第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学2

Sat. May 31, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (基礎)

座長:田中正二(金沢大学医薬保健研究域保健学系)

基礎 ポスター

[0773] 関節拘縮に対するストレッチングの力の違いが関節可動域に与える影響

松本智博1, 小野武也2, 沖貞明2, 梅井凡子2, 積山和加子2, 田坂厚志3, 石倉英樹1, 相原一貴3, 佐藤勇太3, 大塚彰2 (1.医療法人清幸会土肥病院リハビリテーション科, 2.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科, 3.県立広島大学総合学術研究科)

Keywords:拘縮, ストレッチング, 関節可動域

【はじめに,目的】
臨床において,関節拘縮に対して関節可動域の改善を目的とし,ストレッチングが用いられることが多い。しかし,関節可動域を改善させるためのストレッチングの最適な力に関する研究は少ない。本研究の目的は,関節可動域の改善を目的として用いられるストレッチングの最適な力を検討することである。
【方法】
対象は18匹のWistar系雄ラット,338.3±14.5gである。関節の固定期間は4週間である。関節の固定は左足関節最大底屈位としギプスを用いた。各個体は無作為に,処置を施さない「コントロール群」,関節固定除去後に1週間の自由運動を行わせる「自由運動群」,関節固定除去後に1週間30gの力で足関節背屈ストレッチングを行う「30g群」,関節固定除去後に1週間体重と同じ力で足関節背屈ストレッチングを行う「体重群」に分けられた。なお,「コントロール群」は「自由運動群」の右後肢とした。各個体は4週間の固定後,自由飼育を行った。ストレッチングにはバネはかりを用いた。ストレッチングの方法は,実施時間30秒で休止時間30秒とし,これを1日10回,10分間で行う事とした。背屈角度の測定には,ひずみゲージ式変換機を用いた。関節可動域測定時に加える力は30gとした。足関節背屈角度の基本軸は腓骨と外果を結んだ線,移動軸は踵骨底面とした。背屈角度の測定時期は関節固定前と関節固定除去後およびストレッチング期間終了1日後とした。群間の背屈角度の検定にはKruskal-Wallsi検定を実施し,多重比較検定としてScheffe法を用いた。また,群内の測定時期における背屈角度の違いは,Friedman検定を実施し,多重比較分析としてScheffe法を用いた。危険率5%未満をもって有意差と判定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属大学の研究倫理委員会の承諾を受けて行った(承認番号:第12号MA003号)。
【結果】
各群の固定前の背屈角度は「コントロール群」43.2±2.5°,「自由運動群」42.9±1.3°,「30g群」42.9±2.1°,「体重群」44.0±1.6°であった。全群間に有意差は認められなかった。関節固定除去後においては「コントロール群」42.6±2.4°,「自由運動群」113.0±7.1°,「30g群」107.8±5.6°,「体重群」112.0±6.0°であり,「コントロール群」と比べて「自由運動群」,「30g群」,「体重群」において,有意に高い値を示した。ストレッチング期間終了1日後では,「コントロール群」41.9±2.6°,「自由運動群」80.4±6.9°,「30g群」80.0±9.9°,「体重群」94.2±5.5°であり,「自由運動群」「30g群」,「体重群」の背屈角度は,「コントロール群」と比べて,有意に高い値を示した。また,「体重群」と比べて「自由運動群」と「30g群」において有意に低い値が認められた。「自由運動群」,「30g群」の間に有意差は認められなかった。「コントロール群」は実験期間中,有意な背屈角度の変化は認められなかった。「自由運動群」においては,固定前の背屈角度に比べ,関節固定除去後の背屈角度で有意な増加を示した。そして,「自由運動群」の関節固定除去後の背屈角度とストレッチング期間終了1日後の背屈角度では,後者において有意な減少が認められた。「30g群」,「体重群」の実験期間中における背屈角度の変化は「自由運動群」の背屈角度の変化と同様の結果が得られた。
【考察】
先行研究において,関節拘縮に対するストレッチングは筋損傷を惹起するという報告がなされている。また,筋損傷と関節可動域の関係性を検討した報告によると,筋損傷は関節可動域を減少させる要因になるとしている。本研究において,ストレッチングによる関節可動域の改善効果は,「自由運動群」を基準として比較すると,「30g群」で変化はなく,「体重群」で低かった。これらのことから,ギプス固定除去後に関節可動域改善を目的として用いられるストレッチングの最適な力は「自由運動群」と「30g群」であり,両者には差がないといえる。以上のことから,本研究においても先の報告と同様,体重と同じ力による関節拘縮へのストレッチングは筋損傷を惹起し,関節可動域の改善効果を減少させたと考えられる。さらに,「自由運動群」と「30g群」において自由運動時に加わった下肢への体重負荷でさえ過負荷であり,関節可動域を悪化させた可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
関節拘縮改善を目的としたストレッチングの力の違いは,関節可動域の変化に影響を及ぼしている事実を示し,関節固定除去後に行われるストレッチングが,その程度によって関節可動域改善に悪影響を及ぼす可能性があることを示した。