第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法15

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (神経)

座長:大槻暁(順天堂大学医学部附属練馬病院リハビリテーション科)

神経 ポスター

[0735] 新しい3軸加速度計システムによる脳卒中患者の車いす駆動時間の測定

照井佳乃1,2, 川越厚良2,3, 澤村幸恵4, 須藤恵理子1, 佐竹將宏2, 長谷川弘一1, 塩谷隆信2 (1.秋田県立リハビリテーション・精神医療センター, 2.秋田大学医学系研究科保健学専攻, 3.市立秋田総合病院リハビリテーション科, 4.秋田県立脳血管研究センター機能訓練部)

Keywords:脳卒中患者, 車いす駆動時間, 3軸加速度計

【はじめに,目的】
脳卒中患者の能力低下の防止のため身体活動量の増加が必要である。歩行が自立していない脳卒中患者において,身体活動量として車いす駆動を測定した研究は見当たらない。本研究では若年健常者を対象として車いす駆動時間を測定できる新しい3軸加速度計システムの妥当性を証明し,本機器を使用して回復期病棟に入院する脳卒中患者の車いす駆動時間を測定し,日常生活活動(ADL)能力との関連を検討することを目的とした。
【方法】
身体活動量の測定に新しく開発された3軸加速度計システムA-MESTM(ソリッドブレインズ社,熊本)を用いた。研究1では,対象者は若年健常者12名(平均年齢21.3±1.2歳)とした。A-MESを装着し臥位,座位,立位,歩行,車いす駆動を各5分ずつ連続で行った。歩行は正常歩行,車いす駆動は片手片足駆動とした。動作の順番は対象者が決めた。映像内に時計を入れてビデオで動作を撮影し,動作時間を記録した。研究2では,対象者は脳卒中患者30名(平均年齢69.1±10.9歳)とした。測定期間は1週間,1日のA-MESの装着時間は午前7時からの12時間とし,理学・作業療法の時間は除外して,1日の平均車いす駆動時間を求めた。また,身体機能の評価に運動麻痺はBrunnstrom stage,歩行能力は10m歩行テストとPhysiological Cost Index(PCI),運動能力はMotor Age Test(MOA),腹直筋筋力はManual Muscle Testing(MMT),下肢筋力はCybexによる膝関節伸展・屈曲筋力,立位バランスは開眼閉脚立位と閉眼閉脚立位における重心動揺検査,上肢筋力は握力を測定した。高次脳機能の評価に認知機能は改訂長谷川式知能評価スケール(HDS-R),半側空間無視はBIT行動無視検査,注意機能はTrail Making Test PartA(TMT)を測定した。ADL能力にFunctional Independence Measure(FIM)を評価した。
研究1においてA-MESによる各姿勢・動作時間とビデオで記録した各姿勢・動作時間をBland-Altman分析にて比較検討した。研究2においてFIM合計得点と車いす駆動時間や各評価指標との相関を求めるためにSpearmanの順位相関係数を使用した。FIM合計得点を従属変数とし,相関がみられた評価指標と年齢を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。相関係数と重回帰分析にはPASW statistics18を使用し,危険率p<0.05を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究1・2共にヘルシンキ宣言を遵守した。研究2は秋田大学倫理審査委員会,秋田県立リハビリテーション・精神医療センターの倫理委員会の承認を得た。研究1・2とも対象者へは書面と口頭で説明し書面同意を得た。
【結果】
研究1においてA-MESの測定時間とビデオの記録時間の差の平均は座位10.60±16.16秒,立位0.83±1.99秒,車いす駆動11.30±19.82秒であり,臥位と歩行は両測定間に差がなかった。Bland-Altman分析の結果よりA-MESの測定時間とビデオで記録した姿勢・動作時間には加算誤差と比例誤差は認められなかった。研究2において脳卒中患者の1日の平均車いす駆動時間は57.1±28.8分であった。FIM合計得点と有意な相関のある評価は車いす駆動時間(r=0.770,p=0.000),MOA(r=0.638,p=0.000),腹直筋筋力(r=0.452,p=0.012),非麻痺側握力(r=0.491,p=0.006),TMT(r=-0.589,p=0.002)であった。重回帰分析によりFIM合計得点を従属変数として抽出された独立変数は車いす駆動時間(標準回帰係数0.630)とMOA(標準回帰係数0.370)であった(R=0.806,R2=0.616)。
【考察】
研究1の結果,A-MESとビデオの間に系統誤差である加算誤差および比例誤差は認められず,A-MESでの姿勢・動作時間の評価の妥当性が証明された。座位と車いす駆動を比べると,車いす駆動の方が上下肢で運動しており身体活動量が多いと考えられる。A-MESでは座位と車いす駆動を判別可能であることが示された。そのため,今まで評価することが困難であった車いす駆動で移動する者の身体活動量をA-MESを用いて定量的に評価できることが明らかとなった。研究2にて重回帰分析によりFIM合計得点に対する独立変数として車いす駆動時間が抽出されたことから,脳卒中患者において車いす駆動時間とADL自立度は密接に関連することが示唆された。車いす駆動は歩行が自立していない患者が実施できる安全な動作であることから,歩行が自立していない患者に対して自主トレーニングとして車いす駆動を促すことがADL能力向上につながる可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
新しく開発された3軸加速度計システムA-MESにより,車いす駆動で移動する者の身体活動量を客観的に定量評価することが可能である。歩行自立していない脳卒中患者のADL能力向上のために,日常生活における車いす駆動時間を延ばし身体活動量を増加させることが有用である可能性が示唆された。