[0708] 退院先別に見た重症度の違いによるFIM運動項目と退院先との関係
Keywords:退院先, 重症度, FIM運動項目
【はじめに,目的】
2000年より開設された回復期病棟は,急性期病院,退院後の居宅支援サービスとの連携が重要とされており,急性期から在宅への橋渡しであると言われている。また,回復期リハビリテーション病棟の入院患者に対して,日常生活動作能力の評価指標として機能的自立度評価表(以下,FIM)を用いることは多い。臨床を行う中で,当院入院患者の退院時において,退院先の違いによりFIM運動項目に偏りがあるのではないか,と疑問に感じた。そこで,当院入院患者における退院先の違いによるFIM運動項目の傾向を検討した。
【方法】
対象は,2012年4月から2013年9月までに入退院した患者224例の内,再発で急性期病院へ転院となった患者,入院前の居住地が施設であった患者,入院期間が1ヶ月未満であった患者を除外した172例であり,対象者を自宅に退院した者(以下,自宅退院)と自宅以外に退院した者(以下,自宅外退院)に分類した。対象者のデータはカルテよりFIM運動13項目それぞれの入院時得点,退院時得点を後方視的に調査した。対象者を稲川らによる先行研究に従い,入院時FIM運動項目総得点より3群(重度群<39点,中等度群<78点,軽度群)に分類した。そして,運動13項目についてそれぞれ自宅退院,施設退院の入院時得点,退院時得点を比較した。また,各運動項目について退院時FIM得点の中央値を比較した。運動13項目の自宅退院,施設退院の入院時得点,退院時得点について,統計学的検定は正規性の検定をした後,Mann-WhitneyのU検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本調査はヘルシンキ宣言に従い実施され,当院における倫理委員会の承認を受けた。実施にあたり得られた結果は本調査以外に使用せず,個人情報の漏洩を防止し,公表については個人の名前などが一切分からないようプライバシー保護について十分配慮した。
【結果】
退院先別の分布は,自宅退院147例,施設退院25例であった。重症度別の分布は,重度群46例,中等度群87例,軽度群39例であった。入院時得点について,自宅退院と施設退院の間に有意差は認められなかったが,退院時得点では有意差が認められた項目は,重度群では清拭,更衣下半身,トイレ動作,排尿管理,ベッド移乗,トイレ移乗,歩行であった。重度群における退院時得点の中央値で得点が高かった上位4項目は,自宅退院の食事6,整容5,ベッド移乗5,トイレ移乗5であった。中等度群,軽度群では入院時得点と退院時得点に有意差が認められる項目はなかった。退院時得点の中央値は,中等度群の施設退院における清拭,浴槽移乗,階段昇降以外の項目においてすべて監視以上であった。
【考察】
重度群の入院時得点について,自宅退院と施設退院の間に有意差は認められず,退院時得点において有意差が認められた項目は,清拭,更衣下半身,トイレ動作,排尿管理,ベッド移乗,トイレ移乗,歩行であった。また,退院時得点の中央値が高かった上位項目は,自宅退院の食事,整容,ベッド移乗,トイレ移乗であり,監視,修正自立レベルであった。このことから重度群で自宅退院をした患者の傾向として,ベッド移乗,トイレ移乗のFIM得点が改善し,退院時得点が高値であったことが挙げられると考えた。永井らは,トイレ動作,ベッド移乗,トイレ移乗といった中難易度項目は,入院時の得点で自立達成期間の予測がある程度は可能であったと報告している。重度群に対して入院早期から移乗動作に着目し,FIM得点の改善が可能か否かを判断することが,自宅退院の可否を検討する上で重要であると考えた。入院時FIM運動項目の得点が38点未満の重度群では,退院後に介助者が必要である可能性が高く,加えて車椅子を使用する患者が多いと考えられる。そのため,移乗動作の介助量を軽減することが家族の介護負担軽減に繋がると考え,重度群においても自宅退院の可能性を広げる一因になるのではないかと考えた。本調査の結果から,入院早期から移乗動作に着目し,移乗動作の介助量軽減に対する予後予測を的確に行うことが,退院調整の一助になると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
入院早期から退院調整を行うことが重要であることは周知の通りである。移乗動作能力を的確に見極めることが,自宅退院の可否を検討する上での一助になると考える。そのため,入院早期から移乗動作能力に着目することが退院調整に繋がり,臨床的意義が高いと考える。
2000年より開設された回復期病棟は,急性期病院,退院後の居宅支援サービスとの連携が重要とされており,急性期から在宅への橋渡しであると言われている。また,回復期リハビリテーション病棟の入院患者に対して,日常生活動作能力の評価指標として機能的自立度評価表(以下,FIM)を用いることは多い。臨床を行う中で,当院入院患者の退院時において,退院先の違いによりFIM運動項目に偏りがあるのではないか,と疑問に感じた。そこで,当院入院患者における退院先の違いによるFIM運動項目の傾向を検討した。
【方法】
対象は,2012年4月から2013年9月までに入退院した患者224例の内,再発で急性期病院へ転院となった患者,入院前の居住地が施設であった患者,入院期間が1ヶ月未満であった患者を除外した172例であり,対象者を自宅に退院した者(以下,自宅退院)と自宅以外に退院した者(以下,自宅外退院)に分類した。対象者のデータはカルテよりFIM運動13項目それぞれの入院時得点,退院時得点を後方視的に調査した。対象者を稲川らによる先行研究に従い,入院時FIM運動項目総得点より3群(重度群<39点,中等度群<78点,軽度群)に分類した。そして,運動13項目についてそれぞれ自宅退院,施設退院の入院時得点,退院時得点を比較した。また,各運動項目について退院時FIM得点の中央値を比較した。運動13項目の自宅退院,施設退院の入院時得点,退院時得点について,統計学的検定は正規性の検定をした後,Mann-WhitneyのU検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本調査はヘルシンキ宣言に従い実施され,当院における倫理委員会の承認を受けた。実施にあたり得られた結果は本調査以外に使用せず,個人情報の漏洩を防止し,公表については個人の名前などが一切分からないようプライバシー保護について十分配慮した。
【結果】
退院先別の分布は,自宅退院147例,施設退院25例であった。重症度別の分布は,重度群46例,中等度群87例,軽度群39例であった。入院時得点について,自宅退院と施設退院の間に有意差は認められなかったが,退院時得点では有意差が認められた項目は,重度群では清拭,更衣下半身,トイレ動作,排尿管理,ベッド移乗,トイレ移乗,歩行であった。重度群における退院時得点の中央値で得点が高かった上位4項目は,自宅退院の食事6,整容5,ベッド移乗5,トイレ移乗5であった。中等度群,軽度群では入院時得点と退院時得点に有意差が認められる項目はなかった。退院時得点の中央値は,中等度群の施設退院における清拭,浴槽移乗,階段昇降以外の項目においてすべて監視以上であった。
【考察】
重度群の入院時得点について,自宅退院と施設退院の間に有意差は認められず,退院時得点において有意差が認められた項目は,清拭,更衣下半身,トイレ動作,排尿管理,ベッド移乗,トイレ移乗,歩行であった。また,退院時得点の中央値が高かった上位項目は,自宅退院の食事,整容,ベッド移乗,トイレ移乗であり,監視,修正自立レベルであった。このことから重度群で自宅退院をした患者の傾向として,ベッド移乗,トイレ移乗のFIM得点が改善し,退院時得点が高値であったことが挙げられると考えた。永井らは,トイレ動作,ベッド移乗,トイレ移乗といった中難易度項目は,入院時の得点で自立達成期間の予測がある程度は可能であったと報告している。重度群に対して入院早期から移乗動作に着目し,FIM得点の改善が可能か否かを判断することが,自宅退院の可否を検討する上で重要であると考えた。入院時FIM運動項目の得点が38点未満の重度群では,退院後に介助者が必要である可能性が高く,加えて車椅子を使用する患者が多いと考えられる。そのため,移乗動作の介助量を軽減することが家族の介護負担軽減に繋がると考え,重度群においても自宅退院の可能性を広げる一因になるのではないかと考えた。本調査の結果から,入院早期から移乗動作に着目し,移乗動作の介助量軽減に対する予後予測を的確に行うことが,退院調整の一助になると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
入院早期から退院調整を行うことが重要であることは周知の通りである。移乗動作能力を的確に見極めることが,自宅退院の可否を検討する上での一助になると考える。そのため,入院早期から移乗動作能力に着目することが退院調整に繋がり,臨床的意義が高いと考える。