第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防8

Sat. May 31, 2014 10:25 AM - 11:15 AM 第6会場 (3F 304)

座長:村田伸(京都橘大学健康科学部)

生活環境支援 口述

[0748] 転倒経験者における転倒予防対策の実態

浅川康吉1, 遠藤文雄2 (1.群馬大学大学院保健学研究科, 2.新潟リハビリテーション大学)

Keywords:地域在住高齢者, 転倒, 再発予防

【目的】転倒経験は転倒リスクのひとつとされているが,転倒経験者がどのような転倒予防対策に取り組んでいるのか,その実態には不明な点が多い。本研究の目的は,転倒を経験した地域在住高齢者が,転ばないために心がけていることの内容とその心がけを促す要因を明らかにすることである。
【方法】群馬県内各地で実施した高齢者向け健康教室(転倒予防教室,筋力トレーニング教室など)の参加者232名のうち,65歳以上の参加者で,「過去1年以内に転んだことがある」または「過去1年以内に転びそうになったことがある」と回答した者81名(74.6±5.3歳)を対象とした。転倒予防対策に関しては,まず「転ばないための心がけ」の有無を尋ね,有の場合はその内容を尋ねた。調査方法は転倒予防教室の態様に応じて質問紙法や個別聴取法を用いた。得られた回答は,米国老年医学会などによる転倒予防のガイドライン(2001年)のSingle interventionの項目を参照のうえ,「運動」,「行動・教育」,「補助具」,「環境整備」,「服薬」,「その他」に分類した。転倒予防対策の有無に関連する要因については,「転ばないための心がけ」が有の者(心がけ有群)と無の者(心がけ無群)との比較により検討した。比較した項目は,年齢,性別,定期的通院の有無といった基本属性と老研式活動能力指標(点),Fall Efficacy Scale(FES)(点)および,握力(kg),開眼片脚起立時間(秒),Timed Up and Go(TUG)(秒)といった運動機能データであった。統計学的検定にはデータの性状に応じてカイ二乗検定またはMann-Whitney検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。健康教室参加者への研究内容の説明は口頭で行い,研究参加への同意は署名により得た。
【結果】対象者81名のうち,「転ばないための心がけ」が有りの者は46名(56.8%)であった。うち45名の回答内容は1件で,1名が2件の内容を回答したため,心がけの内容は計47件となった。心がけの内容を分類した結果,最も多かったのは,あわてないようにしている,足を高くあげて歩くようにしている,などの「行動・教育」で32件(68.1%)を占めた。以下,筋力トレーニングなどの「運動」が8件(17.0%),杖の積極的な利用などの「補助具」が5件(10.6%),サンダルを履かないなどの「その他」が2件(4.3%)であった。「環境整備」と「服薬」にあたる回答はなかった。「転ばないための心がけ」の有無に関連する要因の検討では,心がけ有群(n=46)と心がけ無群(n=35)とで差を認めた項目は握力とTUGであった。握力は心がけ有群の24.9±7.0(kg)に対して心がけ無群は28.7±8.9(kg),TUGは心がけ有群の6.7±2.7(秒)に対して心がけ無群は5.9±1.8(秒)といずれも心がけ有群のほうが心がけ無群より成績が低かった。なお,統計学的に有意ではなかったものの,性別については,心がけ有群における男性の割合が13名(28.3%)で心がけ無群の16名(45.7%)よりも低かった。また,FESにおいても心がけ有群は中央値37(点)と心がけ無群の中央値39(点)よりも低値を示した。他の項目については両群間に有意な差を認めなかった。
【考察】本研究の対象者は健康教室への参加者であり,健康増進や介護予防に対する意識の高い高齢者と思える。しかし,転倒した,あるいは,転びそうになった経験をした者のうち,転倒予防(再発予防)を心がけていた者は56.8%に過ぎなかった。地域在住高齢者では,転倒経験をしても,その経験が転倒予防対策へと結びつかない場合が少なくないと考えられる。
「転ばないための心がけ」の内容からは,転倒予防対策を実践している高齢者の主たる関心が「行動・教育」に向いており,「環境整備」や「服薬」へは向いていないことが示された。「運動」や「補助具」への関心も低かった。関連要因の検討からは,転倒経験者は運動機能が低下すると転倒予防を心がけるようになる傾向があることが示された。また,性別や自己効力感も転倒予防のための心がけに影響する可能性があることも示された。地域在住高齢者が転倒を経験した場合,その経験を転倒予防対策に活かすように促すこと,その際には,内因対策と外因対策を包括した転倒予防対策の重要性を強調することが必要と思われた。
【理学療法学研究としての意義】高齢者のなかには転んだり,転びそうになったりといった経験をしている者が少なくない。転倒経験はこれまで転倒リスクとして注目されてきたが,本研究は,その視点を転換し,転倒経験を転倒予防対策を促すきっかけとして活用する視点から行った研究として意義があると思える。