第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学5

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (基礎)

座長:朝倉智之(群馬大学大学院保健学研究科医学部保健学科)

基礎 ポスター

[0691] 健常者における烏口肩峰靱帯の上方歪み量増加に及ぼす因子の検討

古谷英孝1, 見供翔2,3, 吉田昂広4, 朝重信吾5, 竹井仁2 (1.苑田会人工関節センター病院リハビリテーション科, 2.首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域, 3.河北総合病院リハビリテーション科, 4.苑田会保木間病院リハビリテーション科, 5.苑田第三病院リハビリテーション科)

Keywords:烏口肩峰靭帯, 超音波診断装置, 上方歪み量

【はじめに,目的】
上腕骨骨頭が烏口肩峰靭帯(Coracoacromial Ligament:以下CAL)に衝突すると,CALが弧を描くように上方へ歪む。超音波診断装置を用いた先行研究では,肩峰下インピンジメント症候群(Subacromial Impingement Syndrome:以下SIS)患者は健常者と比較しCAL上方歪み量が増加すると報告されている。歪み量が増加している状態は,肩峰下組織が圧縮されストレスを受けていることを表す。我々は,異なる肩関節運動方向(肩関節下垂位最大内旋位および最大外旋位,下垂位最大伸展位,90度外転位最大内旋位,最大水平外転位,90度屈曲位最大内旋位)でCALが上方に歪む方向を調査したところ,90度外転位最大内旋位,90度屈曲位最大内旋位,最大水平外転位において上方に歪むことを確認し,第48回日本理学療法学術大会にて報告した。今回,CALが上方に歪む3つの運動方向において,歪み量を増加させる因子を肩甲骨アライメント,肩関節周囲筋筋トルク,肩関節可動域の観点から明らかにすることを目的に実験を行った。
【方法】
対象は肩関節に整形外科学的既往の無い健常成人男性20名40肢(平均年齢26.3歳)とした。被験者には,椅子坐位にて4つの運動課題を自動運動にて行わせた。運動課題は,課題1:下垂位内外旋0度位,課題2:90度外転位90度外旋位から内外旋0度位,課題3:90度外転位内外旋0度位から30度水平外転位,課題4:90度屈曲位内外旋0度位から90度内旋位とした。上方歪み量の測定には超音波診断装置(HITACHI EUB-7500)を用い,CAL線維方向にプローブを平行にあて,各課題終了肢位にて静止画を抽出した。抽出した画像を画像解析ソフト(米国国立衛生研究所,Image J Ver.1.42)を用い,烏口突起中央と肩峰中央を結ぶ直線とCALの弧が最大となる点を上方歪み量[mm]と定義した。肩甲骨アライメントの測定は,運動課題1から各課題終了肢位の変化量を変数とした。測定項目は1)肩甲棘基部-胸椎棘突起間距離(以下:上肩胸距離),2)肩甲骨内側縁-胸椎棘突起間距離(以下:下肩胸距離),3)肩甲骨上方回旋角度とし,テープメジャー,デジタル傾斜計を用いて測定した。肩関節周囲筋筋トルクは,ハンドヘルドダイナモメータ(ANIMA社μTas F-1)を用い,肩関節1)屈曲,2)外転,3)肩甲骨面上30度外転,4)伸展,5)下垂位外旋,6)下垂位内旋,7)90度外転位外旋,8)90度外転位内旋,9)90度屈曲位外旋,10)90度屈曲位内旋,肩甲骨11)挙上,12)前方突出,13)下制・内転を測定した。肩関節可動域は肩甲骨を徒手的に固定し,1)屈曲,2)外転,3)伸展,4)90度外転位外旋,5)90度外転位内旋,6)90度屈曲位外旋,7)90度屈曲位内旋,8)水平外転,9)水平内転をデジタル傾斜計にて測定した。統計解析は,各課題のCAL上方歪み量と測定項目の関連に相関分析を行い,相関のある項目を抽出した(有意水準5%)。次に,従属変数を各課題のCAL上方歪み量,独立変数を抽出した測定項目とした重回帰分析(強制投入法)を行い上方歪み量に影響を及ぼす因子を抽出した(有意水準20%)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆頭演者が所属していた大学院の倫理委員会の承認を得た上で,参加者に研究趣旨について説明し,書面での同意を得た。
【結果】
結果,課題2は90度外転位内旋筋筋トルク,水平内転可動域,90度外転位内旋可動域の減少が抽出された(R2=0.49)。課題3は上肩胸距離,下肩胸距離,下制内転筋筋トルクの減少が抽出された(R2=0.57)。課題4は90度外転位内旋筋筋トルク,外転可動域,90度外転位内旋可動域の減少,90度外転位外旋可動域の増加が抽出された(R2=0.46)。
【考察】
課題2で抽出された,内旋筋筋トルクの測定肢位は肩甲下筋の筋活動が大きいとの報告がある。肩甲下筋が弱化し延長すると骨頭の前方滑りが生じSISの前兆となる。また,抽出された可動域制限は後方組織の短縮を示し,骨頭の下方滑りを制限することから抽出されたと考える。課題3は水平外転運動時に肩甲骨の内転・後方傾斜運動が減少することで,骨頭が過剰に前方へ滑り,歪み量を増加させたと考える。下制内転筋筋トルクの減少も,肩甲骨内転方向への運動を減少させる原因となり抽出されたと考える。課題4においても,骨頭の過剰な前・上方滑りが生じやすくなる肩甲下筋の弱化,後方組織の短縮,前方組織の延長を示す項目が抽出された。今回,先行研究で調査されてきた様々なSISの原因となる因子の中でも,肩甲下筋の筋力低下,後方組織の短縮,前方組織の延長,水平外転動作時の肩甲骨内転不足および下制内転筋の筋力低下が,Glenohumeral rhythmを破綻させ,SISの前兆に関与していることが示された。
【理学療法学研究としての意義】
抽出された因子に対して治療を行うことが,SISの予防や治療の展開につながる科学的根拠の一助になると考える。