[0686] 片脚立ち時の骨盤の動きに関する研究
キーワード:片脚立ち, 加速度・角速度センサ, オイラー角
【はじめに,目的】片脚立位は重要なバランス評価の一つである。その研究は,片脚立位時の重心動揺や保持時間,下肢の動きに着目したものである。ところが,両脚立位から片脚立位の間の体幹の運動に関する研究は少ない。本研究では,片脚立ちになるときの骨盤の動きについて,オイラー角を用いて検討した。
【方法】対象は健常男性10名(年齢:20~26歳)とした。計測機器に,6軸の加速度・角速度センサ(ATR-Promotions社製,サンプリング100Hz)3つを用いた。センサの性能及び,右手座標系に則り,センサのX軸が鉛直線(上方が+),Y軸が左右(左方が+),Z軸が前後(後方が+)となるように定めた。計測前に,計測場所の床面に3つのセンサを固定し,同時に測定した加速度からセンサの鉛直上方を一致させた(基本座標系と定めた)。次に,センサを被検者の両上後腸骨棘の中点(以下,骨盤と略す)と,左右の踵骨後面の3カ所にテガタームTMで固定した。両足部を揃えた立位姿勢(条件1)と,棘果長の約30%に足幅を広げた立位姿勢(条件2)から左右の片脚立ち姿勢をそれぞれ30秒間保持すること,その間は3m前方に備え付けのホワイトボードの印を注視することを課題とした。課題中は,3部位の加速度及び角速度を記録した。条件1,2の片脚立ち前の立位姿勢を,それぞれの静止座標系と定めた。ノイズを除去するために,記録したすべての時系列データに対し,高速フーリエ変換処理を行い,0Hzと140Hz以上の周波数成分を取り除いて逆変換した。そのデータを静止座標系(Y-Z平面の一致),基本座標系(Z-X平面の一致)に座標変換した。座標変換後の角速度から,時々刻々変化するオイラー角(θ,φ,ψ)(単位:°)を算出した。片脚立ちで遊脚側の加速度(X軸方向の値)が最もピークになる時点を片脚立ちの瞬間(左側:Tl,右側:Tr)とし,Tl及びTrのオイラー角(θ,φ)を比較検討した。数値解析は,R version 3.0.2で行った。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,本研究の目的と方法,個人情報の保護について書面及び口頭で説明し,参加への同意を得た上で計測を行った。
【結果】θはセンサを通る鉛直線(垂直軸)からの傾きを示す。鉛直上方を0°,反時計周りに回転させた180°が下方である(便宜的に0°~90°を反時計回り,180°~90°を時計回りの傾きとする)。φはθが傾く向き(前後左右)を示す(0°:真後,90°:真右,180°:真前,270°:真左)。以下に,被検者①~⑩の計測の結果を,TlとTrのオイラー角(θ,φ)を記載する。その順は,左側(L)(θ/φ:条件1のTl)・(θ/φ:条件2のTl),右側(R)(θ/φ:条件1のTr)・(θ/φ:条件2のTr),である。各々のオイラー角(θ/φ)は,①(L)6.9/161.3・178.9/328.3,(R)9.8/339.9・171.0/193.4,②(L)164.0/7.7・2.1/86.8,(R)157.5/30.0・5.7/356.5,③(L)177.1/289.1・3.1/27.5,(R)174.8/328.1・3.3/0.8,④(L)179.3/26.4・2.1/44.6,(R)3.7/8.8・2.4/94.0,⑤(L)9.2/52.2・3.1/312.2,(R)5.8/75.1・11.5/337.0,⑥(L)3.1/273.6・3.9/313.7,(R)1.3/304.9・0.7/310.3,⑦(L)1.7/13.5・12.7/354.0,(R)8.2/331.3・2.4/26.4,⑧(L)177.6/319.7・174.6/353.7,(R)177.9/3283.9・177.1/311.6,⑨(L)2.7/291.0・2.2/6.7,(R)2.1/287.1・2.7/127.9,⑩(L)177.9/198.7・178.4/1.3,(R)175.6/0.8・172.9/0.4,であった。
【考察】φをxy平面座標に置き換える。φの範囲が,0~90°を第四象限,90~180°を第一象限,180~270°を第二象限,270~360°を第三象限とする。第一~四象限の順に右前・左前・左後・右後の向きに骨盤が傾くことを現す。両脚立位から片脚立ちになると,重心線の位置が相対的に辺縁に偏在するために不安定になる(中村ら,2003)。条件1と2で骨盤の傾く方向が同じ象限であった被検者は4名であった。その他の被検者は,条件1もしくは2,TlもしくはTrに骨盤が異なる象限に傾いた。前者は片脚立ち直前の足幅に関わらず,左右それぞれの片脚立ちで骨盤が同じように傾き,後者は身体あるいは環境の状況にあわせて,身体内部が複雑に動いていたと捉えられる。つまり,片脚立ち前の脚幅は,片脚立ち時の体幹(骨盤)の動きに何らかの影響を及ぼすと示唆される。今回は角速度からオイラー角を算出することができた。今後は,数値解析の妥当性を再検討し,重心の移動についても,高齢者・障がい者を含めてさらに検討したい。
【理学療法学研究としての意義】加速度及び角速度値から,物理学的基礎を応用させ,骨盤帯の相対的変化を数値化することができた。今回の手法を用いることで,身体各部位の動き方も簡便に数値化でき,理学療法評価の一助になると考える。
【方法】対象は健常男性10名(年齢:20~26歳)とした。計測機器に,6軸の加速度・角速度センサ(ATR-Promotions社製,サンプリング100Hz)3つを用いた。センサの性能及び,右手座標系に則り,センサのX軸が鉛直線(上方が+),Y軸が左右(左方が+),Z軸が前後(後方が+)となるように定めた。計測前に,計測場所の床面に3つのセンサを固定し,同時に測定した加速度からセンサの鉛直上方を一致させた(基本座標系と定めた)。次に,センサを被検者の両上後腸骨棘の中点(以下,骨盤と略す)と,左右の踵骨後面の3カ所にテガタームTMで固定した。両足部を揃えた立位姿勢(条件1)と,棘果長の約30%に足幅を広げた立位姿勢(条件2)から左右の片脚立ち姿勢をそれぞれ30秒間保持すること,その間は3m前方に備え付けのホワイトボードの印を注視することを課題とした。課題中は,3部位の加速度及び角速度を記録した。条件1,2の片脚立ち前の立位姿勢を,それぞれの静止座標系と定めた。ノイズを除去するために,記録したすべての時系列データに対し,高速フーリエ変換処理を行い,0Hzと140Hz以上の周波数成分を取り除いて逆変換した。そのデータを静止座標系(Y-Z平面の一致),基本座標系(Z-X平面の一致)に座標変換した。座標変換後の角速度から,時々刻々変化するオイラー角(θ,φ,ψ)(単位:°)を算出した。片脚立ちで遊脚側の加速度(X軸方向の値)が最もピークになる時点を片脚立ちの瞬間(左側:Tl,右側:Tr)とし,Tl及びTrのオイラー角(θ,φ)を比較検討した。数値解析は,R version 3.0.2で行った。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,本研究の目的と方法,個人情報の保護について書面及び口頭で説明し,参加への同意を得た上で計測を行った。
【結果】θはセンサを通る鉛直線(垂直軸)からの傾きを示す。鉛直上方を0°,反時計周りに回転させた180°が下方である(便宜的に0°~90°を反時計回り,180°~90°を時計回りの傾きとする)。φはθが傾く向き(前後左右)を示す(0°:真後,90°:真右,180°:真前,270°:真左)。以下に,被検者①~⑩の計測の結果を,TlとTrのオイラー角(θ,φ)を記載する。その順は,左側(L)(θ/φ:条件1のTl)・(θ/φ:条件2のTl),右側(R)(θ/φ:条件1のTr)・(θ/φ:条件2のTr),である。各々のオイラー角(θ/φ)は,①(L)6.9/161.3・178.9/328.3,(R)9.8/339.9・171.0/193.4,②(L)164.0/7.7・2.1/86.8,(R)157.5/30.0・5.7/356.5,③(L)177.1/289.1・3.1/27.5,(R)174.8/328.1・3.3/0.8,④(L)179.3/26.4・2.1/44.6,(R)3.7/8.8・2.4/94.0,⑤(L)9.2/52.2・3.1/312.2,(R)5.8/75.1・11.5/337.0,⑥(L)3.1/273.6・3.9/313.7,(R)1.3/304.9・0.7/310.3,⑦(L)1.7/13.5・12.7/354.0,(R)8.2/331.3・2.4/26.4,⑧(L)177.6/319.7・174.6/353.7,(R)177.9/3283.9・177.1/311.6,⑨(L)2.7/291.0・2.2/6.7,(R)2.1/287.1・2.7/127.9,⑩(L)177.9/198.7・178.4/1.3,(R)175.6/0.8・172.9/0.4,であった。
【考察】φをxy平面座標に置き換える。φの範囲が,0~90°を第四象限,90~180°を第一象限,180~270°を第二象限,270~360°を第三象限とする。第一~四象限の順に右前・左前・左後・右後の向きに骨盤が傾くことを現す。両脚立位から片脚立ちになると,重心線の位置が相対的に辺縁に偏在するために不安定になる(中村ら,2003)。条件1と2で骨盤の傾く方向が同じ象限であった被検者は4名であった。その他の被検者は,条件1もしくは2,TlもしくはTrに骨盤が異なる象限に傾いた。前者は片脚立ち直前の足幅に関わらず,左右それぞれの片脚立ちで骨盤が同じように傾き,後者は身体あるいは環境の状況にあわせて,身体内部が複雑に動いていたと捉えられる。つまり,片脚立ち前の脚幅は,片脚立ち時の体幹(骨盤)の動きに何らかの影響を及ぼすと示唆される。今回は角速度からオイラー角を算出することができた。今後は,数値解析の妥当性を再検討し,重心の移動についても,高齢者・障がい者を含めてさらに検討したい。
【理学療法学研究としての意義】加速度及び角速度値から,物理学的基礎を応用させ,骨盤帯の相対的変化を数値化することができた。今回の手法を用いることで,身体各部位の動き方も簡便に数値化でき,理学療法評価の一助になると考える。