[0710] 当院における発症前が独居である脳卒中患者の自宅退院に影響する要因
キーワード:脳卒中, 機能的自立度評価法, 自宅退院
【目的】
退院後の生活様式の一つに独居生活があり,独居高齢者は今後増加すると予測されている。加えて,脳血管疾患を発症すると今までの生活様式から変更を迫られることが多い。先行研究でも独居であることで自宅退院が困難となる場合があり,回復期リハビリテーション病棟において,独居である脳血管疾患を有する患者の退院先について難渋することが少なくない。当院では日常生活能力を評価する指標として機能的自立度評価法(Functional independence measure:以下,FIM)を用いてリハビリテーションの実施,経過の説明を行っている。本調査の目的は,発症前に独居であった患者で自宅退院に至った群と施設退院に至った群の比較を行い自宅退院が可能となる要因を明らかにすることである。要因を明らかにすることで,独居の自宅退院を支援する有用な一助となる。
【方法】
対象はデータベースソフトによる管理が開始された2007年4月1日から2013年9月30日までに入退院した脳血管疾患を有する患者734例のうち,発症前が独居である患者80例であった。除外基準は発症前が施設であった例,急性期病院へ転院,療養,死亡,入院1週間未満の症例とした。調査項目については,年齢,性別,退院時FIMの総得点,運動項目合計点,認知項目合計点,FIMの各項目を集計した。統計は,性別はχ2検定,在院日数は対応のないt検定,FIMについてはMann-Whitney検定を行い,2群間の差を検討した。自宅退院に影響する要因を検討する上で,自宅退院の可否に対して,年齢,性別,FIM10項目(食事,清拭,排尿管理,移乗車椅子・ベッド・椅子(以下,移乗),移動,理解,表出,交流,解決)の12項目が影響するかを知るために,多重ロジスティック回帰分析を適用した。選択された項目から判別的中率を求めた。FIMの各項目について,Spearmanの順位相関係数を用いて,多重共線性の確認,独立変数の絞り込みを行った。変数の選択には尤度比検定による変数増加法を用いた。統計処理にはR(Ver.2.8.1)を使用し,各検定ともに有意水準を5%未満とした。
【説明と同意】
本調査はヘルシンキ宣言に従い,自由意志に基づく調査協力であること,集計に際していつでも中断して良いこと,それにより通常のリハビリテーションの提供に一切の影響が出ないことを説明し同意を得た。また,当院倫理委員会の承認を得た後に実施した。
【結果】
転帰先について,自宅群54例(独居が36例,家族と同居が18例),非自宅群27例(その他施設が11例,老健が16例)であった。自宅群と非自宅群の2変量解析では,FIM総得点,運動項目合計点,認知項目合計点,FIM各項目のすべての項目について有意差を認めた。多重ロジスティック回帰分析の結果,「食事(odds=0.27,95%信頼区間0.070~1.063,有意差なし)」,「移乗(odds=0.195,95%信頼区間0.066~0.753,p<0.01)」,「表出(odds=2.00,95%信頼区間0.906~4.406,有意差なし)」,「交流(odds=0.290,95%信頼区間0.131~0.643,p<0.01)」が自宅退院の可否に影響する変数として選択された(モデルχ2検定でp<0.01)。Hosmer-Lemeshow検定結果は,p=0.992で適合していることが示された。この4つの要因による判別的中率は88.7%であった。
【考察】
自宅退院の可否に影響する因子として抽出されたのは,食事,移乗,表出,交流であった。独居高齢者の居宅生活に向けた支援として,これらの項目に対する評価や介入の重要性が示唆された。信頼区間は移乗0.066~0.753,交流0.131~0.643で影響力については大きいとは言えないが,とくに移乗,交流の2項目が有意に自宅退院に影響することが分かった。独居高齢者の自宅退院を可能とする因子について,認知症の有無,歩行能力を挙げており,先行研究とは一致しなかった。移乗については,起き上がり,起立,立位保持,方向転換,着座などの要素に加え,車椅子のブレーキ操作,布団をどけるなども含まれており,ベッド周りの動作が重要であることが推察された。交流の採点は適切に交流している頻度,迷惑をかけているかを評価する。同時に交流の相手は他者,家族が含まれるとあり,他者との関わりが重要であることが推察された。
【理学療法学研究としての意義】
独居脳卒中患者において,自宅退院に影響するFIMの小項目について傾向を示し,心理的,社会的な要因を含めて検討していく必要があることが本調査から見出された意義である。FIMの小項目において傾向を示したことで,自宅退院に影響するより重要な評価内容について示唆を与えることができたと考える。
退院後の生活様式の一つに独居生活があり,独居高齢者は今後増加すると予測されている。加えて,脳血管疾患を発症すると今までの生活様式から変更を迫られることが多い。先行研究でも独居であることで自宅退院が困難となる場合があり,回復期リハビリテーション病棟において,独居である脳血管疾患を有する患者の退院先について難渋することが少なくない。当院では日常生活能力を評価する指標として機能的自立度評価法(Functional independence measure:以下,FIM)を用いてリハビリテーションの実施,経過の説明を行っている。本調査の目的は,発症前に独居であった患者で自宅退院に至った群と施設退院に至った群の比較を行い自宅退院が可能となる要因を明らかにすることである。要因を明らかにすることで,独居の自宅退院を支援する有用な一助となる。
【方法】
対象はデータベースソフトによる管理が開始された2007年4月1日から2013年9月30日までに入退院した脳血管疾患を有する患者734例のうち,発症前が独居である患者80例であった。除外基準は発症前が施設であった例,急性期病院へ転院,療養,死亡,入院1週間未満の症例とした。調査項目については,年齢,性別,退院時FIMの総得点,運動項目合計点,認知項目合計点,FIMの各項目を集計した。統計は,性別はχ2検定,在院日数は対応のないt検定,FIMについてはMann-Whitney検定を行い,2群間の差を検討した。自宅退院に影響する要因を検討する上で,自宅退院の可否に対して,年齢,性別,FIM10項目(食事,清拭,排尿管理,移乗車椅子・ベッド・椅子(以下,移乗),移動,理解,表出,交流,解決)の12項目が影響するかを知るために,多重ロジスティック回帰分析を適用した。選択された項目から判別的中率を求めた。FIMの各項目について,Spearmanの順位相関係数を用いて,多重共線性の確認,独立変数の絞り込みを行った。変数の選択には尤度比検定による変数増加法を用いた。統計処理にはR(Ver.2.8.1)を使用し,各検定ともに有意水準を5%未満とした。
【説明と同意】
本調査はヘルシンキ宣言に従い,自由意志に基づく調査協力であること,集計に際していつでも中断して良いこと,それにより通常のリハビリテーションの提供に一切の影響が出ないことを説明し同意を得た。また,当院倫理委員会の承認を得た後に実施した。
【結果】
転帰先について,自宅群54例(独居が36例,家族と同居が18例),非自宅群27例(その他施設が11例,老健が16例)であった。自宅群と非自宅群の2変量解析では,FIM総得点,運動項目合計点,認知項目合計点,FIM各項目のすべての項目について有意差を認めた。多重ロジスティック回帰分析の結果,「食事(odds=0.27,95%信頼区間0.070~1.063,有意差なし)」,「移乗(odds=0.195,95%信頼区間0.066~0.753,p<0.01)」,「表出(odds=2.00,95%信頼区間0.906~4.406,有意差なし)」,「交流(odds=0.290,95%信頼区間0.131~0.643,p<0.01)」が自宅退院の可否に影響する変数として選択された(モデルχ2検定でp<0.01)。Hosmer-Lemeshow検定結果は,p=0.992で適合していることが示された。この4つの要因による判別的中率は88.7%であった。
【考察】
自宅退院の可否に影響する因子として抽出されたのは,食事,移乗,表出,交流であった。独居高齢者の居宅生活に向けた支援として,これらの項目に対する評価や介入の重要性が示唆された。信頼区間は移乗0.066~0.753,交流0.131~0.643で影響力については大きいとは言えないが,とくに移乗,交流の2項目が有意に自宅退院に影響することが分かった。独居高齢者の自宅退院を可能とする因子について,認知症の有無,歩行能力を挙げており,先行研究とは一致しなかった。移乗については,起き上がり,起立,立位保持,方向転換,着座などの要素に加え,車椅子のブレーキ操作,布団をどけるなども含まれており,ベッド周りの動作が重要であることが推察された。交流の採点は適切に交流している頻度,迷惑をかけているかを評価する。同時に交流の相手は他者,家族が含まれるとあり,他者との関わりが重要であることが推察された。
【理学療法学研究としての意義】
独居脳卒中患者において,自宅退院に影響するFIMの小項目について傾向を示し,心理的,社会的な要因を含めて検討していく必要があることが本調査から見出された意義である。FIMの小項目において傾向を示したことで,自宅退院に影響するより重要な評価内容について示唆を与えることができたと考える。