[0712] 回復期リハビリテーション病院退院者における機能的動作に対する自己効力感
キーワード:自己効力感, 機能的動作, QOL
【はじめに,目的】
近年,高齢者や脳卒中後遺症者を対象とした研究において,自己効力感(Self-Efficacy;SE)が注目を集め,身体活動量やQuality of Life(QOL)など地域での生活における活動や社会参加に関連する因子に影響を与えることが報告されている。急な発症や受傷により,身体機能や動作能力に変化が生じた患者においても,SEが在宅生活に復帰していく過程でその後の活動・社会参加に関連する因子に影響を与えることが推察されるが,それらについて言及した報告は少ない。本研究では,理学療法士が臨床で多く関わる機能的動作に対するSEが,退院時にどのような要素と関連があるのか横断的に明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象者はA病院回復期リハビリテーション病棟に入院し,2013年7月から11月に自宅退院し,入院中に自立歩行を達成した16名とし,退院前に面接調査・動作能力測定および基礎情報の調査を実施した。自己効力感は臼田らのFunctional Movement Scale(FMS)に対する自己効力感尺度(FMS自己効力感)を作成(0~10点の11件法,0点~110点),測定を行い,併せてFMSの測定を行った。歩行能力として10m歩行速度,複合的バランス能力としてTimed Up & GO Test(TUG)を測定し,日常生活活動(Activity of daily living;ADL)に関してはFunctional Independent Measure(FIM)を測定し,QOLの測定にはSF-8を使用した。統計解析は,退院時点でのFMS自己効力感とFMS,QOL,歩行能力,バランス能力,日常生活活動との関係を確認するために,FMS自己効力感とFMS,SF-8,10m歩行速度,TUG,FIMの間の相関をSpearmanの順位相関を用いて算出した。統計解析にはSPSS statics20を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は研究者が所属する施設の倫理委員会にて承認を受け実施された。対象者に対し口頭および文書を用いて説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
対象者の疾患内訳は,脳血管疾患12名,整形外科疾患4名であり,男性10名・女性6名,平均年齢68.6±10.2歳,退院時のFIM得点は,運動項目85.9±6.0点,認知項目33.8±1.8点であった。FMS合計点は,中央値43.5点(最大値44点,最小値33点)と高値を示し,FMS自己効力感は中央値102点(最大値110点,最小値45点)であり,これらはr=0.76 p<0.001と有意な強い相関を示した。退院時のFMS自己効力感とその他の各項目との関連は,TUG(r=-0.627 p<0.01),10m歩行速度(r=-0.595 p<0.05),および,FIM(r=0.643 p<0.01)において有意な相関を認めたが,年齢,性別,QOLに関しては有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究は,入院中に自立歩行が達成された患者において,FMSに基づく自己効力感が退院時のどのような因子と関連があるのかについて明らかにすることを目的に実施した。対象者は自立歩行が可能であることから,FMSも満点に近い値を示すものが大半であったが,SEについてはバラつきのある結果となった。これらの結果から,機能的動作が自立しているにも関わらず,動作を行うことに自信がない患者がいることが推察された。自己効力感尺度と実動作能力との乖離が,その後の転倒や閉じこもりなどの要因となりうることが先行研究で指摘されていることから,今後動作能力とSEの乖離に関して,縦断的研究も含めたより一層の検討が必要であると考えられた。また,機能的動作に関するSEは,歩行速度やバランス能力などの動作能力やFIMなどの日常生活活動の得点と関連性があることが示された。本研究から,入院中に理学療法士が介入し,動作能力を高めていくことで,直接的あるいは間接的にSEが高まることが示唆された。しかし,その一方で,年齢,性別,QOL指標との間には有意な関連がなかった。地域で在宅生活を送る上で必要な活動に関するSEを測定した研究においては,SEとQOL・抑うつなどの心理社会因子との関連性が指摘されている。従来使用されている尺度はADL・IADLの次元にてSEを測定していることから,患者のQOL向上を図るためには,機能的動作の次元でSEを高めるだけでなく,ADL・IADLの次元でのSEを高める介入を行う必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
機能的動作に関するSEは,歩行速度やバランス能力などとの関連性が確認され,理学療法士は臨床場面で機能的動作におけるSEを高めることができる可能性が示された。今後は機能的動作に対するSEが,退院後,在宅生活を再開した際の活動・社会参加とどのように関連するのか,さらなる検討が必要であると考えられる。
近年,高齢者や脳卒中後遺症者を対象とした研究において,自己効力感(Self-Efficacy;SE)が注目を集め,身体活動量やQuality of Life(QOL)など地域での生活における活動や社会参加に関連する因子に影響を与えることが報告されている。急な発症や受傷により,身体機能や動作能力に変化が生じた患者においても,SEが在宅生活に復帰していく過程でその後の活動・社会参加に関連する因子に影響を与えることが推察されるが,それらについて言及した報告は少ない。本研究では,理学療法士が臨床で多く関わる機能的動作に対するSEが,退院時にどのような要素と関連があるのか横断的に明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象者はA病院回復期リハビリテーション病棟に入院し,2013年7月から11月に自宅退院し,入院中に自立歩行を達成した16名とし,退院前に面接調査・動作能力測定および基礎情報の調査を実施した。自己効力感は臼田らのFunctional Movement Scale(FMS)に対する自己効力感尺度(FMS自己効力感)を作成(0~10点の11件法,0点~110点),測定を行い,併せてFMSの測定を行った。歩行能力として10m歩行速度,複合的バランス能力としてTimed Up & GO Test(TUG)を測定し,日常生活活動(Activity of daily living;ADL)に関してはFunctional Independent Measure(FIM)を測定し,QOLの測定にはSF-8を使用した。統計解析は,退院時点でのFMS自己効力感とFMS,QOL,歩行能力,バランス能力,日常生活活動との関係を確認するために,FMS自己効力感とFMS,SF-8,10m歩行速度,TUG,FIMの間の相関をSpearmanの順位相関を用いて算出した。統計解析にはSPSS statics20を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は研究者が所属する施設の倫理委員会にて承認を受け実施された。対象者に対し口頭および文書を用いて説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
対象者の疾患内訳は,脳血管疾患12名,整形外科疾患4名であり,男性10名・女性6名,平均年齢68.6±10.2歳,退院時のFIM得点は,運動項目85.9±6.0点,認知項目33.8±1.8点であった。FMS合計点は,中央値43.5点(最大値44点,最小値33点)と高値を示し,FMS自己効力感は中央値102点(最大値110点,最小値45点)であり,これらはr=0.76 p<0.001と有意な強い相関を示した。退院時のFMS自己効力感とその他の各項目との関連は,TUG(r=-0.627 p<0.01),10m歩行速度(r=-0.595 p<0.05),および,FIM(r=0.643 p<0.01)において有意な相関を認めたが,年齢,性別,QOLに関しては有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究は,入院中に自立歩行が達成された患者において,FMSに基づく自己効力感が退院時のどのような因子と関連があるのかについて明らかにすることを目的に実施した。対象者は自立歩行が可能であることから,FMSも満点に近い値を示すものが大半であったが,SEについてはバラつきのある結果となった。これらの結果から,機能的動作が自立しているにも関わらず,動作を行うことに自信がない患者がいることが推察された。自己効力感尺度と実動作能力との乖離が,その後の転倒や閉じこもりなどの要因となりうることが先行研究で指摘されていることから,今後動作能力とSEの乖離に関して,縦断的研究も含めたより一層の検討が必要であると考えられた。また,機能的動作に関するSEは,歩行速度やバランス能力などの動作能力やFIMなどの日常生活活動の得点と関連性があることが示された。本研究から,入院中に理学療法士が介入し,動作能力を高めていくことで,直接的あるいは間接的にSEが高まることが示唆された。しかし,その一方で,年齢,性別,QOL指標との間には有意な関連がなかった。地域で在宅生活を送る上で必要な活動に関するSEを測定した研究においては,SEとQOL・抑うつなどの心理社会因子との関連性が指摘されている。従来使用されている尺度はADL・IADLの次元にてSEを測定していることから,患者のQOL向上を図るためには,機能的動作の次元でSEを高めるだけでなく,ADL・IADLの次元でのSEを高める介入を行う必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
機能的動作に関するSEは,歩行速度やバランス能力などとの関連性が確認され,理学療法士は臨床場面で機能的動作におけるSEを高めることができる可能性が示された。今後は機能的動作に対するSEが,退院後,在宅生活を再開した際の活動・社会参加とどのように関連するのか,さらなる検討が必要であると考えられる。