第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

循環1

2014年5月31日(土) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (内部障害)

座長:高橋哲也(東京工科大学医療保健学部理学療法学科)

内部障害 ポスター

[0778] 拡張型心筋症に対し左室補助人工心臓を装着した症例に対する理学療法の経験

江渕貴裕, 小山照幸, 金丸晶子, 太田隆 (東京都健康長寿医療センターリハビリテーション科)

キーワード:補助人工心臓, 拡張型心筋症, 運動耐容能

【はじめに】
拡張型心筋症は,心筋収縮不全と左室内腔の拡張を特徴とし,難治性心不全や突然死をきたす予後不良の疾患である。治療は,薬物療法・心臓再同期療法・和温療法などが行われる。しかし,それらの治療に反応しない末期心不全に陥った拡張型心筋症の最終的治療は心臓移植しかないのが現状である。2010年に改正臓器移植法が施行され,心臓移植件数は増加したものの,2011年までに国内で心臓移植を受けた120名の平均待機期間は961.8日と長く,心臓移植までのブリッジとして左室補助人工心臓は重要な役割を果たしている。
今回,拡張型心筋症により末期心不全状態を呈し,心臓移植待機のために体外設置型左室補助人工心臓(以下LVAD)を装着した症例に対する理学療法を経験したので報告する。
【方法】
[症例]拡張型心筋症と診断された48歳男性。既往歴は特記すべきものなし。弟と叔母が心疾患で突然死。
[現病歴]4年前に胸水貯留し,心不全を疑われた。冠動脈造影検査では冠動脈病変を認めず,拡張型心筋症と診断され,内服治療を開始し,定期的に外来フォローアップされていた。その後,症状は安定し,電気工事関係の仕事に従事し,支障なく生活していた。入院3ヶ月前,発熱を認め,上気道炎を発症した。その後,めまい・息切れを自覚し,自宅にて2ヶ月間安静にしたが症状改善しないため,近医を受診した。内服治療及び和温療法目的に当院紹介され,入院となった。入院時,意識清明,心音・呼吸音共に異常なし,下腿浮腫は認めなかった。BNP 1457pg/ml,胸部レントゲン上CTR 58%,心エコー上EF 11%,左室拡張末期径76mm,左室収縮末期径70mm,心室中隔厚5.3mm,左室後壁厚6.2mm,びまん性に重度の左室収縮能低下と重度の僧帽弁逆流を認めた。
[経過]入院時T-BilとGPTは軽度上昇,低心拍出量症候群の進行と考えられた。血圧は105/70mmHgと低めで,ドブタミン3γ,頻発する心室頻拍にはアミオダロン投与が開始された。第9病日にはBNP 769 pg/mlまで低下したが,第13病日には,心不全傾向悪化。第14病日に和温療法が導入されたが,その夜,息切れ・悪心を訴え,レントゲン上著明な肺うっ血を呈し,末梢循環不全の診断でICUに収容された。ICU収容後はカテコラミン依存状態となり,NYHA IV度の心不全状態となった。第22病日に肝機能増悪し,低心拍出量症候群の増悪認めた(BNP 3927 pg/ml)。心電図上,QRS幅は正常範囲であったが,心エコーでは非同期の状態を示していたため,両室ペーシング機能付き埋込型除細動器の植込が実施された。第23病日より頻脈性心房細動を認め,ペーシングに同期しなくなり,血圧低下を来したため,大動脈内バルーンパンピングが留置された。第28病日に僧帽弁弁輪形成術及び,LVAD装着が施行された。同日抜管。術後4日目ドレーン抜去。術後7日目車椅子乗車開始。術後9日目に一般病棟へ転棟し,同日PT介入開始。術後18日目歩行練習開始。術後31日目自転車エルゴメーター開始。術後71日目下肢レジスタンストレーニング開始。術後95日目に埋め込み型補助人工心臓手術のため転院した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表はヘルシンキ宣言に基づき計画され,症例には書面にて説明を行い,同意を得た。
【結果】
・心肺運動負荷試験の経過を術後31日目:術後100日目として以下に示す。ATレベルのVO2/W(ml/kg/min)は9.3:10.5,HR(bpm)は121:72であった。peakでのVO2/W(ml/kg/min)は12.0:15.8,HR(bpm)は130:120であった。VE vs. VCO2 slopeは47.1:28.2であった。いずれもend pointは下肢疲労であった。
・握力(kg)の経過を術後17日目:術後95日目として以下に示す。右33.3/左29.1:右24.1/左42.2であった。
・膝伸展トルク(Nm/kg)の経過を術後39日目:術後95日目として以下に示す。右2.05/左1.90:右2.79/左2.68であった。
【考察】
本症例の術後経過は,牧田が報告したLVAD装着後のリハビリテーションの経過と比較しても順調に経過したと考えられる。LVADを装着し,運動療法を行ったことで,運動耐容能の向上が得られたと考える。一方,LVAD装着や長期にわたる入院生活では心理的ストレスが生じやすい。今回,医師や看護師,臨床工学技士など多職種のチームで介入することより,心理的ストレスの軽減に努めた。LVAD装着直後は不安を訴えることもあったが,次第に前向きな発言が多く聞かれるようになり,意欲的に理学療法に取り組めたことは多職種による介入の効果があったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今後,重症心不全の治療手段としてLVADの必要性は更に高くなり,LVAD装着下での運動療法の重要性も更に高まってくるものと思われる。LVAD装着患者に対する運動療法の効果については既に報告されているが,今回の結果も先行研究を支持するものである。