[0774] 荷重の有無がラット膝関節拘縮モデルに及ぼす影響
キーワード:ラット, 拘縮, 後肢懸垂
【目的】
我々は以前よりラット後肢膝関節を不動化する事によって生じる関節構成体の変化について報告を行っているが,我々を含め先行研究では関節不動化を行ったまま自由飼育を行い,関節が荷重された状態となっている。しかしながら,我々が臨床で関節不動を行った症例を診る場合,また長期臥床と寡運動や麻痺による関節拘縮では荷重される事はなく,研究モデルとして異なる可能性がある。そこで今回我々は荷重を生じない状態での関節不動化を行い,関節構成体の病理組織学的変化を検討することを目的に実験を行った。
【方法】
8週齢のWistar系雄性ラット24匹を使用した。ラットは無作為に4群に分けそれぞれ対照群,不動群,懸垂群,懸垂不動群とした。全ラットを全身麻酔下で膝関節可動域と体重を測定した。この時,関節可動域は先行研究に倣って伸展制限の角度を計測した。その後,拘縮群,懸垂不動群は創外固定を施行して右膝関節を不動化した。ついで懸垂群,懸垂不動群は尾部にK-Wire鋼線を刺入した。刺入の部位は触診により尾骨の中心部とし,椎間板に刺入しないように留意した。刺入後0.5φのワイヤーを通し,ラットをケージに入れた後にワイヤーをケージのフタより引きだして後肢が接地しないように懸垂を行った。実験期間は2週間とし,期間中に懸垂ラットは尾部,後肢を懸垂したまま水と餌を摂取する事が可能であった。照明は12時間おきに点灯・消灯を繰り返した。実験期間終了後,全ラットを麻酔下で体重測定,膝関節可動域を測定し,その後ペントバルビタールの過剰投与により安楽死させ,先行研究と同様に右後肢を股関節より離断して採取した。採取した下肢は中性緩衝ホルマリンで組織固定を行い,プランク・リュクロ液を用いて脱灰を行った。その後,矢状面にて二割し,5%無水硫酸ナトリウム溶液で中和した後にパラフィン包埋し組織標本を作製した。その後ミクロトームを使用して使用して3μmの厚さで薄切し,スライドガラスに添付した後にヘマトキシリン・エオジン染色,軟骨基質に含まれる多糖類を染色する目的でトルイジンブルー染色を行った。
【倫理的配慮】
この実験は所属機関の動物実験委員会の承認を得て行われたものである。
【結果】
実験期間終了後の各群の平均体重は対照群312.0±19.7g,不動化群307.0±12.5g,懸垂群304.5±21.3g,懸垂不動群285.6±25.1gであり,平均関節可動域は対照群19.3±3.0度,不動化群77.3±7.4度,懸垂群30.3±2.9度,懸垂不動群58.3±3.2度であった。
病理組織学的観察では不動化群には関節軟骨表層に紡錘型細胞からなる膜様の組織が観察され,肉芽様組織の関節腔内の侵入,上記膜様組織との癒着が観察されたが,懸垂不動群では軟骨表層の膜様組織は限局的に観察され,肉芽様組織の関節腔内への侵入も一部のものに見られた。また,組織の癒着も観察されたが不動化群と比較して組織変化は軽度であった。
関節包は対照群,懸垂群ではコラーゲン線維間に間隙を認め,比較的疎性であったが,不動化群,不動化懸垂群の両群ではコラーゲン線維束はやや組硬化し,線維素区間が狭まり密生化しており,全例でうっ血像が観察された。
【考察】
関節可動域制限(関節拘縮)の病態はまだ十分に解明されてはいない。近年,関節を様々な手法で不動化し,関節構成体の変化について報告がなされている。我々は先行研究で滑膜表層細胞の増生,滑膜組織の関節腔内への侵入,関節軟骨表層での膜様組織の増生,肉芽様組織による軟骨組織の置換,関節包の肥厚とコラーゲン線維の密生化等を報告している。今回の実験と同様の手法を用いて後肢懸垂を行った殷らはラットの体重が減少したとしているが,今回の実験では体重は維持または増加しており,有効な懸垂法である事が示唆された。関節包は荷重の有無による変化は見られず,関節を不動化する事により関節包は密生化を生じる事が明らかとなった。関節軟骨,滑膜については懸垂群では膜増生,軟骨の癒着などは見られるものの拘縮群と比較して組織変化は軽度であり,荷重する事により組織の変化は影響を受ける可能性がある。今後はより長期に渡る観察と予防・治療効果などの検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
従前より,動物の関節を不動化して可動域制限を生じさせ,拘縮の病態について研究が行われてきたが,荷重の有無により組織の変化が生じる事が明らかとなった。今後はより臨床で見られる廃用性の関節拘縮の病態解明,また予防・治療についての知見を得られる事が期待される。
我々は以前よりラット後肢膝関節を不動化する事によって生じる関節構成体の変化について報告を行っているが,我々を含め先行研究では関節不動化を行ったまま自由飼育を行い,関節が荷重された状態となっている。しかしながら,我々が臨床で関節不動を行った症例を診る場合,また長期臥床と寡運動や麻痺による関節拘縮では荷重される事はなく,研究モデルとして異なる可能性がある。そこで今回我々は荷重を生じない状態での関節不動化を行い,関節構成体の病理組織学的変化を検討することを目的に実験を行った。
【方法】
8週齢のWistar系雄性ラット24匹を使用した。ラットは無作為に4群に分けそれぞれ対照群,不動群,懸垂群,懸垂不動群とした。全ラットを全身麻酔下で膝関節可動域と体重を測定した。この時,関節可動域は先行研究に倣って伸展制限の角度を計測した。その後,拘縮群,懸垂不動群は創外固定を施行して右膝関節を不動化した。ついで懸垂群,懸垂不動群は尾部にK-Wire鋼線を刺入した。刺入の部位は触診により尾骨の中心部とし,椎間板に刺入しないように留意した。刺入後0.5φのワイヤーを通し,ラットをケージに入れた後にワイヤーをケージのフタより引きだして後肢が接地しないように懸垂を行った。実験期間は2週間とし,期間中に懸垂ラットは尾部,後肢を懸垂したまま水と餌を摂取する事が可能であった。照明は12時間おきに点灯・消灯を繰り返した。実験期間終了後,全ラットを麻酔下で体重測定,膝関節可動域を測定し,その後ペントバルビタールの過剰投与により安楽死させ,先行研究と同様に右後肢を股関節より離断して採取した。採取した下肢は中性緩衝ホルマリンで組織固定を行い,プランク・リュクロ液を用いて脱灰を行った。その後,矢状面にて二割し,5%無水硫酸ナトリウム溶液で中和した後にパラフィン包埋し組織標本を作製した。その後ミクロトームを使用して使用して3μmの厚さで薄切し,スライドガラスに添付した後にヘマトキシリン・エオジン染色,軟骨基質に含まれる多糖類を染色する目的でトルイジンブルー染色を行った。
【倫理的配慮】
この実験は所属機関の動物実験委員会の承認を得て行われたものである。
【結果】
実験期間終了後の各群の平均体重は対照群312.0±19.7g,不動化群307.0±12.5g,懸垂群304.5±21.3g,懸垂不動群285.6±25.1gであり,平均関節可動域は対照群19.3±3.0度,不動化群77.3±7.4度,懸垂群30.3±2.9度,懸垂不動群58.3±3.2度であった。
病理組織学的観察では不動化群には関節軟骨表層に紡錘型細胞からなる膜様の組織が観察され,肉芽様組織の関節腔内の侵入,上記膜様組織との癒着が観察されたが,懸垂不動群では軟骨表層の膜様組織は限局的に観察され,肉芽様組織の関節腔内への侵入も一部のものに見られた。また,組織の癒着も観察されたが不動化群と比較して組織変化は軽度であった。
関節包は対照群,懸垂群ではコラーゲン線維間に間隙を認め,比較的疎性であったが,不動化群,不動化懸垂群の両群ではコラーゲン線維束はやや組硬化し,線維素区間が狭まり密生化しており,全例でうっ血像が観察された。
【考察】
関節可動域制限(関節拘縮)の病態はまだ十分に解明されてはいない。近年,関節を様々な手法で不動化し,関節構成体の変化について報告がなされている。我々は先行研究で滑膜表層細胞の増生,滑膜組織の関節腔内への侵入,関節軟骨表層での膜様組織の増生,肉芽様組織による軟骨組織の置換,関節包の肥厚とコラーゲン線維の密生化等を報告している。今回の実験と同様の手法を用いて後肢懸垂を行った殷らはラットの体重が減少したとしているが,今回の実験では体重は維持または増加しており,有効な懸垂法である事が示唆された。関節包は荷重の有無による変化は見られず,関節を不動化する事により関節包は密生化を生じる事が明らかとなった。関節軟骨,滑膜については懸垂群では膜増生,軟骨の癒着などは見られるものの拘縮群と比較して組織変化は軽度であり,荷重する事により組織の変化は影響を受ける可能性がある。今後はより長期に渡る観察と予防・治療効果などの検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
従前より,動物の関節を不動化して可動域制限を生じさせ,拘縮の病態について研究が行われてきたが,荷重の有無により組織の変化が生じる事が明らかとなった。今後はより臨床で見られる廃用性の関節拘縮の病態解明,また予防・治療についての知見を得られる事が期待される。