第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学8

2014年5月31日(土) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (基礎)

座長:武田要(関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

基礎 ポスター

[0767] 足部の違いが大腿切断者の歩行戦略に与える影響 第二報

岩下航大1, 梅澤慎吾1, 興津太郎1, 田邊泰雅2, 山本澄子3 (1.公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター, 2.医療法人青木会青木医院, 3.国際医療福祉大学大学院福祉支援工学分野)

キーワード:大腿義足, 足部, 歩行分析

【はじめに,目的】第47回日本理学療法学術大会での発表にて高活動レベルにある大腿切断者は切断側立脚後期に骨盤の切断側への回旋を小さく留めながら,健側対側Initial Contact(以下健側対側IC)以降も切断側股関節を伸展させ続けることで股関節点と床反力作用線との距離を大きくし,切断側股関節屈曲モーメントを大きく発生させることが分かった。前回の研究では義足構成要素の条件の一つとして常用でOSSUR社Vari-FlexEVO(エネルギー蓄積型)を使用している高活動大腿切断者4名を対象とした。そのため足部の影響がどの程度あったのかの検証にまでは至らなかった。足部は立脚制御機能全般に影響を与える可能性が高いとされている 。よって本研究の目的は前回と同一被験者1名を対象とし,足部(9種類)を使用し,足部の機能が立脚後期の下肢関節角度,関節モーメントのピーク値に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象者は歩行の逸脱が顕著でない最も高い活動レベル(MobilityGrade4)にある大腿切断者男性1名(年齢22歳)と対照として健常成人男性4名(年齢33.5±5.4歳)とした。義足構成パーツは常用で膝継手を3R80(油圧制御),足部はVari-FlexEVO(エネルギー蓄積型)を使用している切断者であった。計測には三次元動作解析装置VICON MXとKistler社製床反力計を同期させた計測システムにて行った。計測課題は通常歩行で行い足部9種類(単軸は単軸足,エシュロン油圧制御,無軸はサッチフット,エネルーギー蓄積型はトリトンフット,トリトンフットVS,VariFlexEVO,VariFlexXC,Jfoot,shiera)を取り替え,各施行回数は10施行とした。関節角度と関節モーメントの算出は臨床歩行分析研究会プログラムDIFF GaitとWave Eyesを使用し,得られた関節モーメントの値は身長と体重で除した。計測対象は,切断側踵接地から始まる一歩行周期とし,切断側立脚後期(健側対側IC前後)のタイミングに着目した,データより関節角度と関節モーメントのピーク値を採り10試行分の平均値と標準偏差を求めた。タイミングは健側対側IC(立脚後期)の地点を0%とし,その地点より手前を負(-),それ以降を正(+)とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究の目的と方法について事前に口頭及び紙面で説明し,その権利を保障した上で同意書を締結した
【結果】足部の種類によって関節角度,関節モーメントのピーク値にはばらつきがあった。しかし足部を換えてもタイミングにおいては普遍的な戦略がみられた。よって今回は足部を換えての高活動大腿切断者のタイミング(健側対側IC前後)における普遍的な共通点と,それが健常者とどのような相違点があるかを中心に示す。代表例として健常者と大腿切断者足部はOttobock社トリトンフットのタイミングの結果を示す。健常者の立脚後期の股関節の伸展角度ピーク値は対側IC時より-4%手前,股関節屈曲モーメントのピーク値は対側IC時より-4%手前で発生していた。足部の足関節背屈角度のピーク値は-7%手前,足関節底屈モーメントのピーク値は-4%手前で発生していた。足関節背屈角度のピーク値は-7%手前で足関節底屈に切り替わり始めるその地点から膝関節が屈曲しはじめていた。大腿切断者の立脚後期の股関節伸展角度のピーク値は対側IC時より+3%後,股関節屈曲モーメントのピーク値は対側IC時より+4%後にピーク値が発生していた。足部の足関節背屈角度のピーク値は0%,足関節底屈モーメントのピーク値は-1%で発生していた。その直後に膝継手が屈曲し始めていた。
【考察】健常者の立脚後期(対側IC手前)は,単脚支持期に足関節底屈モーメントを大きく活動させ身体を前方に推進させ踵離れがおきる。その時,床反力作用線は膝の後方を通り,膝関節も屈曲し始める。しかし,大腿切断者は,立脚後期に筋活動を発揮できないため単脚支持期に義足足部の機能でその全ての動作を補うことは難しい。特に,立脚後期の単脚支持期に力源の少ない前足部で動的バランスを保つことは非常に難しく,単脚支持期に義足足部の最大背屈位からの急激な底屈への移行は困難な動作となる。義足足部の足関節背屈角度のピーク値と足関節底屈モーメントのピーク値が対側IC直後で発生しその直後に膝継手が屈曲し始めていたのはそのためだと考えられる。高活動大腿切断者は足部を換えても対側IC以降も股関節を伸展させ続け,床反力作用線を膝継手の前方に通し続け,膝継手完全伸展位と足部の最大背屈位を保ち,安全を担保(健側対側IC直後)してから足部の蓄積された反発力を開放し遊脚期へ移行する戦略は変わらなかった。
【理学療法学研究としての意義】高活動大腿切断者のタイミング(健側対側IC前後)からみた歩行戦略は足部を換えても普遍的な戦略であり,臨床においても立脚後期の歩行訓練介入と足部処方の重要な視点になると考える。