第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法6

Sat. May 31, 2014 10:25 AM - 11:15 AM 第13会場 (5F 503)

座長:高村浩司(健康科学大学理学療法学科)

神経 口述

[0755] Branch Atheromatous Disease患者の機能予後に関する検討

山本鉄大1, 久我宜正1, 齋藤圭介2, 平上二九三2, 鈴木康夫1 (1.医療法人誠和会倉敷紀念病院, 2.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科)

Keywords:BAD, アテローム血栓性脳梗塞, 予後

【はじめに,目的】
1989年にCaplanが提唱したBranch Atheromatous Disease(BAD)は,アテローム血栓性脳梗塞と同様の機序で発症する穿通枝領域の梗塞で,ラクナ梗塞との中間の病態と言われ,National Institute of Neurological Disorders and Stroke分類(NINDS III)ではその他の脳梗塞に分類される。BADの先行研究では,ラクナ梗塞より運動麻痺は重度であり予後不良とされている。しかし移動能力の予後について検討した報告は少なく,また閉塞部位がラクナ梗塞よりも中枢部が閉塞するアテローム血栓性脳梗塞との予後を比較した研究は少ない。本研究の目的は,BAD患者の移動能力と日常生活自立度(ADL)の予後について,アテローム血栓性脳梗塞患者との比較から検討することである。
【方法】
対象は,岡山県内一ヵ所の病院の回復期リハビリテーション(リハ)病棟に2010年8月から2013年8月までの間に入院したBADならびにアテローム血栓性脳梗塞の診断を受けた53名(男33名,女20名,平均年齢75.3±10.1歳)である。BAD患者は23名で,その内訳は,レンズ核線条体動脈領域18名,橋傍正中枝領域5名であった。一方,アテローム血栓性脳梗塞の症例は30名であった。調査項目は,基本属性・医学的属性,認知機能障害の有無,一次障害の指標として下肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS),移動能力の指標としてRivermead Mobility Index(RMI),ADLの指標としてMotor Functional Independence Measure(mFIM)を診療録より収集した。統計解析では,アテローム血栓性脳梗塞30名をコントロール群としリハ開始時と退院時のBRS,RMI,mFIM得点について,Mann-Whitney検定,Wilcoxon検定,カイ二乗検定を用い比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象患者よりデータ使用について書面による同意を得て行った。
【結果】
各指標のリハ開始時と退院時の状態についてみると,下肢BRSはBAD群ではリハ開始時がI 4名,II 3名,III 4名,IV 4名,V 4名,VI 4名,退院時がI 1名,II 1名,III 2名,IV 3名,V 5名,VI 11名であった。RMI得点は入院時ではBAD群2.5±1.9点,コントロール群5.2±3.2点,そして退院時ではBAD群10.4±3.5点,コントロール群10.6±4.3点であった。mFIM得点は入院時ではBAD群29.2±14.8点,コントロール群48.2±25.4点,そして退院時ではBAD群72.4±18.7点,コントロール群74.5±20.1点であった。
Wilcoxon検定を用い各指標の回復状況について検討した結果,BAD群ならびにコントロール群共にBRS,RMI,mFIMは統計的に有意な回復を示した(p<0.01)。群間比較の結果,リハ開始時ではBAD群がコントロール群よりもBRS,RMI,mFIMが統計的に有意に低い(p<0.01)のに対し,退院時ではBRSのみ有意に低く(p<0.05),RMIとmFIMは有意差を認めなかった。認知機能障害の有無については,BAD群では有り2例,無し21例,コントロール群では有り11例,無し19例であり,BAD群が統計的に有意に少なかった(p<0.01)。
【考察】
BADの予後に関して,先行研究ではラクナ梗塞よりも重症であることが指摘されているが,本研究におけるアテローム血栓性脳梗塞との比較では,発症後早期・予後共に一次障害としての運動麻痺はより重度であった。しかし運動麻痺,移動能力,ADLともに全て改善を示すと共に,二次障害で多要因から規定される移動能力やADLは,リハ開始時は相対的に低いものの,予後としてアテローム血栓性脳梗塞と同等に回復することが示唆された。なおBADと認知機能障害との関連はこれまで十分な検討は行われてこなかったものの,本研究ではアテローム血栓性脳梗塞に比べ発生率が有意に少なく,BADの症状特性を反映している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,BAD患者の予後を明らかにし,理学療法を検討する上での基礎資料を提示した。度うどやしゅうやるぃて代償的BADは一次障害の知見から予後不良と理解されているが,運動麻痺は相対的に重度であるものの理学療法の主要な目標である移動能力とADLが遜色のない回復を示すことを明らかにしたことは,一次障害を補完する動作学習や機能代償的アプローチ,環境面を重視した介入の重要性を示唆するものである。