第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学7

2014年5月31日(土) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (基礎)

座長:谷埜予士次(関西医療大学保健医療学部臨床理学療法学教室)

基礎 ポスター

[0765] 等尺性膝伸展運動における最大トルクと大腿筋厚,同時収縮率の年代比較

牧野圭太郎1, 井平光2, 水本淳1, 古名丈人2 (1.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 2.札幌医科大学保健医療学部理学療法学第一講座)

キーワード:等尺性膝伸展トルク, 大腿筋厚, 同時収縮率

【はじめに】
高齢者の膝伸展筋力は基本動作の遂行に必要な機能であり,身体的自立度や移動能力低下の予測に繋がることから,その評価の重要性が認識されている。
筋力と関連する指標としては筋の形態や神経系による制御が一般に知られているが,関節運動の中で神経筋活動を考える場合,その質的側面を表す指標として同時収縮が注目されてきた。同時収縮とは,静的および動的場面の随意収縮における,主動作筋と拮抗筋の同時的な活動と定義される。
これまで,高齢者は若年者と比較して同時収縮が増大し,様々な機能低下と関連することが報告されている。特に単関節運動においては,拮抗筋作用は主動作筋作用と対立するため,同時収縮の増大が発揮トルク減少に影響している可能性が指摘されている。したがって,高齢者にとって同時収縮の評価意義は大きく,膝伸展筋力の正確な評価には,発揮された関節トルクに加え形態学的指標や神経学的指標,特に同時収縮を含めた検討が必要である。しかしながら,等尺性膝伸展運動において各指標の年代比較を行った研究は少なく,一致した見解が得られていない。
本研究の目的は,等尺性膝伸展運動における最大トルクと大腿筋厚,同時収縮率について,若年者と高齢者の間で比較することとした。
【方法】
対象は,健常若年成人19名(22.7±2.2歳)および地域在住高齢者21名(74.5±4.4歳)とした。取り込み基準は自立歩行が可能な者とし,下肢の整形外科的および神経学的障害,疼痛,著明な認知機能低下を有する者は除外した。
測定項目は,等尺性膝伸展最大トルクおよび最大筋力発揮中の外側広筋および大腿二頭筋の筋活動量,大腿前面の筋厚とし,すべて利き足で測定した。
膝伸展トルクの測定には,等速性筋力測定器Biodex System 3(Biodex社)を使用した。対象者には3秒間の等尺性膝伸展運動を3試行行わせ,最大トルクを体重で除し百分率に補正した値を等尺性膝伸展最大トルク(Nm/kg)として算出した。
筋活動量の測定には表面筋電計(Biometrics社)を用い,被験筋は外側広筋および大腿二頭筋長頭とした。各筋の活動はトルクと同時に計測し,最大トルクの前後0.5秒間(計1秒間)を解析区間とした。同時収縮の指標として,2×大腿二頭筋波形の積分値/(外側広筋波形の積分値+大腿二頭筋波形の積分値)の式から同時収縮率(%)を算出した。
筋厚の測定には超音波診断装置SONOACE pico(Medison社)を用いた。7.5MHzのリニア型プローブにて,大腿骨大転子~外側膝裂隙の中点の高さ,大腿直筋直上の筋厚を2回計測し,平均値を大腿筋厚(cm)とした。
統計学的分析として,等尺性膝伸展最大トルクと大腿筋厚,同時収縮率それぞれついて年代差の有無を検討するため,対応のないt検定を実施した。統計処理にはSPSS19.0を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
等尺性膝伸展最大トルクは,高齢群(205.4±67.6 Nm/kg)と比較して若年群(311.1±84.8 Nm/kg)で有意に高い値を示した(p<0.01)。また,大腿筋厚も高齢群(2.7±0.6 cm)と比較して若年群(3.7±0.8 cm)で有意に高い値を示した(p<0.01)。一方,等尺性膝伸展運動中の同時収縮率は,高齢群(34.0±11.2%)と若年群(33.2±9.2%)に有意差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果から,高齢者は若年者と比較して膝伸展筋力の低下と筋厚の減少が生じていることが改めて確認された。また,等尺性膝伸展運動においては,同時収縮率に年代差がないことが明らかとなった。同時収縮率の加齢変化は,運動速度や筋収縮様式,運動歴など複数の要因が関連している可能性があるため,今後も知見の蓄積が必要であると考えられる。
本研究の限界として,筋厚と筋活動の測定は膝伸展筋群の一部においてのみ実施された点,横断的研究であるため膝伸展トルクと大腿筋厚および同時収縮の加齢変化の関連性については言及できない点が挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,高齢者の膝伸展筋力低下を形態学的および神経学的な側面を含め多角的に評価するために必要な知見を補完するものと考える。
理学療法場面において,高齢者の動作の緩慢性,特に動作開始時の協調的な運動の困難さは多く観察され,このことが動作障害や転倒につながることも経験される。今後,動的場面を含めさらなる研究を継続することで,高齢者の筋力低下および身体機能低下のリスクを明確化することができると考える。