[0756] 脳血管障害患者における脳損傷部位と深部白質病変によるPusher現象の重症度の差異
キーワード:Pusher現象, 脳損傷, 深部白質病変
【はじめに】ヒトは生来,前庭,視覚,体性感覚からの情報入力とその統合により,空間における垂直性が保障されている。脳血管障害患者では,この既得の垂直認知が変容することにより平衡機能障害が生じ,特にPusher現象はADLを著しく阻害する症候であるため病巣分析や治療の開発が重要とされる。このPusher現象の生起には島後部や中心後回,視床後外側部などが関与することが明らかにされている(Abe et al., Johannsen et al., Karnath et al)。一方,Ticiniらは視床病変のないPusher現象例では,頭頂葉白質の灌流低下が生じていることを報告している。注目すべきことに,この深部白質の変化は健常高齢者においても歩行やバランス能力を低下させることが示されている(Baezner et al)。このことは,加齢とともに発症率が増加する脳血管障害患者では,主病変のほかに深部白質病変が潜在的に姿勢制御を低下させている可能性を示唆するものである。そこで本研究の目的は,Pusher現象に関連する脳損傷領域と深部白質病変によるPusher現象の重症度の差異を検証することである。
【方法】対象はScale for Contraversive Pushing(以下,SCP)を用いてPusher現象が陽性と診断された(SCP各下位項目>0)発症早期の初発脳血管障害患者36例(年齢68.9±12.5歳(平均±SD),性別:男性25名・女性11名,右片麻痺7名・左片麻痺29名,測定病日20.3±9.1日,全例右手利き)とした。脳損傷部位の評価方法は,出血例では頭部CT画像,虚血例ではMRI(拡散強調像)を用い,深部白質病変はMRI(FLAIR像)から判定した。深部白質病変の画像情報は,深部白質におよぶ脳損傷や脳浮腫などの影響を除外するため,脳損傷側と反対側の所見を用いた。脳損傷部位は,先行研究で示されているPusher現象の責任病巣に基づき,皮質下出血例や中大脳動脈領域の脳梗塞例(皮質損傷あり群;以下,C+)と,視床や被殻,放線冠などに病変を有する皮質下病変例(皮質損傷なし群;以下,C-)に大別した。深部白質病変の評価はFazekas分類に基づき,側脳室周囲病変(以下,PVH)と深部皮質下白質病変(以下,DWMH)のスコア(grade0-3)いずれかがGrade1以上であった場合を深部白質病変あり群(以下,S+),いずれもGrade0の場合を深部白質病変なし群(以下,S-)に分類した。皮質損傷と深部白質病変の有無により,対象者をC+S+群,C+S-群,C-S+群,C-S-群の4群に分けた。臨床的指標としてStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)とSCPを評価した。統計的手法にはKruskal-Wallis検定,一元配置分散分析ならびに多重比較検定を用い,各群のSIAS,SCPを比較した(有意水準5%未満)。
【倫理的配慮】本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には事前に本研究の内容を書面にて説明し同意を得た。
【結果】各群の病変は,C+S+群(n=12)が内頚動脈領域梗塞(以下,ICA)3例,中大脳動脈領域梗塞(以下,MCA)8例,広範皮質下出血1例であった。同様にC+S-群(n=10)はICA3例,MCA5例,広範皮質下出血2例,C-S+群(n=8)はMCA3例,被殻出血4例,視床出血1例,C-S-群(n=6)はMCA3例,被殻出血3例であった。C+S+群,C+S-群,C-S+群,C-S-群のSIASは順に27.5(中央値),26.0,28.0,31.5であり,有意差はなかった。同順でSCPは4.4±0.8(平均±SD),4.5±1.1,3.7±1.0,2.0±0.2であり主効果を認めた。多重比較検定の結果,C-S-群は他の群に比べてSCPが有意に低値を示した。
【考察】本研究結果から,広範な皮質損傷を伴う患者では深部白質病変に関わらずPusher現象が重度となる一方,皮質下損傷例では深部白質病変の有無によりPusher重症度に差が生じることが示された。深部白質病変は前頭葉と感覚運動野のネットワークや投射線維の障害によりバランスを低下させるとされており,皮質下損傷例では深部白質の障害がPusher現象の症候を修飾している可能性が示唆された。今後さらに症例数を増やし,病態や病型を一致させた条件での群間比較が追跡課題と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】脳画像情報を用いてPusher現象の重症度に関連する要因を明らかにすることは,理学療法の意義と専門性を高めるとともに,より的確な理学療法の評価や目標設定に役立つことが期待される。
【方法】対象はScale for Contraversive Pushing(以下,SCP)を用いてPusher現象が陽性と診断された(SCP各下位項目>0)発症早期の初発脳血管障害患者36例(年齢68.9±12.5歳(平均±SD),性別:男性25名・女性11名,右片麻痺7名・左片麻痺29名,測定病日20.3±9.1日,全例右手利き)とした。脳損傷部位の評価方法は,出血例では頭部CT画像,虚血例ではMRI(拡散強調像)を用い,深部白質病変はMRI(FLAIR像)から判定した。深部白質病変の画像情報は,深部白質におよぶ脳損傷や脳浮腫などの影響を除外するため,脳損傷側と反対側の所見を用いた。脳損傷部位は,先行研究で示されているPusher現象の責任病巣に基づき,皮質下出血例や中大脳動脈領域の脳梗塞例(皮質損傷あり群;以下,C+)と,視床や被殻,放線冠などに病変を有する皮質下病変例(皮質損傷なし群;以下,C-)に大別した。深部白質病変の評価はFazekas分類に基づき,側脳室周囲病変(以下,PVH)と深部皮質下白質病変(以下,DWMH)のスコア(grade0-3)いずれかがGrade1以上であった場合を深部白質病変あり群(以下,S+),いずれもGrade0の場合を深部白質病変なし群(以下,S-)に分類した。皮質損傷と深部白質病変の有無により,対象者をC+S+群,C+S-群,C-S+群,C-S-群の4群に分けた。臨床的指標としてStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)とSCPを評価した。統計的手法にはKruskal-Wallis検定,一元配置分散分析ならびに多重比較検定を用い,各群のSIAS,SCPを比較した(有意水準5%未満)。
【倫理的配慮】本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には事前に本研究の内容を書面にて説明し同意を得た。
【結果】各群の病変は,C+S+群(n=12)が内頚動脈領域梗塞(以下,ICA)3例,中大脳動脈領域梗塞(以下,MCA)8例,広範皮質下出血1例であった。同様にC+S-群(n=10)はICA3例,MCA5例,広範皮質下出血2例,C-S+群(n=8)はMCA3例,被殻出血4例,視床出血1例,C-S-群(n=6)はMCA3例,被殻出血3例であった。C+S+群,C+S-群,C-S+群,C-S-群のSIASは順に27.5(中央値),26.0,28.0,31.5であり,有意差はなかった。同順でSCPは4.4±0.8(平均±SD),4.5±1.1,3.7±1.0,2.0±0.2であり主効果を認めた。多重比較検定の結果,C-S-群は他の群に比べてSCPが有意に低値を示した。
【考察】本研究結果から,広範な皮質損傷を伴う患者では深部白質病変に関わらずPusher現象が重度となる一方,皮質下損傷例では深部白質病変の有無によりPusher重症度に差が生じることが示された。深部白質病変は前頭葉と感覚運動野のネットワークや投射線維の障害によりバランスを低下させるとされており,皮質下損傷例では深部白質の障害がPusher現象の症候を修飾している可能性が示唆された。今後さらに症例数を増やし,病態や病型を一致させた条件での群間比較が追跡課題と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】脳画像情報を用いてPusher現象の重症度に関連する要因を明らかにすることは,理学療法の意義と専門性を高めるとともに,より的確な理学療法の評価や目標設定に役立つことが期待される。