[0777] 短時間の歩行運動ならびに温熱負荷の併用による筋萎縮と拘縮の進行抑制効果の検討
キーワード:歩行運動, 温熱負荷, 廃用症候群
【はじめに,目的】
近年,理学療法の対象者の多くが障害を抱えた高齢者になってきており,これらの対象者は様々な理由で積極的な運動療法が実践できないことが多い。そのため,これらの対象者にも適用できる低強度で,しかも障害の回復に有効な運動療法の開発が求められている。短時間の歩行運動は臨床で実践できる低強度の運動療法に位置づけることができ,廃用症候群の予防といった観点からも重要かつ不可欠な介入方法と思われる。しかし,その効果を明確に示した報告は少ない。また,Yoshidaら(2013)は筋肥大効果のない低強度の運動に温熱負荷を併用すると筋萎縮の進行が抑制されると報告しており,これを参考にすると短時間の歩行運動に温熱負荷を併用することでその効果が高まる可能性がある。そこで,本研究では筋萎縮と拘縮に焦点をあて,これらの進行が短時間の歩行運動で抑制できるのか,また,これに温熱負荷を併用することでその効果が高まるのかをラットの実験モデルを用いて検討した。
【方法】
8週齢のWistar系雄性ラット24匹を無処置の対照群(n=5)と両側足関節を最大底屈位で2週間ギプスで不動化する実験群(n=19)に振り分け,実験群はさらに不動のみを行う不動群(n=6),不動の過程で一旦ギプスを外し歩行運動を行う歩行群(n=5),同様に温熱負荷と歩行運動を行う温熱+歩行群(n=8)に分けた。温熱負荷は42℃の温水に60分間後肢を浸漬する方法で行い,実験開始日のギプス固定前とその後は2日おきに実施した。一方,歩行運動は小動物用トレッドミルを用い,ギプス固定開始翌日から2日おきに10 m/分の速度で10分間実施し,温熱+歩行群においては温熱負荷の翌日に実施することとした。実験期間終了後は麻酔下で体重と足関節背屈可動域(以下,ROM)を測定し,その後,両側ヒラメ筋を採取した。そして,右側試料は筋湿重量を測定し,その後,作製した凍結横断切片をH&E染色し,病理組織学的検索と筋線維横断面積の計測を行った。一方,左側試料はreal time RT-PCR法にてタイプI・IIIコラーゲンのmRNA発現量を検索した。なお,今回の検索では筋湿重量を体重で除した相対重量比と筋線維横断面積を筋萎縮の指標に,ROMとタイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量を拘縮の指標に用い,一元配置分散分析とその事後検定であるSchffe法にて各群間の有意差を判定した。
【倫理的配慮】
本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受け,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した。
【結果】
病理組織学的検索では各群とも筋線維壊死などの炎症所見は認められず,筋萎縮の指標に用いた相対重量比は対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では温熱+歩行群が不動群より有意に高値を示した。また,筋線維横断面積に関しても対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では温熱+歩行群,歩行群,不動群の順に有意に高値を示した。次に,拘縮の指標に用いたROMは対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では歩行群と温熱+歩行群が不動群より有意に高値を示し,この2群間に有意差を認めなかった。また,タイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量に関しては,対照群,歩行群,温熱+歩行群の3群間に有意差は認められず,これらは不動群より有意に低値を示した。
【考察】
今回の結果から,筋萎縮に関しては10分という短時間の歩行運動を行うだけでその進行が抑制され,これに温熱負荷を併用するとその効果が高まることが明らかとなった。そして,このメカニズムには温熱負荷によって発現する熱ショックタンパク質が関与していると推測しており,今後検索を進める予定である。次に,拘縮に関しても短時間の歩行運動でその進行が抑制され,これは歩行運動がもたらす骨格筋への周期的な機械的刺激の負荷がコラーゲンの過剰増生,すなわち線維化の発生を抑制したためと推測している。しかし,温熱負荷を併用してもその効果を高める可能性は低く,この点に関しては温熱負荷とストレッチングを併用した場合とストレッチングのみを行った場合で拘縮の回復促進効果に差はないとしたKondoらの報告(2012)を支持している。したがって,運動療法の前処置として行う温熱療法は,治療ターゲットによっては効果が異なる可能性があり,これを適用する際は考慮すべきと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は臨床で実践できる低強度の運動療法として短時間の歩行運動を取り上げ,これを単独で行った場合と温熱負荷を併用して行った場合で筋萎縮と拘縮の進行にどのように影響するのかを検証した基礎研究であり,その成果は理学療法のエビデンス構築に寄与できるもので,理学療法学研究としても意義のあるものと考える。
近年,理学療法の対象者の多くが障害を抱えた高齢者になってきており,これらの対象者は様々な理由で積極的な運動療法が実践できないことが多い。そのため,これらの対象者にも適用できる低強度で,しかも障害の回復に有効な運動療法の開発が求められている。短時間の歩行運動は臨床で実践できる低強度の運動療法に位置づけることができ,廃用症候群の予防といった観点からも重要かつ不可欠な介入方法と思われる。しかし,その効果を明確に示した報告は少ない。また,Yoshidaら(2013)は筋肥大効果のない低強度の運動に温熱負荷を併用すると筋萎縮の進行が抑制されると報告しており,これを参考にすると短時間の歩行運動に温熱負荷を併用することでその効果が高まる可能性がある。そこで,本研究では筋萎縮と拘縮に焦点をあて,これらの進行が短時間の歩行運動で抑制できるのか,また,これに温熱負荷を併用することでその効果が高まるのかをラットの実験モデルを用いて検討した。
【方法】
8週齢のWistar系雄性ラット24匹を無処置の対照群(n=5)と両側足関節を最大底屈位で2週間ギプスで不動化する実験群(n=19)に振り分け,実験群はさらに不動のみを行う不動群(n=6),不動の過程で一旦ギプスを外し歩行運動を行う歩行群(n=5),同様に温熱負荷と歩行運動を行う温熱+歩行群(n=8)に分けた。温熱負荷は42℃の温水に60分間後肢を浸漬する方法で行い,実験開始日のギプス固定前とその後は2日おきに実施した。一方,歩行運動は小動物用トレッドミルを用い,ギプス固定開始翌日から2日おきに10 m/分の速度で10分間実施し,温熱+歩行群においては温熱負荷の翌日に実施することとした。実験期間終了後は麻酔下で体重と足関節背屈可動域(以下,ROM)を測定し,その後,両側ヒラメ筋を採取した。そして,右側試料は筋湿重量を測定し,その後,作製した凍結横断切片をH&E染色し,病理組織学的検索と筋線維横断面積の計測を行った。一方,左側試料はreal time RT-PCR法にてタイプI・IIIコラーゲンのmRNA発現量を検索した。なお,今回の検索では筋湿重量を体重で除した相対重量比と筋線維横断面積を筋萎縮の指標に,ROMとタイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量を拘縮の指標に用い,一元配置分散分析とその事後検定であるSchffe法にて各群間の有意差を判定した。
【倫理的配慮】
本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受け,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した。
【結果】
病理組織学的検索では各群とも筋線維壊死などの炎症所見は認められず,筋萎縮の指標に用いた相対重量比は対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では温熱+歩行群が不動群より有意に高値を示した。また,筋線維横断面積に関しても対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では温熱+歩行群,歩行群,不動群の順に有意に高値を示した。次に,拘縮の指標に用いたROMは対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では歩行群と温熱+歩行群が不動群より有意に高値を示し,この2群間に有意差を認めなかった。また,タイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量に関しては,対照群,歩行群,温熱+歩行群の3群間に有意差は認められず,これらは不動群より有意に低値を示した。
【考察】
今回の結果から,筋萎縮に関しては10分という短時間の歩行運動を行うだけでその進行が抑制され,これに温熱負荷を併用するとその効果が高まることが明らかとなった。そして,このメカニズムには温熱負荷によって発現する熱ショックタンパク質が関与していると推測しており,今後検索を進める予定である。次に,拘縮に関しても短時間の歩行運動でその進行が抑制され,これは歩行運動がもたらす骨格筋への周期的な機械的刺激の負荷がコラーゲンの過剰増生,すなわち線維化の発生を抑制したためと推測している。しかし,温熱負荷を併用してもその効果を高める可能性は低く,この点に関しては温熱負荷とストレッチングを併用した場合とストレッチングのみを行った場合で拘縮の回復促進効果に差はないとしたKondoらの報告(2012)を支持している。したがって,運動療法の前処置として行う温熱療法は,治療ターゲットによっては効果が異なる可能性があり,これを適用する際は考慮すべきと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は臨床で実践できる低強度の運動療法として短時間の歩行運動を取り上げ,これを単独で行った場合と温熱負荷を併用して行った場合で筋萎縮と拘縮の進行にどのように影響するのかを検証した基礎研究であり,その成果は理学療法のエビデンス構築に寄与できるもので,理学療法学研究としても意義のあるものと考える。