋力と関連するのではなく,足関節の底屈筋力と相関を示しており,立脚終期の股関節運動を補償する足関節の支持性の存在がこのモーメントを発揮するために求められることがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度と関連する股関節の屈曲内的モーメントは歩行機能と関連する重要な指標であり,この改善には足関節の底屈筋力が求められることが示唆されたことは歩行トレーニングの目標の設定のために重要な知見であると考えられる。