[0700] ラット腓腹および前脛骨動脈でのα2-アドレナリン受容体によるノルアドレナリンの収縮制御
Keywords:骨格筋動脈, β1-アドレナリン受容体, α2-アドレナリン受容体
【はじめに,目的】
第48回学術大会において,我々は,ラットのヒラメ筋(赤筋)に血流を供給する腓腹動脈(sural arteries以下SA)と長趾伸筋(白筋)に供給する前脛骨動脈(antetrior tibial artery以下ATA)でのノルアドレナリン(NAd)収縮に関与するアドレナリン受容体(AR)の特徴について以下の点を明らかにした:これらの血管平滑筋細胞においてNAdは,(i)α1-AR活性化によって収縮させ,(ii)β1-AR活性化により血管を弛緩させるが,その反応性はSA>ATAであること,さらに,(iii)β2-ARはこの弛緩反応に関与していないこと,などを明らかとした。今回我々は,β1-ARによるSAとATAの血管弛緩反応の反応性の違いは,両動脈でのNAd収縮に関与しているα2-ARの機能のefficacyの差による可能性が示唆されたので,報告する。
【方法】
10週齢のWistar系雄性ラットを使用した。研究に使用した動脈は,SAとATAとした。血管標本の作製および張力測定方法は,前回と同様であった。すべての実験は灌流法にて行った。クレブス溶液は交感神経活動を抑制するためにグアネチジン(5 µM)とプロスタグランジン生成を抑制するためジクロフェナック(3 µM)を含む。
以下実験(1)~(3)を実施した:(実験-1)30 mM -K+にて血管を収縮させた後,非選択的β-AR作動薬イソプロテレノール(β1-ARとβ2-ARの作動薬)を投与し,その弛緩反応に対するβ1-AR拮抗薬ビソプロロール(300 nM)の効果を検討した。(実験-2)両血管に対するUK14304(α2-AR作動薬)の収縮効果を検討した。また,両血管でのセロトニン(5-HT,30 nM)収縮に対するUK14304の作用を検討した。(実験-3)5-HT(30 nM)収縮中でのイソプロテレノールによる弛緩反応に対するUK14304の効果を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は名古屋市立大学動物実験倫理委員会の規定に従って行った
【結果】
(実験-1)イソプロテレノールは両血管での過剰K+-収縮を抑制したが,その反応性に差は認められなかった。ビソプロロールは両血管でのイソプロテレノールによる弛緩を抑制した。(実験-2)UK14304はそれ自身で両血管のbasal tonusに影響しなかった。また,5-HT収縮に対しても影響を与えなかった。(実験-3)ATAにおいて,5-HT収縮中のイソプロテレノールによる弛緩はUK14304によって抑制された。一方,SAにおいて,5-HT収縮中のイソプロテレノールの弛緩はUK14304によって抑制されなかった。
【考察】
我々は,第48回大会において,交感神経興奮時の骨格筋の血流分配は血管平滑筋細胞のβ1受容体機能の差異によって,赤筋側が優位となる可能性を報告した。さらに今回は,そのβ1受容体機能の差異が平滑筋細胞のα2-ARの機能の差異に起因している可能性を明らかにした。
実験-1の結果から,非選択的β-AR作動薬イソプロテレノールによる弛緩はβ1-AR拮抗薬ビソプロロールで抑制されたことより,両血管ではβ1受容体が弛緩に関与していることが明らかとなった。実験-2では,UK14304によるα2-ARの活性化自身は収縮・弛緩のどちらの作用も発現しないことが明らかとなった。さらに,実験-3の結果より,ATAでは,α2-ARの活性化はβ1-AR活性化による弛緩を抑制すること,さらに,この作用はSAでは発現しないことが明らかとなった。このことより,ATAではSAに比較し,交感神経興奮時に遊離されたNAdがα2-AR受容体活性化を介してβ1-ARによる弛緩反応を抑制し,NAdの収縮を増大している可能性が示唆された。これらの結果より,交感神経興奮時,骨格筋血管は平滑筋のα2-ARの機能を介して,赤筋/白筋への血流の再分配を行っている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法学的治療効果の向上を考えていく上で,骨格筋のエネルギー代謝を調節する血流再分配機構の解明は必須であり,本研究成果はその基礎的な知見を提供するものと考えられる。
第48回学術大会において,我々は,ラットのヒラメ筋(赤筋)に血流を供給する腓腹動脈(sural arteries以下SA)と長趾伸筋(白筋)に供給する前脛骨動脈(antetrior tibial artery以下ATA)でのノルアドレナリン(NAd)収縮に関与するアドレナリン受容体(AR)の特徴について以下の点を明らかにした:これらの血管平滑筋細胞においてNAdは,(i)α1-AR活性化によって収縮させ,(ii)β1-AR活性化により血管を弛緩させるが,その反応性はSA>ATAであること,さらに,(iii)β2-ARはこの弛緩反応に関与していないこと,などを明らかとした。今回我々は,β1-ARによるSAとATAの血管弛緩反応の反応性の違いは,両動脈でのNAd収縮に関与しているα2-ARの機能のefficacyの差による可能性が示唆されたので,報告する。
【方法】
10週齢のWistar系雄性ラットを使用した。研究に使用した動脈は,SAとATAとした。血管標本の作製および張力測定方法は,前回と同様であった。すべての実験は灌流法にて行った。クレブス溶液は交感神経活動を抑制するためにグアネチジン(5 µM)とプロスタグランジン生成を抑制するためジクロフェナック(3 µM)を含む。
以下実験(1)~(3)を実施した:(実験-1)30 mM -K+にて血管を収縮させた後,非選択的β-AR作動薬イソプロテレノール(β1-ARとβ2-ARの作動薬)を投与し,その弛緩反応に対するβ1-AR拮抗薬ビソプロロール(300 nM)の効果を検討した。(実験-2)両血管に対するUK14304(α2-AR作動薬)の収縮効果を検討した。また,両血管でのセロトニン(5-HT,30 nM)収縮に対するUK14304の作用を検討した。(実験-3)5-HT(30 nM)収縮中でのイソプロテレノールによる弛緩反応に対するUK14304の効果を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は名古屋市立大学動物実験倫理委員会の規定に従って行った
【結果】
(実験-1)イソプロテレノールは両血管での過剰K+-収縮を抑制したが,その反応性に差は認められなかった。ビソプロロールは両血管でのイソプロテレノールによる弛緩を抑制した。(実験-2)UK14304はそれ自身で両血管のbasal tonusに影響しなかった。また,5-HT収縮に対しても影響を与えなかった。(実験-3)ATAにおいて,5-HT収縮中のイソプロテレノールによる弛緩はUK14304によって抑制された。一方,SAにおいて,5-HT収縮中のイソプロテレノールの弛緩はUK14304によって抑制されなかった。
【考察】
我々は,第48回大会において,交感神経興奮時の骨格筋の血流分配は血管平滑筋細胞のβ1受容体機能の差異によって,赤筋側が優位となる可能性を報告した。さらに今回は,そのβ1受容体機能の差異が平滑筋細胞のα2-ARの機能の差異に起因している可能性を明らかにした。
実験-1の結果から,非選択的β-AR作動薬イソプロテレノールによる弛緩はβ1-AR拮抗薬ビソプロロールで抑制されたことより,両血管ではβ1受容体が弛緩に関与していることが明らかとなった。実験-2では,UK14304によるα2-ARの活性化自身は収縮・弛緩のどちらの作用も発現しないことが明らかとなった。さらに,実験-3の結果より,ATAでは,α2-ARの活性化はβ1-AR活性化による弛緩を抑制すること,さらに,この作用はSAでは発現しないことが明らかとなった。このことより,ATAではSAに比較し,交感神経興奮時に遊離されたNAdがα2-AR受容体活性化を介してβ1-ARによる弛緩反応を抑制し,NAdの収縮を増大している可能性が示唆された。これらの結果より,交感神経興奮時,骨格筋血管は平滑筋のα2-ARの機能を介して,赤筋/白筋への血流の再分配を行っている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法学的治療効果の向上を考えていく上で,骨格筋のエネルギー代謝を調節する血流再分配機構の解明は必須であり,本研究成果はその基礎的な知見を提供するものと考えられる。