[0689] 日常生活動作である挙手と肩甲骨面挙上における肩甲骨周囲筋の筋活動の相違
キーワード:肩関節, 三次元動作解析, 表面筋電図
【目的】
上肢挙上に関する多くの研究は,肩甲骨面において肘関節伸展位で挙上(挙上)している。しかし,日常生活でよくみられるのは,上肢を肘関節屈曲から伸展しながら挙げる(挙手)運動である。本研究の目的は,挙上と挙手,および利き手と非利き手間において,肩甲骨周囲筋の筋活動ついて違いがあるか調査することである。
【方法】
肩痛の既往がない健常成人 男性15名(19~30歳)を対象とした。体表マーカーは,基本的立位肢位で,烏口突起,肩峰角,肩甲棘内縁,肩甲骨下角,上腕骨外側上顆および内側上顆,Th2,Th7及びL5棘突起を触知し体表に貼付した。測定は,挙上と挙手を各々ランダムに3回試行した。その画像データを三次元動作解析装置(MotionAnaiysis,MAC 3D System)に取り込み(frame rate 50Hz),角度情報を三次元動作解析ソフト(キッセイコムテック,KinemaTracer)を用いて解析した。筋電図は,三角筋中部,僧帽筋上部,僧帽筋下部及び前鋸筋下部上の皮膚表面を前処理して表面電極を貼付し,運動中にテレメトリー筋電計(MARQ Medical,MQ8)を用いて取り込み(sampling rate 1kHz),三次元動作解析装置と同期した後,多用途生体情報解析システム(キッセイコムテック,BIMUTASII)を用いて解析した。筋電図は0度から10度ごとに抽出し,各波形はフィルタ処理(バンドパス10~350Hz),基線算出,時間(200ms)でリサンプリングしたのち,面積積分を行い200msの積分値を求めた。表面筋電図が安定して測定できた三次元動作解析上の上肢外転角度100~110度における4筋の積分値を合計し,肩甲骨上方回旋角度10度毎の積分値を除して正規化し百分率(比率)で表した。各筋の0度から110度まで10度毎の数値の変化を挙手と挙上,利き手側と非利き手側で比較した。統計処理はIBM SPSS Statistics 21を用いて二元配置分散分析(P<0.05)により比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,学校法人こおりやま東都学園 研究倫理委員会の審議により承認されたもの(倫理委07-002)であり,本研究の趣旨を充分に説明し書面で同意を得た被検者の参加により実施した。
【結果】
挙上と挙手間で上肢の最大挙上角度に有意差はなかった。筋活動は,利き手側の僧帽筋上部,下部,前鋸筋下部では挙手の筋活動が高く差がみられた。逆に非利き手側では三角筋中部の筋活動が高かった。挙上と挙手を比較すると,僧帽筋下部の筋活動パターンが他の筋とは異なり,挙手では10度から60度まで筋活動が増加しその後低下する傾向を示し,一方挙上では開始から最大挙上まで筋活動は漸増した。
【考察】
利き手側と非利き手側の筋活動を比較すると,利き手側の僧帽筋上部・下部,前鋸筋下部では,挙上と比較すると挙手においていずれも比較的初期から筋活動が増加する。挙手の動作は日常生活でよく用いられ,しかも利き手側で行われることが多く,すでに運動学習されており,同一の動作であっても筋線維が発火しやすいためではないかと推察される。一方,三角筋中部の筋活動は,非利き手側の挙上が挙手より高い理由は,三角筋中部は,上腕骨を外転させる主動作筋であり,挙上では肘関節を伸展したまま上肢を初期から最後まで持ち上げる高い筋活動が要求され,かつ,非利き手では,肩甲骨の安定化や肩甲上腕リズムの運動学習が利き手に比べて劣っており肩甲骨運動よりも上腕骨外転運動が優位であるからと考えられる。
挙上と挙手の比較では,僧帽筋下部の筋活動パターンが他の筋とは異なる傾向がみたれた。この理由として,挙上では,挙上に伴い上肢の自重を支えるために初期から肩甲骨を安定化させる,その後も挙上に伴い筋活動を増加する必要がある。一方挙手では,上肢下垂位から肘関節を屈曲する動作から開始されるため,運動の構えができてから運動が開始され,セッティング・フェイズにおいて肩甲骨周囲筋の筋活動が増加し肩甲骨を安定化するため,僧帽筋下部はそれ以上筋活動を要しないと考えられる。
本研究において,挙上と挙手の筋活動について表層の肩甲骨周囲筋である三角筋中部,僧帽筋上部,僧帽筋下部及び前鋸筋下部の表面筋電図について比較した結果いくつかの違いがわかった。今後は,棘上筋,棘下筋,肩甲下筋,小円筋などの筋活動については調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
臨床では,上肢の挙上については,肩関節の屈曲や外転について検査されることが多く,一方研究においては,肩甲骨面における挙上が調べられることが一般的である。しかし,それらの運動が日常生活で用いられることは少なく,上肢を肘関節伸展位から屈曲しさらに伸展して挙げる運動を伴う動作が殆どである。それ故に挙上と挙手を比較してその違いを調べることは基礎的研究として有用である。
上肢挙上に関する多くの研究は,肩甲骨面において肘関節伸展位で挙上(挙上)している。しかし,日常生活でよくみられるのは,上肢を肘関節屈曲から伸展しながら挙げる(挙手)運動である。本研究の目的は,挙上と挙手,および利き手と非利き手間において,肩甲骨周囲筋の筋活動ついて違いがあるか調査することである。
【方法】
肩痛の既往がない健常成人 男性15名(19~30歳)を対象とした。体表マーカーは,基本的立位肢位で,烏口突起,肩峰角,肩甲棘内縁,肩甲骨下角,上腕骨外側上顆および内側上顆,Th2,Th7及びL5棘突起を触知し体表に貼付した。測定は,挙上と挙手を各々ランダムに3回試行した。その画像データを三次元動作解析装置(MotionAnaiysis,MAC 3D System)に取り込み(frame rate 50Hz),角度情報を三次元動作解析ソフト(キッセイコムテック,KinemaTracer)を用いて解析した。筋電図は,三角筋中部,僧帽筋上部,僧帽筋下部及び前鋸筋下部上の皮膚表面を前処理して表面電極を貼付し,運動中にテレメトリー筋電計(MARQ Medical,MQ8)を用いて取り込み(sampling rate 1kHz),三次元動作解析装置と同期した後,多用途生体情報解析システム(キッセイコムテック,BIMUTASII)を用いて解析した。筋電図は0度から10度ごとに抽出し,各波形はフィルタ処理(バンドパス10~350Hz),基線算出,時間(200ms)でリサンプリングしたのち,面積積分を行い200msの積分値を求めた。表面筋電図が安定して測定できた三次元動作解析上の上肢外転角度100~110度における4筋の積分値を合計し,肩甲骨上方回旋角度10度毎の積分値を除して正規化し百分率(比率)で表した。各筋の0度から110度まで10度毎の数値の変化を挙手と挙上,利き手側と非利き手側で比較した。統計処理はIBM SPSS Statistics 21を用いて二元配置分散分析(P<0.05)により比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,学校法人こおりやま東都学園 研究倫理委員会の審議により承認されたもの(倫理委07-002)であり,本研究の趣旨を充分に説明し書面で同意を得た被検者の参加により実施した。
【結果】
挙上と挙手間で上肢の最大挙上角度に有意差はなかった。筋活動は,利き手側の僧帽筋上部,下部,前鋸筋下部では挙手の筋活動が高く差がみられた。逆に非利き手側では三角筋中部の筋活動が高かった。挙上と挙手を比較すると,僧帽筋下部の筋活動パターンが他の筋とは異なり,挙手では10度から60度まで筋活動が増加しその後低下する傾向を示し,一方挙上では開始から最大挙上まで筋活動は漸増した。
【考察】
利き手側と非利き手側の筋活動を比較すると,利き手側の僧帽筋上部・下部,前鋸筋下部では,挙上と比較すると挙手においていずれも比較的初期から筋活動が増加する。挙手の動作は日常生活でよく用いられ,しかも利き手側で行われることが多く,すでに運動学習されており,同一の動作であっても筋線維が発火しやすいためではないかと推察される。一方,三角筋中部の筋活動は,非利き手側の挙上が挙手より高い理由は,三角筋中部は,上腕骨を外転させる主動作筋であり,挙上では肘関節を伸展したまま上肢を初期から最後まで持ち上げる高い筋活動が要求され,かつ,非利き手では,肩甲骨の安定化や肩甲上腕リズムの運動学習が利き手に比べて劣っており肩甲骨運動よりも上腕骨外転運動が優位であるからと考えられる。
挙上と挙手の比較では,僧帽筋下部の筋活動パターンが他の筋とは異なる傾向がみたれた。この理由として,挙上では,挙上に伴い上肢の自重を支えるために初期から肩甲骨を安定化させる,その後も挙上に伴い筋活動を増加する必要がある。一方挙手では,上肢下垂位から肘関節を屈曲する動作から開始されるため,運動の構えができてから運動が開始され,セッティング・フェイズにおいて肩甲骨周囲筋の筋活動が増加し肩甲骨を安定化するため,僧帽筋下部はそれ以上筋活動を要しないと考えられる。
本研究において,挙上と挙手の筋活動について表層の肩甲骨周囲筋である三角筋中部,僧帽筋上部,僧帽筋下部及び前鋸筋下部の表面筋電図について比較した結果いくつかの違いがわかった。今後は,棘上筋,棘下筋,肩甲下筋,小円筋などの筋活動については調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
臨床では,上肢の挙上については,肩関節の屈曲や外転について検査されることが多く,一方研究においては,肩甲骨面における挙上が調べられることが一般的である。しかし,それらの運動が日常生活で用いられることは少なく,上肢を肘関節伸展位から屈曲しさらに伸展して挙げる運動を伴う動作が殆どである。それ故に挙上と挙手を比較してその違いを調べることは基礎的研究として有用である。