[0776] ラット膝関節拘縮に対する温熱療法が拘縮の進行予防に及ぼす影響
Keywords:拘縮, 温熱療法, ラット
【はじめに,目的】
臨床現場では関節可動域障害を有する症例は非常に多く,理学療法士にとってその治療頻度は極めて高い。関節拘縮は手術後の安静臥床やギプス固定などによる不動性変化によって容易に生じる。不動による関節拘縮による関節構成体の変化として①関節包の密性化と肥厚,②滑膜の増生と軟骨表面の膜状組織,軟骨の置換,③癒着の進行,④脂肪体の脂肪細胞の萎縮と線維増生が認められるとされている。
また,関節拘縮の予防及び治療として臨床現場では運動療法,物理療法を行うことが多い。これまでに,臨床的効果に関する報告,基礎的研究による報告がいくつかみられる。しかし,治療効果や治療によって生じる組織学的変化についてはまだまだ不明な点が多い。そこで今回,関節固定期間中に温熱療法を実施し,関節拘縮の進行予防に対する効果を明らかにすることを目的として実験を行った。
【方法】
対象は9週齢のWistar系雄ラット25匹(247~304g)を用い,それらを無作為に正常コントロール群(以下,正常群)(n=6),拘縮作成のみ行う群(以下,C群)(n=10),拘縮期間中に温浴を行う温浴群(以下,CH群)(n=9),に分けた。正常群はケージ内で1匹ずつ個別に飼育し,4週間通常飼育を行った。C群は右後肢をギプスによる擦傷予防するため,予め膝関節中心に後肢全体をガーゼで覆い,股関節最大伸展位,膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位の状態で骨盤帯から足関節遠位部までギプスで固定した。固定肢の足関節遠位部から足趾までは浮腫の有無を確認するために露出させた。ギプスは1日1回(7回/週)巻き直しを行った。CH群はC群と同様に4週間のギプス固定を行った。固定期間中は1日1回(7回/週)ギプスを解除し,温浴を行った。温浴に用いる温水の温度は38°で,治療時間は10分間で治療を行った。温浴治療直後はギプスを巻き替えた。
関節可動域の測定は固定2週間及び4週間で計測を行った。測定方法は大腿骨を基本軸とし,下腿中央線を移動軸とした。実際の測定では大腿骨大転子,下腿近位端の前後径中央,下腿遠位端の前後径中央に印をつけ,ラットを側臥位にさせ膝関節の外側面をデジタルカメラで撮影し,パーソナルコンピューターに取り込みimageJで可動域測定を行った。
実験期間終了後,実験動物をネンブタール麻酔により安楽死させ,右後肢膝関節を一塊として採取した。採取した膝関節を通常手技にてHE染色標本を作製した。標本は光学顕微鏡下で観察し,病理組織学的検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は実験動物の飼育及び保管等に関する基準,動物の保護及び管理に関する法律を遵守して,金沢大学動物実験指針に基づき,さらに同大学が定める倫理委員会の承認のもとに飼育,実験を行った。(AP-122520)
【結果】
1.膝関節可動域の変化
2週間のギプス固定によりC群は平均67.6±11.0度,CH群は平均55.5±15.2度の伸展制限が生じていた。4週間のギプス固定により,C群は平均60.6±11.1度,CH群は69.5±11.6度の伸展制限が生じていた。ギプス固定2週間,4週間共に,C群とCH群の2群間では有意差は認められなかった。
2.膝蓋下脂肪体及び関節前方滑膜の観察
正常群の脂肪体では2~3層の滑膜表層細胞が脂肪細胞を覆う像が認められた。C群は脂肪細胞の萎縮,大小不同が認められた。さらに滑膜表層細胞の増生と滑膜下層での線維増生が認められた。CH群では,C群同様に脂肪細胞の萎縮,大小不同が認められた。そして滑膜表層細胞の増生と滑膜下層での線維増生が認められた。また今回,C群,CH群に肥満細胞が観察された。
【考察】
膝関節可動域は,実験開始2週間,4週間共にC群,CH群において有意差は認められなかった。C群とCH群の滑膜表層細胞及び,脂肪体はほとんど同様の組織像であった。温浴治療単独では拘縮による可動域制限,関節構成体の組織学的変化における予防効果の期待値は低値であることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
関節拘縮の予防及び治療については運動療法や物理療法が行われており,臨床的効果に関する報告,基礎的研究による報告がいくつかみられがまだまだ不明な点が多い。本研究の結果から関節の不動化に対して,温熱療法単独では関節可動域制限及び組織的変化に対する予防は困難であると考えられる。可動域制限の改善はADLに直結することから,今後は治療法についても科学的に検討する必要性が示唆された。
臨床現場では関節可動域障害を有する症例は非常に多く,理学療法士にとってその治療頻度は極めて高い。関節拘縮は手術後の安静臥床やギプス固定などによる不動性変化によって容易に生じる。不動による関節拘縮による関節構成体の変化として①関節包の密性化と肥厚,②滑膜の増生と軟骨表面の膜状組織,軟骨の置換,③癒着の進行,④脂肪体の脂肪細胞の萎縮と線維増生が認められるとされている。
また,関節拘縮の予防及び治療として臨床現場では運動療法,物理療法を行うことが多い。これまでに,臨床的効果に関する報告,基礎的研究による報告がいくつかみられる。しかし,治療効果や治療によって生じる組織学的変化についてはまだまだ不明な点が多い。そこで今回,関節固定期間中に温熱療法を実施し,関節拘縮の進行予防に対する効果を明らかにすることを目的として実験を行った。
【方法】
対象は9週齢のWistar系雄ラット25匹(247~304g)を用い,それらを無作為に正常コントロール群(以下,正常群)(n=6),拘縮作成のみ行う群(以下,C群)(n=10),拘縮期間中に温浴を行う温浴群(以下,CH群)(n=9),に分けた。正常群はケージ内で1匹ずつ個別に飼育し,4週間通常飼育を行った。C群は右後肢をギプスによる擦傷予防するため,予め膝関節中心に後肢全体をガーゼで覆い,股関節最大伸展位,膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位の状態で骨盤帯から足関節遠位部までギプスで固定した。固定肢の足関節遠位部から足趾までは浮腫の有無を確認するために露出させた。ギプスは1日1回(7回/週)巻き直しを行った。CH群はC群と同様に4週間のギプス固定を行った。固定期間中は1日1回(7回/週)ギプスを解除し,温浴を行った。温浴に用いる温水の温度は38°で,治療時間は10分間で治療を行った。温浴治療直後はギプスを巻き替えた。
関節可動域の測定は固定2週間及び4週間で計測を行った。測定方法は大腿骨を基本軸とし,下腿中央線を移動軸とした。実際の測定では大腿骨大転子,下腿近位端の前後径中央,下腿遠位端の前後径中央に印をつけ,ラットを側臥位にさせ膝関節の外側面をデジタルカメラで撮影し,パーソナルコンピューターに取り込みimageJで可動域測定を行った。
実験期間終了後,実験動物をネンブタール麻酔により安楽死させ,右後肢膝関節を一塊として採取した。採取した膝関節を通常手技にてHE染色標本を作製した。標本は光学顕微鏡下で観察し,病理組織学的検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は実験動物の飼育及び保管等に関する基準,動物の保護及び管理に関する法律を遵守して,金沢大学動物実験指針に基づき,さらに同大学が定める倫理委員会の承認のもとに飼育,実験を行った。(AP-122520)
【結果】
1.膝関節可動域の変化
2週間のギプス固定によりC群は平均67.6±11.0度,CH群は平均55.5±15.2度の伸展制限が生じていた。4週間のギプス固定により,C群は平均60.6±11.1度,CH群は69.5±11.6度の伸展制限が生じていた。ギプス固定2週間,4週間共に,C群とCH群の2群間では有意差は認められなかった。
2.膝蓋下脂肪体及び関節前方滑膜の観察
正常群の脂肪体では2~3層の滑膜表層細胞が脂肪細胞を覆う像が認められた。C群は脂肪細胞の萎縮,大小不同が認められた。さらに滑膜表層細胞の増生と滑膜下層での線維増生が認められた。CH群では,C群同様に脂肪細胞の萎縮,大小不同が認められた。そして滑膜表層細胞の増生と滑膜下層での線維増生が認められた。また今回,C群,CH群に肥満細胞が観察された。
【考察】
膝関節可動域は,実験開始2週間,4週間共にC群,CH群において有意差は認められなかった。C群とCH群の滑膜表層細胞及び,脂肪体はほとんど同様の組織像であった。温浴治療単独では拘縮による可動域制限,関節構成体の組織学的変化における予防効果の期待値は低値であることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
関節拘縮の予防及び治療については運動療法や物理療法が行われており,臨床的効果に関する報告,基礎的研究による報告がいくつかみられがまだまだ不明な点が多い。本研究の結果から関節の不動化に対して,温熱療法単独では関節可動域制限及び組織的変化に対する予防は困難であると考えられる。可動域制限の改善はADLに直結することから,今後は治療法についても科学的に検討する必要性が示唆された。