第49回日本理学療法学術大会

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2014年5月31日(土) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (物理療法)

座長:森下勝行(郡山健康科学専門学校応用理学療法学科)

物理療法 ポスター

[0718] 車椅子座位姿勢における深部静脈還流速度改善方法の検討について

徳田裕1, 笹谷勇太2 (1.富山医療福祉専門学校理学療法学科, 2.富山県厚生連高岡病院リハビリテーション科)

キーワード:DVT, 静脈還流速度, 他動運動

【はじめに】
日本整形外科学会の深部静脈血栓症(以下,DVT)予防ガイドラインでは,長時間の車椅子座位保持は,静脈環流速度の低下から血栓形成の可能性があり,その予防として定期的に立ち上がりや歩行を行う必要があるとしている。しかし術後早期の患者は,疼痛や荷重制限により立ち上がりや歩行ができず車椅子座位による移動を余儀なくされる。我々は先行研究にて車椅子座位保持10分以降に静脈還流速度が有意に低下することを明らかにした。そこで本研究の目的は,車椅子座位姿勢における異なる介入方法が静脈還流速度に与える影響について明らかにすることとした。
【方法】
対象は循環器系に既往のない健常成人9名(性別:男性6名,女性3名,年齢24±9歳,身長169.3±9.8cm,体重62.9±9kg)とした。
方法は室温約23℃,湿度約50%の環境下で標準型車椅子を用い,対象者を座面深く腰掛けさせフットレストに足部を乗せた肢位で10分間安静にさせた。その後介入前,介入時の血流速度をそれぞれ測定した。介入方法は足関節他動運動(背屈),足関節自動運動(底背屈),フットポンプ,カフポンプとし,ランダムに実施した。なお各介入には10分間の馴化時間を設定した。測定血管は左大伏在静脈とし,静脈還流速度測定にはデジタルカラー超音波診断装置,プローブはリニア深触子(7.5MHz)を用いパルスドプラ法にて測定した。測定項目は収縮期最高血流速度(PSV)とした。介入前と介入時の比較には対応のあるt検定。各介入方法間の比較には介入前を基準とした変化率を算出し一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合には多重比較検定を用い検討した。いずれの有意水準も危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,全ての対象者には研究の目的,方法,期待される効果,個人情報保護について口頭および書面にて説明し,研究への同意を得た。
【結果】
各介入前と介入時の比較では介入前に比べ介入時のPSV値が有意に高値を示した(p<0.01)。また一元配置分散分析の結果,足関節他動運動953±228.8%,足関節自動運動627.9±147.9%,フットポンプ293.3±76.6%,カフポンプ206.7±72.5%となり,足関節他動運動,足関節自動運動の順に有意に高値を示した(p<0.01)。多重比較検定(Games-Howell法)では,足関節自動運動に比べ足関節他動運動が有意に高値を示した(p<0.05)。またフットポンプとカフポンプの比較では有意差を認めなかった。それ以外の比較では有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】
下肢の静脈血を心臓へ還流させるには,下腿筋ポンプ作用,呼吸ポンプ作用,下肢挙上,間欠的空気圧迫法や弾性ストッキングによる方法がある。その中でも下腿筋ポンプ作用が最も有効な駆動力とされ,静脈還流速度は圧迫圧と貯留する血液量により影響を受ける。足関節自動運動より足関節他動運動が有意に静脈還流速度が高値を示した。これは,今回の車椅子座位姿勢では足部が身体で最も低位となり,足底静脈叢での鬱血が顕著に生じていることが考えられる。足関節他動運動は足関節自動運動よりも鬱血している足底静脈叢を被検者の前腕部で圧迫できることや,足関節自動運動による下腿三頭筋活動張力,静止張力より他動運動による静止張力のほうが筋ポンプ作用には有効に働くことが考えられた。また,下腿部を圧迫するカフポンプに比べ足底部を圧迫するフットポンプでは有意差は認められなかったが静脈還流速度の増加傾向を示したが高値を示した。これも車椅子座位姿勢では足底静脈叢に鬱血が生じフットポンプによる圧迫が有効に寄与したと考えられた。
今回の結果より座位姿勢において下腿深部静脈還流速度を改善する方法として足関節他動運動が有効であることが示唆された。間歇的空気圧迫装置では背臥位姿勢と,座位姿勢では静脈還流速度に与える影響が異なる可能性も示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より車椅子座位姿勢における下腿深部静脈還流速度を改善する方法として足関節他動運動の有効性を確認でき,今後のDVT予防における理学療法手段の一つとして加えられる可能性を示したと考えられる。