[0772] 筋性拘縮に対するストレッチングに加える力の違いが筋の柔軟性に与える影響
キーワード:筋性拘縮, ストレッチング, 筋柔軟性
【はじめに,目的】
関節拘縮とは,長期的な関節の不動から関節周囲に存在する皮膚,皮下組織,筋,腱,靭帯,関節包などの軟部組織が器質的に変化したことによる関節可動域の制限である。30日間の関節不動において,各組織が関節可動域制限に与えている影響は皮膚が約15%,筋が約40%,その他の関節構成体が約45%と報告されている。このことから,筋は関節拘縮に大きく影響していることがわかる。臨床では,ギプス固定や長期臥床により発生した筋性拘縮に対し,筋の柔軟性増大を図る目的でストレッチングを行うことが多い。先行研究において,ストレッチングに加える力は弱い力の方が強い力よりも関節可動域が改善することが報告されている。しかし,先行研究のストレッチングはラットという小動物に対して非常に強い力を加えている。そこで本研究では,ラットの足関節を最低限度で背屈させる力を弱い力,ラットの体重分の力を強い力として検討を行った。また,筋自体の柔軟性は筋性拘縮に対するストレッチングの先行研究で検討されていない。そこで今回の研究の目的は,筋性拘縮に対するストレッチングに加える力について筋の引張試験を用いて検討した。
【方法】
実験動物は8週齢のWistar系雄ラット18匹を使用した。実験動物はすべて4週間の関節固定を実施した。関節固定は左後肢を膝関節最大伸展位,足関節最大底屈位で保持し,ギプスを用いて実施した。ギプスは固定期間中の破損を防ぐために金網で保護した。対象は関節固定終了後に1週間自由飼育する自由運動群(n=6),関節固定終了後に1週間0.3Nで足関節背屈ストレッチングを行う0.3N群(n=6),関節固定後に1週間ラット体重と同じ力でストレッチングを行う体重群(n=6),固定していない右後肢であるコントロール群(n=6)に分けた。実験期間中,すべてのラットは飼育ゲージ内で水と餌を自由に摂取できるようにされた。
ストレッチングはバネばかりを用いて麻酔下で足関節背屈ストレッチングを30秒間,1日10回実施した。ストレッチング間の休憩時間は30秒とした。
実験期間終了後,ラットを麻酔下で腹大動脈より脱血して屠殺し,各群のヒラメ筋に対して筋の引張試験を実施した。引張試験を行う肢の大腿骨を切断し,足関節最大底屈位となるよう距骨と脛骨を鋼線で固定し,足根骨にワイヤーを刺入し引張試験機に取り付けた。次に,脛骨と腓骨を切断しワイヤーを介してヒラメ筋のみを伸張した。引張速度は先行研究を参考に10mm/minとした。
ヒラメ筋の最大伸張距離,最大張力について,自由運動群,0.3N群,体重群,コントロール群の間でKruskal-Wallisの検定を実施し,有意差を認めた場合は多重比較検定にScheffe法を適用した。危険率5%未満をもって有意差を判定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属大学の付属動物実験施設を使用し,所属大学の研究倫理委員会の承諾(承認番号:第12MA002号)を受けて行った。
【結果】
最大伸張距離の平均値および標準偏差は,コントロール群が21.9±1.9mm,自由運動群が15.7±1.3mm,0.3N群が16.2±1.3mm,体重群が12.7±2.2mmであり,群間に有意差が認めた(p<0.05)。また,多重比較検定ではコントロール群とその他すべての群,自由運動群と体重群,0.3N群と体重群の間に有意差を認めた(p<0.05)。
最大張力の平均値および標準偏差はコントロール群が7.8±0.5N,自由運動群が5.1±0.3N,0.3N群が5.1±0.6,体重群が3.9±0.7であり,群間に有意差が認められた(p<0.05)。また,多重比較検定ではコントロール群とその他すべての群,自由運動群と体重群,0.3N群と体重群の間に有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
引張試験の結果より,体重群は0.3N群・自由運動群よりも最大伸張距離・最大張力が低下していた。筋の損傷は,その筋が関与する関節可動域を減少させることが報告されている。体重と同じ力でのストレッチングは筋を損傷させ,筋の伸張機能を減少させたと考えられる。自由運動群と0.3N群の間には最大伸張距離,最大張力に有意差がなかった。筋性拘縮に対するストレッチングは0.3Nよりも強い力が筋の柔軟性を改善させるために必要であったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はリハビリテーションの臨床で広く行われているストレッチングについて検討した。強すぎる力を加えたストレッチングは,臨床で多く直面する筋性拘縮に対して筋の損傷を惹起し,筋の柔軟性を増悪させる。筋性拘縮に対するストレッチングは加える力に注意し,十分なリスク管理をする必要がある。
関節拘縮とは,長期的な関節の不動から関節周囲に存在する皮膚,皮下組織,筋,腱,靭帯,関節包などの軟部組織が器質的に変化したことによる関節可動域の制限である。30日間の関節不動において,各組織が関節可動域制限に与えている影響は皮膚が約15%,筋が約40%,その他の関節構成体が約45%と報告されている。このことから,筋は関節拘縮に大きく影響していることがわかる。臨床では,ギプス固定や長期臥床により発生した筋性拘縮に対し,筋の柔軟性増大を図る目的でストレッチングを行うことが多い。先行研究において,ストレッチングに加える力は弱い力の方が強い力よりも関節可動域が改善することが報告されている。しかし,先行研究のストレッチングはラットという小動物に対して非常に強い力を加えている。そこで本研究では,ラットの足関節を最低限度で背屈させる力を弱い力,ラットの体重分の力を強い力として検討を行った。また,筋自体の柔軟性は筋性拘縮に対するストレッチングの先行研究で検討されていない。そこで今回の研究の目的は,筋性拘縮に対するストレッチングに加える力について筋の引張試験を用いて検討した。
【方法】
実験動物は8週齢のWistar系雄ラット18匹を使用した。実験動物はすべて4週間の関節固定を実施した。関節固定は左後肢を膝関節最大伸展位,足関節最大底屈位で保持し,ギプスを用いて実施した。ギプスは固定期間中の破損を防ぐために金網で保護した。対象は関節固定終了後に1週間自由飼育する自由運動群(n=6),関節固定終了後に1週間0.3Nで足関節背屈ストレッチングを行う0.3N群(n=6),関節固定後に1週間ラット体重と同じ力でストレッチングを行う体重群(n=6),固定していない右後肢であるコントロール群(n=6)に分けた。実験期間中,すべてのラットは飼育ゲージ内で水と餌を自由に摂取できるようにされた。
ストレッチングはバネばかりを用いて麻酔下で足関節背屈ストレッチングを30秒間,1日10回実施した。ストレッチング間の休憩時間は30秒とした。
実験期間終了後,ラットを麻酔下で腹大動脈より脱血して屠殺し,各群のヒラメ筋に対して筋の引張試験を実施した。引張試験を行う肢の大腿骨を切断し,足関節最大底屈位となるよう距骨と脛骨を鋼線で固定し,足根骨にワイヤーを刺入し引張試験機に取り付けた。次に,脛骨と腓骨を切断しワイヤーを介してヒラメ筋のみを伸張した。引張速度は先行研究を参考に10mm/minとした。
ヒラメ筋の最大伸張距離,最大張力について,自由運動群,0.3N群,体重群,コントロール群の間でKruskal-Wallisの検定を実施し,有意差を認めた場合は多重比較検定にScheffe法を適用した。危険率5%未満をもって有意差を判定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属大学の付属動物実験施設を使用し,所属大学の研究倫理委員会の承諾(承認番号:第12MA002号)を受けて行った。
【結果】
最大伸張距離の平均値および標準偏差は,コントロール群が21.9±1.9mm,自由運動群が15.7±1.3mm,0.3N群が16.2±1.3mm,体重群が12.7±2.2mmであり,群間に有意差が認めた(p<0.05)。また,多重比較検定ではコントロール群とその他すべての群,自由運動群と体重群,0.3N群と体重群の間に有意差を認めた(p<0.05)。
最大張力の平均値および標準偏差はコントロール群が7.8±0.5N,自由運動群が5.1±0.3N,0.3N群が5.1±0.6,体重群が3.9±0.7であり,群間に有意差が認められた(p<0.05)。また,多重比較検定ではコントロール群とその他すべての群,自由運動群と体重群,0.3N群と体重群の間に有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
引張試験の結果より,体重群は0.3N群・自由運動群よりも最大伸張距離・最大張力が低下していた。筋の損傷は,その筋が関与する関節可動域を減少させることが報告されている。体重と同じ力でのストレッチングは筋を損傷させ,筋の伸張機能を減少させたと考えられる。自由運動群と0.3N群の間には最大伸張距離,最大張力に有意差がなかった。筋性拘縮に対するストレッチングは0.3Nよりも強い力が筋の柔軟性を改善させるために必要であったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はリハビリテーションの臨床で広く行われているストレッチングについて検討した。強すぎる力を加えたストレッチングは,臨床で多く直面する筋性拘縮に対して筋の損傷を惹起し,筋の柔軟性を増悪させる。筋性拘縮に対するストレッチングは加える力に注意し,十分なリスク管理をする必要がある。