第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法6

Sat. May 31, 2014 10:25 AM - 11:15 AM 第13会場 (5F 503)

座長:高村浩司(健康科学大学理学療法学科)

神経 口述

[0759] 回復期脳卒中後片麻痺患者に対する非病巣側へのContinuous Theta Burst Stimulationが麻痺側手関節・母指運動に与える即時効果について

松田雅弘1, 万治淳史2,3, 和田義明4, 稲葉彰5, 平島富美子4, 中島由季4, 網本和3 (1.植草学園大学保健医療学部, 2.埼玉みさと総合リハビリテーション病院リハビリテーション科, 3.首都大学東京大学院人間健康科学研究科, 4.日産厚生会玉川病院, 5.関東中央病院神経内科)

Keywords:cTBS, 回復期リハビリテーション, 脳卒中患者

【はじめに,目的】脳卒中後遺症に関する治療の1つに反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation;rTMS)で脳を直接刺激する手法がみられる。非病巣側運動野を過剰使用することで,対応する病巣側運動野を抑制する(半球間抑制)。その理論より非病巣側に低頻度の1Hzの刺激を与えることで過剰な神経活動を抑制し,病巣側の活動が向上する。同様に,continuous theta burst stimulation(cTBS)は,脳組織に低頻度rTMSよりも短時間で抑制効果がある磁気刺激方法である。しかし,従来のrTMSによる治療の報告は慢性期患者,上肢のパフォーマンス評価,日常生活動作能力の評価によるものが多い。それに比べ,cTBSに関して報告が少なく,磁気刺激の皮質興奮性抑制効果がどのような機序で麻痺肢の回復に寄与するのか,麻痺肢運動そのものについてどのような効果を与えるのかについて,麻痺肢の運動学的評価に基づき回復期脳卒中患者で検討したものは見られない。そこで本研究の目的は,cTBSによる非病巣側への治療刺激が麻痺肢運動に与える即時効果に関して運動学的分析を用いて検討した。本研究は平成24年度日本理学療法士協会研究助成を受けて実施した。
【方法】対象は回復期リハビリテーション病院入院中の初発脳卒中後片麻痺患者6名(平均年齢62.7歳;45~74歳),上肢・手指Br-stageII~Vとした。対象にはcTBS(100Hz磁気刺激の3連発刺激を毎秒5回,40秒間で計600回の刺激)による治療と,Sham(偽)刺激を別日に行った。cTBSは非病巣側運動野の背側骨間筋の対応領域同定後,同部位を刺激部位として,次に運動時閾値の測定を行い,閾値の80%を刺激強度として設定した。Sham刺激は場所の同定,閾値の測定などの手順はcTBSと同様とし,刺激入力時のみコイルの向きを垂直にして,磁気刺激の入力がされないように設定した。刺激には磁気刺激装置MagPro(Magventure社製)を使用した。刺激前後での評価は,cTBS,Sham刺激それぞれの前後に,反射マーカーを貼付し座位にて最大速度と大きく手関節背屈運動,母指外転運動を行わせ,運動をデジタルビデオカメラ(Sony社製)にて撮像した。運動学的分析には動画解析ソフトFrameDiasIV(DKH社製)を使用し,各試行における手関節背屈・母指CM関節の最大運動角度,平均運動角速度を算出した。各関節運動は2回ずつ実施した。統計学的分析は各試行から得られた最大運動角度,最大角速度を指標として,cTBS・Sham刺激前後での各指標の改善率(刺激後/刺激前)を算出し,2回分のデータの平均値を代表値として用いて,Wilcoxon符号付き順位和検定によって,cTBS,Sham刺激前後での改善率の比較を行った。有意水準は5%とし,統計にはSPSS ver.21を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】全対象者に対して,事前に本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た。本研究は植草学園大学倫理審査委員会と玉川病院倫理審査委員会の承認を得て実施した。適応基準はWassermannのガイドラインに記されているrTMSの禁忌を認めないこととした。
【結果】cTBS前後の平均運動角速度の改善率は,手関節背屈1.38±0.1・母指外転運動1.35±0.15と,Sham刺激前後の手関節背屈1.03±0.14・母指外転運動1.08±0.2に比べ有意に大きかった(p<0.05)。しかし,手関節背屈運動角度(cTBS1.03±0.14,Sham0.95±0.02)・母指外転運動角度(cTBS1.40±0.30,Sham1.35±0.57)となり,cTBS・Sham刺激前後の改善率の有意差は見られなかった。
【考察】cTBS前後で関節運動速度の改善がみられ,最大運動角度の変化がみられなかったことから,cTBS刺激は運動速度を規定する因子に影響を与えることが示唆された。麻痺肢の運動速度の低下に影響を与える因子として,当該部位や周辺の痙性や拮抗筋の過緊張・同時収縮などが挙げられる。cTBSの効果として,麻痺肢痙性の低減の効果があるという可能性が示唆される。半球間抑制を減弱させ,病巣周辺領域の運動野が抑制から開放される(脱抑制)ことで筋緊張が減弱し,麻痺側上肢の動きが改善したことが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】cTBS治療が手関節・母指関節運動の運動学的に与える影響をSham刺激との比較によって明らかとした。磁気刺激の効果として,過剰な半球間抑制を減弱することでの痙性抑制がある。その程度を明らかにすることで,その後の理学療法が円滑に実施可能になると考えられる。今まで維持期での効果報告が多かったが,回復期脳卒中患者,また麻痺の程度が重度であっても即時効果が明らかになったことにより,回復期においても磁気刺激を利用し痙縮抑制,その後の理学療法へ継げられることが示唆された。