[0693] 歩行中の進行方向に対する足部の相対的位置の違いが膝関節内旋・外旋モーメントへ与える影響
キーワード:膝関節, 歩行, 代償動作
【はじめに,目的】
前十字靭帯損傷により,歩行時の膝関節の回旋運動に異常が生じることが確認されている。異常な膝関節の回旋運動は荷重下での膝関節の接触範囲を正常範囲内から逸脱させるため,変形性膝関節症の発症リスクを増大させる可能性が提示されている。歩行時の異常な回旋運動は前十字靭帯を再建しても残存することが多いため,異常な関節運動を制御する動作様式を考える必要性がある。しかし,どのような歩行様式が歩行時の膝関節回旋運動に関する運動学・運動力学的因子を変化させるのかは明らかとなっていない。歩行時の膝関節に生じる運動学的因子を考える上で,進行方向に対する足部の相対的位置(FPA)の影響が大きいことが確認されている。FPAを変化させることにより,変形性膝関節症の発症・進行と強い関連のある膝関節内反モーメントを軽減できることが確認されている。しかし,FPAの変化が膝関節内旋・外旋モーメントへ与える影響に関しては明らかとなっていない。そこで本研究では,FPA条件の違いが歩行時の膝関節内旋・外旋モーメントへ与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は健常成人男性5名(年齢:24.6±1.3歳,身長:174.0±2.6cm,体重:64.2±11.2kg)とした。計測には赤外線反射マーカー28個,3次元動作解析装置(OMG plc.),床反力計(AMTI)を使用した。対象者は快適歩行速度での歩行動作を3つの異なるFPA条件で実施した。まず,正常歩行(Control条件)を実施した後に,FPA内側変位条件(TI条件)およびFPA外側変位条件(TO条件)をクロスオーバーデザインにて実施した。TI・TO条件では,Control条件のつま先位置を基準として,つま先を内側または外側に向けた状態での歩行を指示し,10m歩行路での動作練習を15回から20回行った後に計測を実施した。6HzのLow-pass filterにより計測データの雑音除去を行った後に,FPA,内旋・外旋モーメントの算出を行った。FPAはグローバル座標系に対する足部座標系の垂直軸周りの角度として規定した。膝関節の回旋運動は皮膚変動による体表マーカー座標の誤差に大きな影響を受けるためPoint Cluster法による皮膚誤差補正を行った。上記の解析はSCILAB 5.4.1にて実施した。統計解析はR 3.0.2により,1元配置分散分析を行い,事後検定にはTukey法を実施した。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施された。対象者には実験に先立ち,口頭および書面による十分な説明を行い,書面による同意を得た上で実験を行った。
【結果】
歩行周期全域に渡り,FPAはControl条件に比べてTO条件では有意に外側へ変位しており(p<0.05),TI条件では有意に内側へ変位していた(p<0.05)。内旋・外旋モーメントは荷重応答期から立脚中期の間で最大外旋モーメントを示し,立脚中期から立脚終期の間で最大内旋モーメントを示した。最大外旋モーメントは,TI条件(0.73±0.4Nm)にてControl条件(2.91±0.4Nm)・TO条件(3.84±0.4Nm)に比べて有意に低値を示した(p<0.01)。最大内旋モーメントはControl条件・TI条件・TO条件間における主効果は確認されなかった(Control条件:5.03±1.5Nm,TI条件:4.67±1.4Nm,TO条件:3.72±0.7Nm)(p>0.05)。
【考察】本研究の結果より,TI条件はControl・TO条件に比べて最大外旋モーメントを有意に軽減できることが明らかとなった。先行研究において,TI条件での歩行は初期接地から立脚中期にかけて,TO条件での歩行は立脚中期から立脚終期にかけて足圧中心点が外側へ変位することが確認されている。歩行時の足圧中心点の外側方向への変位は,前額面における床反力作用線と膝関節中心点の距離を近づけるため,内反モーメントを軽減させることが知られている。そのため,本研究における最大外旋モーメントについても同様のメカニズムが関与している可能性が考えられた。しかし,本研究における内旋・外旋モーメントは正味の値であるため,膝関節内旋・外旋運動に関与する個々の筋・靭帯の寄与を明らかにすることは不可能である。本研究の結果より,FPAを変化させることで歩行時の内旋・外旋モーメントを制御できる可能性が示唆された。先行研究において,膝関節の回旋モーメントは変形性膝関節症の発症・進行との関連性が高いことが報告されている。また,TI・TO条件での歩行は内反モーメントを軽減させることが明らかとなっている。そのため,FPAを変化させた状態での歩行は膝関節の回旋・内反モーメントを減少させることで,変形性膝関節症の発症・進行リスクを軽減できる可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の知見は,膝関節疾患を有する対象者の歩行動作を考える上での一助となることが考えらえる。
前十字靭帯損傷により,歩行時の膝関節の回旋運動に異常が生じることが確認されている。異常な膝関節の回旋運動は荷重下での膝関節の接触範囲を正常範囲内から逸脱させるため,変形性膝関節症の発症リスクを増大させる可能性が提示されている。歩行時の異常な回旋運動は前十字靭帯を再建しても残存することが多いため,異常な関節運動を制御する動作様式を考える必要性がある。しかし,どのような歩行様式が歩行時の膝関節回旋運動に関する運動学・運動力学的因子を変化させるのかは明らかとなっていない。歩行時の膝関節に生じる運動学的因子を考える上で,進行方向に対する足部の相対的位置(FPA)の影響が大きいことが確認されている。FPAを変化させることにより,変形性膝関節症の発症・進行と強い関連のある膝関節内反モーメントを軽減できることが確認されている。しかし,FPAの変化が膝関節内旋・外旋モーメントへ与える影響に関しては明らかとなっていない。そこで本研究では,FPA条件の違いが歩行時の膝関節内旋・外旋モーメントへ与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は健常成人男性5名(年齢:24.6±1.3歳,身長:174.0±2.6cm,体重:64.2±11.2kg)とした。計測には赤外線反射マーカー28個,3次元動作解析装置(OMG plc.),床反力計(AMTI)を使用した。対象者は快適歩行速度での歩行動作を3つの異なるFPA条件で実施した。まず,正常歩行(Control条件)を実施した後に,FPA内側変位条件(TI条件)およびFPA外側変位条件(TO条件)をクロスオーバーデザインにて実施した。TI・TO条件では,Control条件のつま先位置を基準として,つま先を内側または外側に向けた状態での歩行を指示し,10m歩行路での動作練習を15回から20回行った後に計測を実施した。6HzのLow-pass filterにより計測データの雑音除去を行った後に,FPA,内旋・外旋モーメントの算出を行った。FPAはグローバル座標系に対する足部座標系の垂直軸周りの角度として規定した。膝関節の回旋運動は皮膚変動による体表マーカー座標の誤差に大きな影響を受けるためPoint Cluster法による皮膚誤差補正を行った。上記の解析はSCILAB 5.4.1にて実施した。統計解析はR 3.0.2により,1元配置分散分析を行い,事後検定にはTukey法を実施した。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施された。対象者には実験に先立ち,口頭および書面による十分な説明を行い,書面による同意を得た上で実験を行った。
【結果】
歩行周期全域に渡り,FPAはControl条件に比べてTO条件では有意に外側へ変位しており(p<0.05),TI条件では有意に内側へ変位していた(p<0.05)。内旋・外旋モーメントは荷重応答期から立脚中期の間で最大外旋モーメントを示し,立脚中期から立脚終期の間で最大内旋モーメントを示した。最大外旋モーメントは,TI条件(0.73±0.4Nm)にてControl条件(2.91±0.4Nm)・TO条件(3.84±0.4Nm)に比べて有意に低値を示した(p<0.01)。最大内旋モーメントはControl条件・TI条件・TO条件間における主効果は確認されなかった(Control条件:5.03±1.5Nm,TI条件:4.67±1.4Nm,TO条件:3.72±0.7Nm)(p>0.05)。
【考察】本研究の結果より,TI条件はControl・TO条件に比べて最大外旋モーメントを有意に軽減できることが明らかとなった。先行研究において,TI条件での歩行は初期接地から立脚中期にかけて,TO条件での歩行は立脚中期から立脚終期にかけて足圧中心点が外側へ変位することが確認されている。歩行時の足圧中心点の外側方向への変位は,前額面における床反力作用線と膝関節中心点の距離を近づけるため,内反モーメントを軽減させることが知られている。そのため,本研究における最大外旋モーメントについても同様のメカニズムが関与している可能性が考えられた。しかし,本研究における内旋・外旋モーメントは正味の値であるため,膝関節内旋・外旋運動に関与する個々の筋・靭帯の寄与を明らかにすることは不可能である。本研究の結果より,FPAを変化させることで歩行時の内旋・外旋モーメントを制御できる可能性が示唆された。先行研究において,膝関節の回旋モーメントは変形性膝関節症の発症・進行との関連性が高いことが報告されている。また,TI・TO条件での歩行は内反モーメントを軽減させることが明らかとなっている。そのため,FPAを変化させた状態での歩行は膝関節の回旋・内反モーメントを減少させることで,変形性膝関節症の発症・進行リスクを軽減できる可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の知見は,膝関節疾患を有する対象者の歩行動作を考える上での一助となることが考えらえる。