[0688] 脊柱起立筋持久力の性差は思春期以前に生じる
キーワード:小児, 表面筋電図, 筋疲労
【はじめに,目的】
脊柱起立筋はType1線維優位の筋線維組成を持つ姿勢保持筋である。筋線維Typeの割合を鑑別する方法として病理組織学的検査を用いることが多いが,この手法は侵襲を伴う。それに代わって,非侵襲的に筋線維組成を評価する有用な方法のひとつに筋電図パワースペクトル解析がある。これにより算出される中間周波数(MF)と平均周波数(MPF)の減衰率は筋疲労の指標となり,筋線維Typeの割合を推測することが可能となる。Sørensenは腰背部の筋持久力評価法としてTrunk holding testが有用であることを報告し,このTrunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を組み合わせた測定法は再現性の高い脊柱起立筋持久力の評価法として数多く研究されている。この測定法により,成人男女の脊柱起立筋持久力を比較した結果,女性の方がTrunk holding testの持続時間が長く,MF及びMPFの減衰率が小さいことが判明している。一方,ヒトは胎生期の20週齢頃より筋線維Typeの分化が開始し,出生時には完了するといわれているが,小児において脊柱起立筋持久力に性差があるかは不明である。本研究の目的はTrunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を用いて,思春期前男児と思春期前女児におけるTrunk holding testの持続時間及び,MFとMPFの減衰率を比較・検討することである。
【方法】
対象はTanner分類stage2以下の健常思春期前男児14名,女児13名とした。被験者は十分な安静の後,Trunk holding testに準じて能動的に可能な限り水平位を保持した。被験者の胸郭中央が2秒間2cm以上下垂した時点で測定を終了した。表面筋電導出電極を第1腰椎から両側の脊柱起立筋の筋腹中央に貼付し,不関電極を第1腰椎棘突起に貼付した。筋電計で計測した脊柱起立筋の筋活動は20-500Hzのバンドパスフィルターにかけ,A/D変換(サンプリング周波数2000Hz)してコンピューターに取り込んだ。次いで,左側の脊柱起立筋活動に対して高速フーリエ変換による周波数パワースペクトル解析を行い,1秒単位のMFとMPFを算出し,それらの減衰率を求めた。統計解析として,MF及びMPFの減衰率と身長,体重,Body Mass Index(BMI)の相関性についてはSpearmanの順位相関分析を行い,二群間の比較はMann-Whitney U testを用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
事前にヘルシンキ宣言に基づき,全ての被験者とその保護者に対して研究の趣旨,方法及び危険性を書面と口答で十分に説明し,同意を得た。尚,本研究は共同研究機関の倫理審査委員会から承認を得ている。
【結果】
Trunk holding testの持続時間は思春期前女児が思春期前男児に比べ有意に長かった。Trunk holding test中に得られた左側の脊柱起立筋活動を周波数パワースペクトル解析した結果,全ての被験者でMFとMPFは時間に伴い有意に減衰した。MF及びMPF減衰率は思春期前女児が思春期前男児に比べ有意に小さかった。また,両群ともにMF及びMPFの減衰率と身長,体重,BMIに有意な相関はなかった。
【考察】
Trunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を用いて,思春期前男児と思春期前女児の脊柱起立筋持久力を比較した結果,成人における脊柱起立筋持久力の性差と同様,思春期前女児の方が思春期前男児より脊柱起立筋持久力が秀でていることが明らかとなった。また,両群ともにMF及びMPFの減衰率と体格に有意な相関を示さなかった。MF及びMPF減衰率との関連性について,MannionらはTrunk holding testから算出されたMFの減衰率が小さいほど脊柱起立筋におけるType1線維の割合が高いことを報告している。また,実際に病理組織学的検査を用いて成人男女の脊柱筋線維組成を比較した結果,女性の方が男性よりType1線維の割合が高いことが判明している。従って,思春期前女児におけるMF及びMPFの減衰率が思春期前男児より小さいということは,少なくとも思春期以前に筋線維Typeの割合が性別によって異なることを示唆する。
【理学療法学研究としての意義】
小児の脊柱起立筋に関して評価,治療プログラムの立案を行なう際には思春期以前から性別によって脊柱起立筋の筋線維組成が異なることを考慮する必要があるかもしれない。本研究の結果は小児における脊柱起立筋の特性を理解する上で役立つ知見となる。
脊柱起立筋はType1線維優位の筋線維組成を持つ姿勢保持筋である。筋線維Typeの割合を鑑別する方法として病理組織学的検査を用いることが多いが,この手法は侵襲を伴う。それに代わって,非侵襲的に筋線維組成を評価する有用な方法のひとつに筋電図パワースペクトル解析がある。これにより算出される中間周波数(MF)と平均周波数(MPF)の減衰率は筋疲労の指標となり,筋線維Typeの割合を推測することが可能となる。Sørensenは腰背部の筋持久力評価法としてTrunk holding testが有用であることを報告し,このTrunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を組み合わせた測定法は再現性の高い脊柱起立筋持久力の評価法として数多く研究されている。この測定法により,成人男女の脊柱起立筋持久力を比較した結果,女性の方がTrunk holding testの持続時間が長く,MF及びMPFの減衰率が小さいことが判明している。一方,ヒトは胎生期の20週齢頃より筋線維Typeの分化が開始し,出生時には完了するといわれているが,小児において脊柱起立筋持久力に性差があるかは不明である。本研究の目的はTrunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を用いて,思春期前男児と思春期前女児におけるTrunk holding testの持続時間及び,MFとMPFの減衰率を比較・検討することである。
【方法】
対象はTanner分類stage2以下の健常思春期前男児14名,女児13名とした。被験者は十分な安静の後,Trunk holding testに準じて能動的に可能な限り水平位を保持した。被験者の胸郭中央が2秒間2cm以上下垂した時点で測定を終了した。表面筋電導出電極を第1腰椎から両側の脊柱起立筋の筋腹中央に貼付し,不関電極を第1腰椎棘突起に貼付した。筋電計で計測した脊柱起立筋の筋活動は20-500Hzのバンドパスフィルターにかけ,A/D変換(サンプリング周波数2000Hz)してコンピューターに取り込んだ。次いで,左側の脊柱起立筋活動に対して高速フーリエ変換による周波数パワースペクトル解析を行い,1秒単位のMFとMPFを算出し,それらの減衰率を求めた。統計解析として,MF及びMPFの減衰率と身長,体重,Body Mass Index(BMI)の相関性についてはSpearmanの順位相関分析を行い,二群間の比較はMann-Whitney U testを用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
事前にヘルシンキ宣言に基づき,全ての被験者とその保護者に対して研究の趣旨,方法及び危険性を書面と口答で十分に説明し,同意を得た。尚,本研究は共同研究機関の倫理審査委員会から承認を得ている。
【結果】
Trunk holding testの持続時間は思春期前女児が思春期前男児に比べ有意に長かった。Trunk holding test中に得られた左側の脊柱起立筋活動を周波数パワースペクトル解析した結果,全ての被験者でMFとMPFは時間に伴い有意に減衰した。MF及びMPF減衰率は思春期前女児が思春期前男児に比べ有意に小さかった。また,両群ともにMF及びMPFの減衰率と身長,体重,BMIに有意な相関はなかった。
【考察】
Trunk holding testと脊柱起立筋の筋電図パワースペクトル解析を用いて,思春期前男児と思春期前女児の脊柱起立筋持久力を比較した結果,成人における脊柱起立筋持久力の性差と同様,思春期前女児の方が思春期前男児より脊柱起立筋持久力が秀でていることが明らかとなった。また,両群ともにMF及びMPFの減衰率と体格に有意な相関を示さなかった。MF及びMPF減衰率との関連性について,MannionらはTrunk holding testから算出されたMFの減衰率が小さいほど脊柱起立筋におけるType1線維の割合が高いことを報告している。また,実際に病理組織学的検査を用いて成人男女の脊柱筋線維組成を比較した結果,女性の方が男性よりType1線維の割合が高いことが判明している。従って,思春期前女児におけるMF及びMPFの減衰率が思春期前男児より小さいということは,少なくとも思春期以前に筋線維Typeの割合が性別によって異なることを示唆する。
【理学療法学研究としての意義】
小児の脊柱起立筋に関して評価,治療プログラムの立案を行なう際には思春期以前から性別によって脊柱起立筋の筋線維組成が異なることを考慮する必要があるかもしれない。本研究の結果は小児における脊柱起立筋の特性を理解する上で役立つ知見となる。