第49回日本理学療法学術大会

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人体構造・機能情報学1

2014年5月31日(土) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (基礎)

座長:中野治郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)

基礎 ポスター

[0702] 頭蓋骨由来ヒト間葉系幹細胞の無血清培養における増殖能・分化能の検討

富安真弓1, 猪村剛史2, 上床裕之2, 大倉優之介2, 小畑侑子1, 深澤賢宏2, 中田恭輔2, 古川拓馬2, Elham Khalesi2, 河原裕美3, 武田正明4, 品川勝弘4, 栗栖薫4, 弓削類2,3 (1.広島大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院生体環境適応科学, 3.(株)スぺース・バイオ・ラボラトリーズ, 4.広島大学大学院医歯薬保健学研究院脳神経外科学)

キーワード:無血清, 間葉系幹細胞, 多分化

【はじめに,目的】
ヒト間葉系幹細胞(human mesenchymal stem cells:以下hMSCs)は,多分化能をもち,腫瘍化や倫理的問題といった課題が少ない細胞として,臨床応用に近い幹細胞の一つとして挙げられる。我々は,その中でも頭蓋骨由来hMSCsは腸骨由来hMSCsよりも神経分化能が高いこと,脳外科手術と並行して採取可能であるということから,有力な幹細胞のソースになると考えている。しかし,従来の細胞の培養方法では,細胞の増殖を促進するために,培地に血清の添加が必要である。通常の血清は,ウシ血清やヒト血清が使用されることが多いが,それぞれ感染リスク・拒絶反応や患者への負担などの問題点が存在するため,臨床的に血清を添加しない細胞培養方法がより安全といえる。そこで,無血清下で頭蓋骨由来hMSCsの培養を行い,増殖能および分化能を有血清下での培養と比較し検討した。
【方法】
ヒトの頭蓋骨から脳神経外科手術時に骨髄細胞を採取し,培養皿に播種した。2日後に培地交換によって浮遊細胞を除去し,培養細胞とした。実験群を,通常通り血清を添加する有血清群,無血清培地であるSTK2(DSファーマバイオメディカル社)を使用して培養する無血清群の二群とした。増殖能の評価方法として,4継代間の細胞数を継代毎に血球計算盤を用いて測定した。分化能の評価方法として80% confluentに達した細胞は,神経分化誘導培地,100% confluentに達した細胞は,骨・脂肪分化誘導培地に切り替え,分化誘導を行った。神経分化誘導培地での培養は10日間,骨分化誘導培地での培養は7日間,脂肪分化誘導培地での培養は21日間行った。分化誘導前後でそれぞれサンプリングおよび解析を行った。なお,培養条件は気温37℃,CO2濃度5%とし,培地交換は3日に1回行った。
解析は,位相差顕微鏡を用いた形態観察と,神経・骨・脂肪に分化したか確認するためにそれぞれ神経分化マーカーを用いた免疫染色・アリザリンレッドS染色・オイルレッドO染色を行った。また,神経・骨・脂肪それぞれの分化誘導前後での各種マーカーの発現を,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:以下RT-PCR)法にて解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,細胞採取に際して,広島大学大学院医歯薬保健学研究科の倫理審査委員会の承認を得た。また,対象患者には,手術前に骨髄採取を行うことを十分説明し,文書による同意を得て行った。
【結果】
有血清群と無血清群を比較して,無血清群はより高い増殖能を示した。
分化能に関しては,有血清群,無血清群ともに形態学的解析の結果,分化誘導後に神経・骨・脂肪細胞特有の形態が観察された。また,染色にてhMSCsの神経・骨・脂肪細胞への分化が確認された。また,分子細胞生物学的解析において,各種分化マーカーの発現は,分化前と比較して分化後に強く発現していた。
【考察】
頭蓋骨由来hMSCsは,無血清下において,十分に細胞の成長が促進されることを確認することができた。また,神経・骨・脂肪への分化能を有することが形態学的・分子細胞生物学的に示された。以上より,有血清培地は増殖・分化の面において,無血清培地に置き換えることが可能であり,臨床応用した際に感染リスク・拒絶反応や患者への負担といった課題を軽減できると考えられる。しかし,今回の細胞培養の過程においては,増殖培養期間においてのみ無血清培地を使用し,樹立においては両群ともに有血清下にて培養を行っている。今後,更に安全な臨床応用へと近づけるため,細胞の樹立を無血清下で行い,増殖能・分化能を検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回,頭蓋骨由来hMSCsが,無血清下において,有血清下と比較して増殖能が優れており,また,神経・骨・脂肪への分化能を有していることを確認することができた。本研究は,従来の有血清培地を用いた研究よりも,臨床に直結したものであり,基礎理学療法分野だけでなく臨床応用に向けた再生医療の発展にも大いに貢献するものと考えられる。