[0754] 病院に勤務するリハビリテーション専門職のキャリア志向
キーワード:人財育成, 就労, 業務管理
【はじめに】
我々の先行研究では理学療法士を目指す学生は,当初,社会貢献を中心とした内発的な動機(やりがい)に価値を見出していた。その後の調査では,臨床実習などを経て職業の詳細を知るに従い,生活の安定や調和へ価値を置くように変化が生じていた。卒業後は,専門職としてキャリアの第一歩を踏み出すわけだが,ミスマッチ・リアリティショックという言葉に代表されるように,早期退職する者も後を絶たない。キャリア形成の援助は分野や条件など個別の価値観に左右されるところが大きく,画一的に実施することができない。そこで今回は,専門職のキャリアサポートの一助とするべく,大半を占める病院勤務の専門職はどのような価値観を持っているのか調査を行う。
【方法】
某総合病院に勤務するリハビリテーション科専門職40名(男性14名,女性26名)を対象とした。専門職の属性は理学療法士22名,作業療法士14名,言語聴覚士4名で,平均経験年数は4.0±3.3年であった。専門職の価値観については,Edgar H.Scheinにより開発されたキャリア指向質問票40項目を用いた。質問は価値観に対する8つのカテゴリー,各5問で構成され,個人の持つキャリアに対する動機や価値観についての質問を,「全くそう思わない=1」から「全くその通りだと思う=6」の6段階にて共感度を指数化する。さらに,非常に強く共感した質問を3つ選択し4を加算する。それらすべてをカテゴリーごとに合算し平均を求め,最も高い数値を示したカテゴリーが,キャリアに対する犠牲にしたくない自身の価値観(キャリアアンカー)となる。この手続きにて得られた個人の価値観,各カテゴリーの共感度を職種や経験年数にて比較し検討を行った。なお,統計学的処理はSPSS.Ver16にて5%未満を有意水準とし,χ二乗検定を用いた。
【倫理的配慮・説明と同意】
対象者の属する病院の倫理委員会承認のもと,口頭および書面にて説明し同意を得た上で実施した。
【結果】
総合病院に勤務するリハビリテーション専門職の価値観は「特定専門」11名「総合管理」「自由自律」「安全安定」「創意創業」は0名「奉仕貢献」4名「挑戦克服」3名「生活様式」22名であった。全体の傾向としては,「特定専門」「生活様式」に価値観を持つ専門職が多かった。また,各カテゴリーでの共感度の比較では,リーダーシップを発揮することやマネジメントに価値を見出す「総合管理」は「3」(あまりそう思わない)を下回り共感度が低かった。
【考察】
「特定専門」にキャリアアンカーを持つものは,自身の技能を発揮できる機会を求め,常にその技能に磨きをかけることに価値を見出し,「生活様式」では個人・家族・キャリアのニーズを統合させ,生活の調和と自身をどう成長させるかに価値を見出すといわれている。
金井らによれば,キャリアの発達には概ね10年以上かかり,キャリアの段階は仕事選びから退職まで10段階の過程があるといわれている。今回の対象は平均経験年数が4年程度と,この段階に照らし合わせると第3段階の「仕事生活に入る」から,第5段階の「一人前の成員になる」までに相当する。このことから今回の結果は,専門職として一人前になるために技能を磨くことや,社会生活と自分自身の仕事での成長に調和を求めることに価値を置いたのであろう。また,「総合管理」の共感度が低かったことも,これらの理由からすれば,自身の価値とは正反対の価値となり共感は得られにくかったと考えられる。
リハビリテーションに対する社会的ニーズが高まるとともに,活躍の場である病院,施設に所属する専門職は増加かつ若年化が急激におきている。それらの多くは質を向上させるための研鑽の必要性が高く,同時に結婚や出産というライフイベントを控えている世代でもある。ミスマッチや生活的な問題が生じると離職につながり,良好なキャリアが形成できないばかりか,病院では対象者に十分なサービス提供ができなくなる可能性がある。良好なキャリア形成のためには,個々が自身のニーズや価値を十分理解するとともに,管理者も個別性を踏まえた計画的な援助をすることが重要であると考えられた。
【理学療法研究としての意義】
近年は社会情勢の変化により「働き方」が多様化している。理学療法業界も若年層が大半を占め,ライフステージの変化に応じキャリアを継続的に支援できるシステムの構築が急務である。就労における個々の価値観は確立までに期間を要し,その発達過程の把握から方略を検討することは意義のあることといえる。
我々の先行研究では理学療法士を目指す学生は,当初,社会貢献を中心とした内発的な動機(やりがい)に価値を見出していた。その後の調査では,臨床実習などを経て職業の詳細を知るに従い,生活の安定や調和へ価値を置くように変化が生じていた。卒業後は,専門職としてキャリアの第一歩を踏み出すわけだが,ミスマッチ・リアリティショックという言葉に代表されるように,早期退職する者も後を絶たない。キャリア形成の援助は分野や条件など個別の価値観に左右されるところが大きく,画一的に実施することができない。そこで今回は,専門職のキャリアサポートの一助とするべく,大半を占める病院勤務の専門職はどのような価値観を持っているのか調査を行う。
【方法】
某総合病院に勤務するリハビリテーション科専門職40名(男性14名,女性26名)を対象とした。専門職の属性は理学療法士22名,作業療法士14名,言語聴覚士4名で,平均経験年数は4.0±3.3年であった。専門職の価値観については,Edgar H.Scheinにより開発されたキャリア指向質問票40項目を用いた。質問は価値観に対する8つのカテゴリー,各5問で構成され,個人の持つキャリアに対する動機や価値観についての質問を,「全くそう思わない=1」から「全くその通りだと思う=6」の6段階にて共感度を指数化する。さらに,非常に強く共感した質問を3つ選択し4を加算する。それらすべてをカテゴリーごとに合算し平均を求め,最も高い数値を示したカテゴリーが,キャリアに対する犠牲にしたくない自身の価値観(キャリアアンカー)となる。この手続きにて得られた個人の価値観,各カテゴリーの共感度を職種や経験年数にて比較し検討を行った。なお,統計学的処理はSPSS.Ver16にて5%未満を有意水準とし,χ二乗検定を用いた。
【倫理的配慮・説明と同意】
対象者の属する病院の倫理委員会承認のもと,口頭および書面にて説明し同意を得た上で実施した。
【結果】
総合病院に勤務するリハビリテーション専門職の価値観は「特定専門」11名「総合管理」「自由自律」「安全安定」「創意創業」は0名「奉仕貢献」4名「挑戦克服」3名「生活様式」22名であった。全体の傾向としては,「特定専門」「生活様式」に価値観を持つ専門職が多かった。また,各カテゴリーでの共感度の比較では,リーダーシップを発揮することやマネジメントに価値を見出す「総合管理」は「3」(あまりそう思わない)を下回り共感度が低かった。
【考察】
「特定専門」にキャリアアンカーを持つものは,自身の技能を発揮できる機会を求め,常にその技能に磨きをかけることに価値を見出し,「生活様式」では個人・家族・キャリアのニーズを統合させ,生活の調和と自身をどう成長させるかに価値を見出すといわれている。
金井らによれば,キャリアの発達には概ね10年以上かかり,キャリアの段階は仕事選びから退職まで10段階の過程があるといわれている。今回の対象は平均経験年数が4年程度と,この段階に照らし合わせると第3段階の「仕事生活に入る」から,第5段階の「一人前の成員になる」までに相当する。このことから今回の結果は,専門職として一人前になるために技能を磨くことや,社会生活と自分自身の仕事での成長に調和を求めることに価値を置いたのであろう。また,「総合管理」の共感度が低かったことも,これらの理由からすれば,自身の価値とは正反対の価値となり共感は得られにくかったと考えられる。
リハビリテーションに対する社会的ニーズが高まるとともに,活躍の場である病院,施設に所属する専門職は増加かつ若年化が急激におきている。それらの多くは質を向上させるための研鑽の必要性が高く,同時に結婚や出産というライフイベントを控えている世代でもある。ミスマッチや生活的な問題が生じると離職につながり,良好なキャリアが形成できないばかりか,病院では対象者に十分なサービス提供ができなくなる可能性がある。良好なキャリア形成のためには,個々が自身のニーズや価値を十分理解するとともに,管理者も個別性を踏まえた計画的な援助をすることが重要であると考えられた。
【理学療法研究としての意義】
近年は社会情勢の変化により「働き方」が多様化している。理学療法業界も若年層が大半を占め,ライフステージの変化に応じキャリアを継続的に支援できるシステムの構築が急務である。就労における個々の価値観は確立までに期間を要し,その発達過程の把握から方略を検討することは意義のあることといえる。