[0701] メタボリックシンドロームラットモデル由来iPS細胞の樹立
Keywords:iPS細胞, メタボリックシンドローム, ラット
【はじめに,目的】体細胞へ初期化関連遺伝子を導入し自己複製能と多分化能力を再獲得させる技術により,人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)が開発された。受精卵を破壊して作製されるES細胞とは異なり,iPS細胞は患者自身の体細胞から作製することができるため,移植治療や研究に用いる際の倫理問題や移植拒絶の問題が回避される。また,患者に由来するiPS細胞は移植治療のみならず,病態モデルとして,さらには病態解明や薬剤の開発・副作用評価のためのツールとして汎用性がある。
ヒトやマウスでは既に多くのiPS細胞が樹立されている一方,ラットiPS細胞樹立は難しく,これまでにほとんど報告がない。しかしラットはマウスと比較して個体が大きく学習能力が高いため,移植実験を行う際に扱いやすく,移植後の機能回復の解析にも適している。さらにリハビリテーション分野においても,ラットを用いた様々な治療介入や機能評価実験が多く行われている。そのため,ラットiPS細胞の樹立は,再生医療分野とリハビリテーション学分野,両分野の発展につながると考えられる。
また,近年,共同研究者の永田らはヒトの病態をよく表すメタボリックシンドロームの新規ラットモデルを確立した(Nutr Diabetes. 2011)。そこで,本研究の目的はメタボリックシンドロームラットの体細胞からiPS細胞を樹立することとした。
【方法】実験には,メタボリックシンドロームのラットモデル(DahlS.Z-Leprfa/leprfa)と,対照ラット(DahlS)を用いた。また,一般的にiPS細胞は線維芽細胞から作製されるが,間葉系幹細胞(MSC)に初期化遺伝子を導入すると,より安定した高い確率でiPS細胞が樹立できるという報告がある。そこで我々は,各々のラットの皮下脂肪組織からMSCを分離収集し,その収集されたMSCにoct3/4,Klf-4,sox2の三つの初期化遺伝子を導入し発現させた。その際,遺伝子導入に成功した細胞を識別するため,初期化遺伝子と共にGFP遺伝子を導入した。
その後,GFP陽性の細胞コロニーのみをピックアップしクローン培養した(各N=12)。各々のクローンに対し,PCR法と免疫蛍光染色法を行い初期化遺伝子の発現を確認し,さらに,移植実験と生体外培養実験により多分化能力を評価した。初期化遺伝子の発現と多分化能力の両方が認められたクローンのみをiPS細胞とし,その後の実験に使用した。
さらに,樹立されたメタボリックシンドロームラット由来iPS細胞と対照ラット由来iPS細胞の分化傾向および細胞生理学的特徴を比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は名古屋大学動物実験委員会,組み換えDNA実験安全委員会の承認を得て行った。
【結果】ラットMSCから,GFPタンパク陽性のクローン細胞コロニーが多数形成された。それらはほぼすべて,高い分化能力と自己複製能力を併せ持ったiPS細胞であることが生体外および生体内実験により証明された。
さらに,メタボリックシンドロームラットに由来するiPS細胞と対照ラットに由来するiPS細胞とでは,その性質に差が見られた。
【考察】ラットのMSCから高効率でiPS細胞が作製でき,また,それらほぼ全てのクローンで高い分化能力と増殖能力が証明されたため,本研究で新たに開発されたラットiPS細胞は今後様々な研究に利用できる。
また,メタボリックシンドロームラット由来iPS細胞と対照ラット由来iPS細胞とではその性質に差が見られたが,この差が病態を反映したものであるか否か,今後詳細に検討する必要がある。
いずれにしても,樹立されたメタボリックシンドロームラット由来iPS細胞は病態解明に向けた細胞モデルとして非常に有用な研究ツールとなるであろう。
【理学療法学研究としての意義】近い将来,iPS細胞等の幹細胞を利用した再生医療が一般的な治療法となる可能性は高い。その際,移植治療前後のリハビリテーション介入や移植治療による機能回復効果の評価等,理学療法学分野の果たす役割は大きいと考えられる。
個体が大きく学習能力も高いラットに対する移植実験では,移植前後のリハビリテーション介入や,さらには機能評価がマウスと比較してより容易である。また,ラットは,すでに様々な疾患・障害モデルが確立され,理学療法学分野の研究に利用されており,今後はこれらのモデルに対する移植実験や細胞生理学的な病態解明にiPS細胞技術を応用することもできる。
そのため,本研究で新たに樹立されたラットiPS細胞は,理学療法学と再生医学の両分野をつなぐ基礎となる研究において,非常に有益な研究ツールとなり得る。
ヒトやマウスでは既に多くのiPS細胞が樹立されている一方,ラットiPS細胞樹立は難しく,これまでにほとんど報告がない。しかしラットはマウスと比較して個体が大きく学習能力が高いため,移植実験を行う際に扱いやすく,移植後の機能回復の解析にも適している。さらにリハビリテーション分野においても,ラットを用いた様々な治療介入や機能評価実験が多く行われている。そのため,ラットiPS細胞の樹立は,再生医療分野とリハビリテーション学分野,両分野の発展につながると考えられる。
また,近年,共同研究者の永田らはヒトの病態をよく表すメタボリックシンドロームの新規ラットモデルを確立した(Nutr Diabetes. 2011)。そこで,本研究の目的はメタボリックシンドロームラットの体細胞からiPS細胞を樹立することとした。
【方法】実験には,メタボリックシンドロームのラットモデル(DahlS.Z-Leprfa/leprfa)と,対照ラット(DahlS)を用いた。また,一般的にiPS細胞は線維芽細胞から作製されるが,間葉系幹細胞(MSC)に初期化遺伝子を導入すると,より安定した高い確率でiPS細胞が樹立できるという報告がある。そこで我々は,各々のラットの皮下脂肪組織からMSCを分離収集し,その収集されたMSCにoct3/4,Klf-4,sox2の三つの初期化遺伝子を導入し発現させた。その際,遺伝子導入に成功した細胞を識別するため,初期化遺伝子と共にGFP遺伝子を導入した。
その後,GFP陽性の細胞コロニーのみをピックアップしクローン培養した(各N=12)。各々のクローンに対し,PCR法と免疫蛍光染色法を行い初期化遺伝子の発現を確認し,さらに,移植実験と生体外培養実験により多分化能力を評価した。初期化遺伝子の発現と多分化能力の両方が認められたクローンのみをiPS細胞とし,その後の実験に使用した。
さらに,樹立されたメタボリックシンドロームラット由来iPS細胞と対照ラット由来iPS細胞の分化傾向および細胞生理学的特徴を比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は名古屋大学動物実験委員会,組み換えDNA実験安全委員会の承認を得て行った。
【結果】ラットMSCから,GFPタンパク陽性のクローン細胞コロニーが多数形成された。それらはほぼすべて,高い分化能力と自己複製能力を併せ持ったiPS細胞であることが生体外および生体内実験により証明された。
さらに,メタボリックシンドロームラットに由来するiPS細胞と対照ラットに由来するiPS細胞とでは,その性質に差が見られた。
【考察】ラットのMSCから高効率でiPS細胞が作製でき,また,それらほぼ全てのクローンで高い分化能力と増殖能力が証明されたため,本研究で新たに開発されたラットiPS細胞は今後様々な研究に利用できる。
また,メタボリックシンドロームラット由来iPS細胞と対照ラット由来iPS細胞とではその性質に差が見られたが,この差が病態を反映したものであるか否か,今後詳細に検討する必要がある。
いずれにしても,樹立されたメタボリックシンドロームラット由来iPS細胞は病態解明に向けた細胞モデルとして非常に有用な研究ツールとなるであろう。
【理学療法学研究としての意義】近い将来,iPS細胞等の幹細胞を利用した再生医療が一般的な治療法となる可能性は高い。その際,移植治療前後のリハビリテーション介入や移植治療による機能回復効果の評価等,理学療法学分野の果たす役割は大きいと考えられる。
個体が大きく学習能力も高いラットに対する移植実験では,移植前後のリハビリテーション介入や,さらには機能評価がマウスと比較してより容易である。また,ラットは,すでに様々な疾患・障害モデルが確立され,理学療法学分野の研究に利用されており,今後はこれらのモデルに対する移植実験や細胞生理学的な病態解明にiPS細胞技術を応用することもできる。
そのため,本研究で新たに樹立されたラットiPS細胞は,理学療法学と再生医学の両分野をつなぐ基礎となる研究において,非常に有益な研究ツールとなり得る。