第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

その他1

Sat. May 31, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:及川龍彦(岩手リハビリテーション学院理学療法学科)

生活環境支援 ポスター

[0783] 在宅介護者の介護負担に関する要因についての検討

田中大地 (北海道社会事業協会富良野病院リハビリテーション科)

Keywords:介護負担, 精神的配慮, 食事動作

【はじめに,目的】
病気や怪我などで障がいを呈した後,在宅生活を継続していくには家族の介護が不可欠になることが多く,介護者の身体的および精神的な負担にも配慮が必要である。また,在宅介護者の介護負担についての報告ではADL能力や基本動作能力との関連など,身体的負担と介護負担についての報告はしばしば見られるが,精神的負担と介護負担との報告は少ない。本研究の目的は,在宅介護者の介護負担に関する要因について検討することである。
【方法】
対象は,平成24年4月から平成25年3月までに当院の訪問リハビリを利用し,改訂長谷川式簡易知能評価スケール21点以上であった要介護者16名(平均年齢72.9±11.4歳)とその介護者16名(平均年齢69.6±10.2歳)の16組32名とした。方法は,日本語版Zarit介護負担尺度(以下,J-ZBI)の中央値から介護負担の低い群(以下,低負担群)8組と介護負担の高い群(以下,高負担群)8組の2群間で検討項目を比較した。検討項目は,要介護者の基本情報(年齢・性別・既往歴の有無・屋内移動手段・移動自立度・介入期間・介護度・転倒経験),日常生活動作(Functional Independence Measure:以下,FIM),転倒恐怖感(Modified Falls Efficacy Scale),食事機能(物を集める・運ぶ・飲み込む)とした。介護者からは年齢,介護協力者の有無,在宅介護期間,利用者との関係を検討した。またJ-ZBIの評価項目から,介護そのものからくる負担であるPersonal strain(以下,PS)点数と今までの生活が送れない事に対する負担であるRole strain(以下,RS)点数の中央値割合を比較した。分析は2群間で各検討項目を対応のないt検定,χ2検定,Mann-Whitney検定を用い有意差を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。対象者またはその家族には研究の趣旨について十分に説明し同意を得た。
【結果】
要介護者の疾患分類は中枢神経疾患8名,骨関節疾患7名,代謝疾患1名であった。2群間比較の結果,要介護者因子では転倒経験の有無・FIMの食事項目(いずれもp<0.05)に,介護者因子では介護協力者の有無に有意差(p<0.05)を認めた。また,要介護者の食事機能の2群間比較では有意な差は認められなかった。FIM食事点数の詳細な割合は高負担群では7点(自立)が8人中7人(87.5%),低負担群では6点(修正自立)が8人中5人(62.5%)と最も多い割合であった。J-ZBI点数の中央値割合では低負担群のPSが48点中12点(25%),RSが24点中4点(16.6%),高負担群のPSが48点中21.5点(44.7%),RSは24点中12.5点(52%)であった。
【考察】
介護負担の2群間比較で転倒経験の有無に有意差が認められた。これは介護者の再転倒不安感が影響していると考えられる。また,牧迫らは介護協力者の有無が介護負担感に影響を及ぼすとしており,本研究においても同様の結果となった。今回は有意差の認められた検討項目の中でも理学療法として身体機能面,環境面で介入できる食事動作に着目した。FIMの食事動作に有意差が認められたが,詳細な評価である食事機能に有意差は認められず,高負担群ではFIM6点(修正自立)が63%を占めていた。牧迫らは要介護者のADL能力や基本動作能力は介護者の介護負担感に影響を与えるとしているが,本研究結果からは,実際の介護者への食事介助量が必ずしも介護負担感に直接的に影響を及ぼしているとは思われなかった。また基本的に食事動作は,一日3回あり介護者の時間的拘束が長いことや,J-ZBIの点数割合から高負担群ではRS(今までの生活が送れない事に対する負担)の割合が高いことから,自分の時間がとれないことへの負担が強いと考えられた。本研究から食事動作で直接的介助が少ない場合でも,食事に時間のかかる例や,介助者の安全性の配慮が必要など,介助者の精神的配慮によっても介護負担が生じる可能性が示唆された。今後介護負担を減らすためには,介護者の身体的負担の軽減を目指すと共に精神的な負担軽減を図り,介護者自身の時間を作れるような支援が重要になってくると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
介護負担に関する要因は要介護者の動作能力など身体的負担に関する報告は見受けられるが,精神的負担に関する臨床データは十分ではない。本研究は,訪問リハビリで必ず遭遇する介護者の精神的負担を考えるうえで意義のある示唆を含むものと考える。