[0722] 変形性膝関節症患者における,下肢機能や変形レベルと疼痛認識との関連性
Keywords:Pain Catastrophizing Scale, 下肢機能, 変形性膝関節症
【はじめに,目的】生活の中で痛みとは,多くの人が体験する問題である。現在,認知行動的アプローチが重要視されており,痛みを訴える患者の多くは,心理的問題によって症状の改善が困難になっている者も少なくない。痛みを助長する要因としては,身体機能的要因と精神的要因が影響しており,痛みの経験による過度な想起やネガティブな心理傾向によるトラウマ的思考が挙げられる。これらの破局的思考により,痛みが増強され様々な障害に繋がると指摘されている。しかし,日本国内において,変形性膝関節症(以下,膝OA)患者における破局的思考と身体機能的要因との関連性を述べている報告は少ない。本研究の目的は膝OA患者を対象に自身の疼痛に対する認識が下肢機能面や形態的変化の程度と関連があるかを調べることである。
【方法】当院にて膝OAの診断を受け,人工関節全置換術(以下,TKA)手術を予定している患者105名114膝(男性14名,女性91名,平均年齢73.1歳,)を対象とした。除外基準は,関節リウマチの診断でTKA予定の者,神経疾患を持つ者,再置換例,データに不備のある者とした。対象者には,術前に破局的思考評価としてPain Catastrophizing Scale(以下PCS)を記入してもらった。PCSは13項目52点満点で測定され,「反すう(Rumination)」,「無力感(Helplessness)」,「拡大視(Magnification)」の3つの下位尺度からなる。それぞれ,痛みについて繰り返し考える傾向,痛みに関する無力感の程度,痛み感覚の脅威性の評価を反映している。点数が高いものほど痛みをネガティブで過剰に捉える破局的思考が強いとされる。また,機能評価としてJOA score,形態的変化の程度としてFTAと北大OA stage分類を使用した。機能評価は全て1名の整形外科医が行った。統計学的解析にはSpearmanの順位相関係数検定を用い,PCSと身体機能的要因との関連性を検証した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,本研究の目的と内容を十分に説明し,同意を得たうえで行った。
【結果】PCS totalは平均28.5(Rumination:10.15,Helplessness:12.39,Magnification:6.08)であった。JOA scoreは平均56.7点,FTAは平均183.6°,北大OA stageは,平均3.97(III:33名,IV:44名,V:37名)であった。統計学的解釈の結果は,PCSのtotal score,下位尺度であるRumination,Helplessness,Magnitudeの全てにおいて,JOAスコア,FTA,OA stageと相関は認められなかった。
【考察】本研究では,PCSのtotal score,下位尺度であるRumination,Helplessness,Magnitudeの全てにおいて,JOAスコア,FTA,OA stageと相関は認められなかった。臨床の現場において,明らかな所見や問題がないにも関わらず,疼痛が長期間残存する症例は少なくない。そのような場合,患者の性格や考え方,信条を考慮することは重要なことであると言える。海外の諸家らの報告によると,TKAを施行した患者において,術後残存する痛みに関連する因子として,特にPCSが患者の予後に著明な影響を与えるとされている。また,健常成人においても,PCSは将来慢性疼痛を有する可能性や,疼痛に対しての治療が必要になる可能性を予測しうると言われている。日本では,2007年に松岡らによりPCS日本語版が作成され,信頼性および妥当性があるものとして報告されている。しかし,日本において膝OA患者のPCSと身体機能面との関連性を報告している研究はない。本研究の結果が海外の研究と異なる結果となった理由として,今回検証した評価項目は,患者の主観的評価であるPCSと,客観的評価であるJOA score,FTA,OA stageであるという点があげられる。そのため,質的,量的な評価の相違が生じていると考えられ,今後は患者立脚型の質問紙との比較の必要性が考えられる。また,種々の研究は外国で行われたものであり,諸外国と日本人の疼痛の表出の仕方の差も考慮される必要があると思われる。これらのことから,PCS単独では膝OA患者の客観的な身体機能面を予測することは困難であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】慢性疾患の患者に対して,痛みの捉え方を含めた認知,情動,精神面を評価することは臨床上重要である。しかし,膝OA患者に対してPCSのみでは,身体機能面につながる認知面の評価を十分に行うことは困難であると思われる。そのため,より複合的な患者の精神面や考え方,痛みの認識の評価が可能となるスケールの普及が重要である。
【方法】当院にて膝OAの診断を受け,人工関節全置換術(以下,TKA)手術を予定している患者105名114膝(男性14名,女性91名,平均年齢73.1歳,)を対象とした。除外基準は,関節リウマチの診断でTKA予定の者,神経疾患を持つ者,再置換例,データに不備のある者とした。対象者には,術前に破局的思考評価としてPain Catastrophizing Scale(以下PCS)を記入してもらった。PCSは13項目52点満点で測定され,「反すう(Rumination)」,「無力感(Helplessness)」,「拡大視(Magnification)」の3つの下位尺度からなる。それぞれ,痛みについて繰り返し考える傾向,痛みに関する無力感の程度,痛み感覚の脅威性の評価を反映している。点数が高いものほど痛みをネガティブで過剰に捉える破局的思考が強いとされる。また,機能評価としてJOA score,形態的変化の程度としてFTAと北大OA stage分類を使用した。機能評価は全て1名の整形外科医が行った。統計学的解析にはSpearmanの順位相関係数検定を用い,PCSと身体機能的要因との関連性を検証した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,本研究の目的と内容を十分に説明し,同意を得たうえで行った。
【結果】PCS totalは平均28.5(Rumination:10.15,Helplessness:12.39,Magnification:6.08)であった。JOA scoreは平均56.7点,FTAは平均183.6°,北大OA stageは,平均3.97(III:33名,IV:44名,V:37名)であった。統計学的解釈の結果は,PCSのtotal score,下位尺度であるRumination,Helplessness,Magnitudeの全てにおいて,JOAスコア,FTA,OA stageと相関は認められなかった。
【考察】本研究では,PCSのtotal score,下位尺度であるRumination,Helplessness,Magnitudeの全てにおいて,JOAスコア,FTA,OA stageと相関は認められなかった。臨床の現場において,明らかな所見や問題がないにも関わらず,疼痛が長期間残存する症例は少なくない。そのような場合,患者の性格や考え方,信条を考慮することは重要なことであると言える。海外の諸家らの報告によると,TKAを施行した患者において,術後残存する痛みに関連する因子として,特にPCSが患者の予後に著明な影響を与えるとされている。また,健常成人においても,PCSは将来慢性疼痛を有する可能性や,疼痛に対しての治療が必要になる可能性を予測しうると言われている。日本では,2007年に松岡らによりPCS日本語版が作成され,信頼性および妥当性があるものとして報告されている。しかし,日本において膝OA患者のPCSと身体機能面との関連性を報告している研究はない。本研究の結果が海外の研究と異なる結果となった理由として,今回検証した評価項目は,患者の主観的評価であるPCSと,客観的評価であるJOA score,FTA,OA stageであるという点があげられる。そのため,質的,量的な評価の相違が生じていると考えられ,今後は患者立脚型の質問紙との比較の必要性が考えられる。また,種々の研究は外国で行われたものであり,諸外国と日本人の疼痛の表出の仕方の差も考慮される必要があると思われる。これらのことから,PCS単独では膝OA患者の客観的な身体機能面を予測することは困難であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】慢性疾患の患者に対して,痛みの捉え方を含めた認知,情動,精神面を評価することは臨床上重要である。しかし,膝OA患者に対してPCSのみでは,身体機能面につながる認知面の評価を十分に行うことは困難であると思われる。そのため,より複合的な患者の精神面や考え方,痛みの認識の評価が可能となるスケールの普及が重要である。