第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防8

Sat. May 31, 2014 10:25 AM - 11:15 AM 第6会場 (3F 304)

座長:村田伸(京都橘大学健康科学部)

生活環境支援 口述

[0750] 二重課題がTimed Up & Go Testに与える影響

野中理絵 (介護老人保健施設しらさぎの里)

Keywords:転倒, 二重課題, TUG

【はじめに,目的】
近年,転倒予測の有用な評価指標として,Timed Up Go Test(以下,TUG)に注意力を分散させる課題を同時遂行させる二重課題法が報告されている。先行研究では付加課題として減算や逆唱,水の入ったコップを運ぶなどの課題が見受けられるが,課題内容は統一されていない。今回,新たな付加課題として語想起を付加したTUG(dual-task TUG;以下,D-TUG)を実施し,転倒群と非転倒群での違いを検討した。
【方法】
対象は当施設通所リハビリテーションを利用しており,屋内歩行が独歩または杖で自立している23名とした。過去1年間の転倒経験の有無を調査し,転倒群10名(男性6名,女性4名,平均年齢76.4±7.9歳)と非転倒群13名(男性6名,女性7名,平均年齢77.5±7.3歳)とに分類した。
認知機能評価としてMini-Mental State Examination(以下,MMSE),運動機能評価として10m歩行テストとTUG,二重課題法としてD-TUGを実施した。D-TUGにおける付加課題は,The Rapid Dementia Screening Test日本語版で使用されている課題(スーパーマーケットやコンビニエンスストアで買えるものを口頭で述べるもの)とした。なお,開始してから着座するまで立ち止まることなく語想起課題を続けることを測定開始前に口頭指示した。ただし開始しても語想起が行えなかった場合や立ち止まってしまった場合には再測定した。
転倒群と非転倒群間で,MMSE,10m歩行テスト,TUG,D-TUGの比較を行った。統計処理はIBM SPSS Statistics Version21を使用し,Mann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理審査委員会で承認を受け,対象者には事前に研究の主旨を口頭・書面にて十分に説明し同意を得た。
【結果】
転倒群ではMMSE 25.0±2.5点,10m歩行テスト14.4±5.2秒,TUG 17.2±6.3秒,非転倒群ではMMSE 25.0±2.2点,10m歩行テスト16.8±7.6秒,TUG 17.4±7.6秒と,認知機能および運動機能評価では有意差は認められなかった。D-TUGでも転倒群23.9±8.5秒,非転倒群26.8±12.1秒と,有意差は認められなかったが,非転倒群の方が時間を要する傾向を示した。
【考察】
認知機能評価として実施したMMSEは,認知症のスクリーニングとして用いられており,23点以下で認知症の疑いがあるとされている。平均値は両群ともに24点を上回っており,全般的に認知機能は保たれていた。
運動機能評価では転倒群と非転倒群で有意差は認められなかった。TUG測定時間の判定として,10~19秒を要する者は基本的な移動は自立といわれている。両群ともに平均値がその範囲内であり,運動機能は保たれていると考えられる。
二重課題では,2つの課題への注意を適切に配分しながら課題を同時遂行することが求められる。この機能は前頭連合野が関与していると考えられており,向けられる注意量にも限界があるとされる。先行研究では,転倒リスクの高い高齢者では,注意資源の中で歩行に向けられる注意量の割合が増大しているといわれている。歩行以外の課題に注意を向けることで,歩行に対する注意量が急激に減少し,易転倒傾向となる。本研究では,D-TUGにおいて転倒群で有意に時間が遅延すると予測していたが,実際には転倒群と非転倒群で有意差は認められず,非転倒群の方が時間を要する傾向を示した。この原因として,転倒群では付加課題に対して向けられた注意量が小さく,TUGに対する注意量が非転倒群よりも大きくなった結果,非転倒群と比べD-TUG所要時間が短かったことが考えられる。非転倒群では課題付加によりTUGに対する注意量が減少し,転倒群より時間の遅延が大きくなったと考えられる。付加課題に向けられた注意量に差が生じた要因として,対象者の付加課題に対する捉え方の違いが挙げられる。今回語想起の単語数を測定しなかったが,単語数も測定することで,付加課題へ配分された注意量も確かめることが出来ると考える。また,付加課題への捉え方に差が生じないような説明方法の検討も必要であると考える。
本研究では両群でD-TUGで時間の遅延が認められており,方向転換や着座の際に減速する傾向を示していた。TUGは立ち上がりや方向転換,着座といった様々な動作が含まれており,今後は個別の動作における二重課題条件下での違いを調べる必要もあると考える。そして転倒機転との関連性を検討することで,より鋭敏な転倒のスクリーニングが行える可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】
今回,語想起を付加したTUGでは転倒歴による有意な差が生じなかった。この原因として付加課題に向けられた注意量の違いが考えられた。今後は課題の難易度や説明方法を検討し,どのような課題設定が,より高齢者の転倒リスク評価に有用であるかを検討する必要があると考える。