第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学7

Sat. May 31, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (基礎)

座長:谷埜予士次(関西医療大学保健医療学部臨床理学療法学教室)

基礎 ポスター

[0764] 股関節肢位が膝屈曲位での股関節伸展運動時の筋活動に及ぼす影響

末廣忠延1,2, 水谷雅年1, 石田弘2, 小原謙一2, 大坂裕2, 岡本光央3, 渡邉進2 (1.吉備国際大学大学院保健科学研究科, 2.川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科, 3.武田山医院)

Keywords:大殿筋, 筋活動, 股関節肢位

【はじめに,目的】大殿筋は仙腸関節に垂直に配置され仙腸関節を圧縮することで骨盤の安定性に関与するが,腰痛者では大殿筋の活動が低下することが報告された(Leinonen 2007)。また腰痛者でBrunoら(2007)は腹臥位の股関節伸展運動時で,Hungerfordら(2003)は片脚立位時の股関節伸展運動時で大殿筋の活動遅延とハムストリングスの早期活動を報告した。これらの結果は,健常者と異なる骨盤周囲筋の筋活動パターンと腰痛における関連性を示唆している。そのため大殿筋の活動パターンを改善することは腰痛を有する患者の治療や腰痛の予防において重要である(Jung 2012)。またCrowら(2011)は筋の活動開始時間を改善させる運動療法として選択的な筋活動を訓練することを推奨している。そのため大殿筋の活動パターンを改善するためには選択的な大殿筋の活動を学習する必要がある。本研究は,より選択的に大殿筋を活動させる運動を見いだすために,股関節肢位が膝屈曲位での股関節伸展運動時の筋活動に及ぼす影響について検討することを目的とした。
【方法】対象は,健常成人男性21名とした。測定肢位は,治療台上に腹臥位となり,膝関節は屈曲90°とした。測定条件は,①股関節中間位(neutral:N条件),②股関節外転位(abduction:AB条件),③股関節外転・外旋位(abduction-external rotationAB-ER条件)の3条件とした。N条件では,右股関節を内外転・内外旋の中間位,AB条件では,右股関節を外転15°・内外旋中間位,AB-ER条件では,股関節外転15°・外旋20°とし,膝蓋骨が治療台から5cm上がるまで右股関節を伸展し,5秒間保持を行った。筋活動量の測定には表面筋電計Vital Recorder2(キッセイコムテック株式会社製)を用い,サンプリング周波数は1000Hzとした。測定筋は右側の大殿筋,ハムストリングスとした。得られた筋電波形は,バンドパスフィルター(20 ~ 500 Hz)処理を行った後,全波整流し,中間3秒間の平均振幅を求めた。得られた振幅は最大随意収縮(MVC)時の平均振幅で正規化し%MVCの値とした。統計解析はSPSS ver. 21(IBM社製)を用いた。3群間の筋活動量の比較にはFreidman検定を用いた。また多重比較のためにHolmの修正を伴うWilcoxonの符号付順位検定を行った。すべての検定は5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は演者所属施設の倫理委員会の承認を得た上で,被験者に対しては,研究趣旨について説明した後,書面での同意を得た上で実験を行った。
【結果】N条件,AB条件,AB-ER条件の大殿筋の%MVCの中央値(四分位範囲)は,それぞれ14.1(9.4)%,22.5(13.6)%,41.0(23.6)%で,多重比較検定の結果,N条件とAB条件間,N条件とAB-ER条件間,AB条件とAB-ER条件間で有意差を認めた。N条件,AB条件,AB-ER条件のハムストリングスの%MVCの中央値(四分位範囲)は,それぞれ9.7(9.3)%,9.2(11.8)%,7.2(10.4)%で,多重比較検定の結果,ハムストリングスはN条件とAB-ER条件間,AB条件とAB-ER条件間で有意差を認めた。
【考察】
本研究の結果,大殿筋の筋活動はN条件に比べAB条件AB-ER条件が有意に高い筋活動を示した。またAB条件に比べてAB-ER条件で有意に高い結果を示した。AB条件がN条件より筋活動が高値を示した理由として,股関節を外転位で股関節を伸展させたため,挙上側の下肢の重量中心が外側に偏位し,腹側への骨盤を回旋させるモーメントが増加し,骨盤の回旋が生じたと考える。Tateuchiら(2012)は,腹臥位での股関節伸展時に下肢挙上側の腹側への骨盤回旋と下肢挙上側の大殿筋の筋活動に相関があることを示しており,本研究において,この腹側への骨盤回旋を代償するためにより高い大殿筋の筋活動が生じたと考える。また大殿筋はAB条件に比べAB-ER条件で有意に高値を示した。これは,股関節外転に外旋を加えることで,大殿筋が短縮位となり,筋の長さと張力の関係から筋の収縮が非効率となったことが挙げられる。これにより,大殿筋の運動単位の補充が余儀なくされたと考える。2つ目にハムストリングスがAB-ER条件で筋活動量が減少したためにAB条件に比べAB-ER条件で大殿筋の作業負担が増加し大殿筋が高値を示したと考える。
ハムストリングスのAB-ER条件でN条件とAB条件に比し筋活動が減少した。これは股関節を外旋させることにより,重力による膝伸展モーメントが減少したことに起因すると考えられる。
本研究結果より,膝屈曲位での股関節伸展運動において,股関節を外転外旋させることは,ハムストリングスの活動を最小にして大殿筋を選択的に活動させることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は膝屈曲位での股関節伸展運動において,ハムストリングスの活動を最小にし,大殿筋を選択的に強化させるためには,股関節を外転外旋させることが最も効果的であることを示した点で意義がある。