[0761] 骨盤肢位の変化による股関節伸展運動時の筋活動について
Keywords:股関節伸展, 大殿筋, 骨盤傾斜角
【はじめに,目的】
股関節疾患において大殿筋や中殿筋といった股関節周囲筋が萎縮しやすいとされている。萎縮の予防として,整形外科疾患術後早期からopen kinetic chainによる股関節周囲筋の選択的な筋力トレーニングが重要となる。大殿筋は歩行の立脚相初期時に最も働くとされており,大殿筋の萎縮は,跛行の原因と報告されている。大殿筋萎縮予防として,腹臥位股関節伸展運動が知られているが,代償動作として腰椎前弯が出現しやすい。腰椎前弯の過剰な増強は腰痛を惹起する可能性があるとされている。脊柱起立筋の過剰収縮が腰椎前弯方向へのストレスを大きくすると報告されている。腰椎前弯増強の予防として,骨盤を自動後傾させる方法が考えられるが,骨盤肢位の変化による筋活動の詳細な報告は少ない。
そこで,我々は,健常成人を対象として表面筋電図を用い,腹臥位での骨盤肢位の変化による股関節伸展運動時の股関節周囲筋の筋活動を測定・解析した。さらに,運動時の骨盤後傾角度にて,2群に分け,筋活動について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は腰部・股関節に疾患のない健常成人男性18名(平均年齢28.4±5.0歳,平均身長172.0±4.7cm,平均体重61.9±6.6kg)とした。筋活動の測定には表面筋電図(Myosystem G2)を用い,測定筋は左側の大殿筋,脊柱起立筋,腹直筋,外腹斜筋の4筋とした。開始肢位は腹臥位,左膝関節90度以上屈曲位とし,重錘負荷として大腿後面に体重5%の重錘をバンドで固定した。測定課題は1)骨盤を規定しない(以下,無規定),2)恥骨結合を床に押し付け骨盤を自動後傾させた(以下,自動後傾)の2条件とした。股関節伸展運動時の上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線と体幹と平行な線の頭側になす角度を正とし,画像解析ソフトImage Jを用いて測定し,骨盤傾斜角とした。また,骨盤傾斜角度の無規定と自動後傾での差が5度以上骨盤後傾群(以下,遂行群),5度以下骨盤後傾群(以下,非遂行群)とした。筋電図の測定は,各条件において波形が安定した3秒間の筋活動を記録した。得られたデータは最大等尺性収縮(以下,MVC)時の筋活動を100%として正規化し,各条件での筋活動を%MVCとして算出した。
各条件間における筋活動の比較には,対応のあるt検定を行った。統計学的分析にはSPSS12.0Jを用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて承諾を得た。また本研究は当院・平成医療短期大学の倫理委員会の承認を得て行った。(承認番号130607,H25-37号)
【結果】
全対象者において,大殿筋活動,腹直筋活動,外腹斜筋活動では自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。脊柱起立筋では有意差を認めなかった。以下の表記は,(無規定,自動後傾)とする。
骨盤傾斜角は,(65.3±5.7度,68.1±4.5度)であり,自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。骨盤傾斜角により2群分けは,遂行群8名,非遂行群10名であった。
遂行群で大殿筋活動は(30.1±11.6%,42.3±10.9%),脊柱起立筋活動は(28.0±7.8%,30.3±18.1%),腹直筋活動は(2.5±1.8%,6.5±6.6%),外腹斜筋活動は(3.3±1.5%,6.8±4.5%)であった。
非遂行群で大殿筋活動は(29.0±6.9%,37.2±13.0%),脊柱起立筋活動は(38.2±17.7%,37.6±20.9%),腹直筋活動は(1.9±1.6%,4.8±6.2%),外腹斜筋活動は(5.5±7.8%,14.1±16.6%)であった。
遂行群活動では自動後傾が無規定に比べ大殿筋,外腹斜筋有意に高かった(P<0.05)。非遂行群では大殿筋活動のみ自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。
【考察】
今回の結果,骨盤傾斜角では自動後傾が無規定より骨盤後傾していることが分かった。しかし,同様の指示にも関わらず骨盤傾斜角は,ばらつきが大きく,遂行群と非遂行群に分けられた。
外腹斜筋は,遂行群では有意であったにも関わらず,非遂行群では有意差を認めなかった。これは,遂行群で,骨盤後傾作用の外腹斜筋が働き,骨盤を意識下でコントロールして,骨盤後傾位になったと考えられた。骨盤後傾位になることで,腰椎の前弯を減少させると報告されており,遂行群では,腰椎前弯増強を予防できると可能性がある。また,骨盤を自動で床に押し付けるという課題により,骨盤・体幹が固定されたため,大殿筋の筋力が発揮しやすい環境になったと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
骨盤を自動後傾させることで代償動作を予防させ,有効な運動となりえる事が示唆された。また,骨盤肢位を変化させた腹臥位股関節伸展運動の筋活動を知ることで,腰痛予防の一助になる可能性が考えられた。
股関節疾患において大殿筋や中殿筋といった股関節周囲筋が萎縮しやすいとされている。萎縮の予防として,整形外科疾患術後早期からopen kinetic chainによる股関節周囲筋の選択的な筋力トレーニングが重要となる。大殿筋は歩行の立脚相初期時に最も働くとされており,大殿筋の萎縮は,跛行の原因と報告されている。大殿筋萎縮予防として,腹臥位股関節伸展運動が知られているが,代償動作として腰椎前弯が出現しやすい。腰椎前弯の過剰な増強は腰痛を惹起する可能性があるとされている。脊柱起立筋の過剰収縮が腰椎前弯方向へのストレスを大きくすると報告されている。腰椎前弯増強の予防として,骨盤を自動後傾させる方法が考えられるが,骨盤肢位の変化による筋活動の詳細な報告は少ない。
そこで,我々は,健常成人を対象として表面筋電図を用い,腹臥位での骨盤肢位の変化による股関節伸展運動時の股関節周囲筋の筋活動を測定・解析した。さらに,運動時の骨盤後傾角度にて,2群に分け,筋活動について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は腰部・股関節に疾患のない健常成人男性18名(平均年齢28.4±5.0歳,平均身長172.0±4.7cm,平均体重61.9±6.6kg)とした。筋活動の測定には表面筋電図(Myosystem G2)を用い,測定筋は左側の大殿筋,脊柱起立筋,腹直筋,外腹斜筋の4筋とした。開始肢位は腹臥位,左膝関節90度以上屈曲位とし,重錘負荷として大腿後面に体重5%の重錘をバンドで固定した。測定課題は1)骨盤を規定しない(以下,無規定),2)恥骨結合を床に押し付け骨盤を自動後傾させた(以下,自動後傾)の2条件とした。股関節伸展運動時の上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線と体幹と平行な線の頭側になす角度を正とし,画像解析ソフトImage Jを用いて測定し,骨盤傾斜角とした。また,骨盤傾斜角度の無規定と自動後傾での差が5度以上骨盤後傾群(以下,遂行群),5度以下骨盤後傾群(以下,非遂行群)とした。筋電図の測定は,各条件において波形が安定した3秒間の筋活動を記録した。得られたデータは最大等尺性収縮(以下,MVC)時の筋活動を100%として正規化し,各条件での筋活動を%MVCとして算出した。
各条件間における筋活動の比較には,対応のあるt検定を行った。統計学的分析にはSPSS12.0Jを用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて承諾を得た。また本研究は当院・平成医療短期大学の倫理委員会の承認を得て行った。(承認番号130607,H25-37号)
【結果】
全対象者において,大殿筋活動,腹直筋活動,外腹斜筋活動では自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。脊柱起立筋では有意差を認めなかった。以下の表記は,(無規定,自動後傾)とする。
骨盤傾斜角は,(65.3±5.7度,68.1±4.5度)であり,自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。骨盤傾斜角により2群分けは,遂行群8名,非遂行群10名であった。
遂行群で大殿筋活動は(30.1±11.6%,42.3±10.9%),脊柱起立筋活動は(28.0±7.8%,30.3±18.1%),腹直筋活動は(2.5±1.8%,6.5±6.6%),外腹斜筋活動は(3.3±1.5%,6.8±4.5%)であった。
非遂行群で大殿筋活動は(29.0±6.9%,37.2±13.0%),脊柱起立筋活動は(38.2±17.7%,37.6±20.9%),腹直筋活動は(1.9±1.6%,4.8±6.2%),外腹斜筋活動は(5.5±7.8%,14.1±16.6%)であった。
遂行群活動では自動後傾が無規定に比べ大殿筋,外腹斜筋有意に高かった(P<0.05)。非遂行群では大殿筋活動のみ自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。
【考察】
今回の結果,骨盤傾斜角では自動後傾が無規定より骨盤後傾していることが分かった。しかし,同様の指示にも関わらず骨盤傾斜角は,ばらつきが大きく,遂行群と非遂行群に分けられた。
外腹斜筋は,遂行群では有意であったにも関わらず,非遂行群では有意差を認めなかった。これは,遂行群で,骨盤後傾作用の外腹斜筋が働き,骨盤を意識下でコントロールして,骨盤後傾位になったと考えられた。骨盤後傾位になることで,腰椎の前弯を減少させると報告されており,遂行群では,腰椎前弯増強を予防できると可能性がある。また,骨盤を自動で床に押し付けるという課題により,骨盤・体幹が固定されたため,大殿筋の筋力が発揮しやすい環境になったと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
骨盤を自動後傾させることで代償動作を予防させ,有効な運動となりえる事が示唆された。また,骨盤肢位を変化させた腹臥位股関節伸展運動の筋活動を知ることで,腰痛予防の一助になる可能性が考えられた。