[0790] 反復的な直流前庭電気刺激と運動療法の組み合わせが脳卒中後の半側空間無視に与える影響
Keywords:半側空間無視, 直流前庭電気刺激, 脳卒中
【はじめに,目的】
脳卒中患者の合併症のひとつとして半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)があり,USNはADLの自立において阻害因子となることが多い。近年,USNを呈する患者に対する治療として直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation:GVS)が報告されている。GVSは両側の乳様突起に貼付した電極から直流電流によって前庭器官を刺激する方法である。現在,USNに対しGVSを実施した先行研究として,急性期脳卒中患者に対し即時的な効果が報告されている。また反復的なGVSがUSNへ与える影響を調査した報告として,2症例のケーススタディーではあるが改善が報告されている。しかし,反復的なGVSに運動療法を組み合わせた影響を調査した報告はない。そこで本研究の目的は,反復的なGVSと運動療法の組み合わせがUSNを呈する脳卒中患者に与える影響を予備的に調査することである。
【方法】
対象は左USNを呈した脳卒中患者2名である。症例1は右頭頂葉から後頭葉領域に多発性脳梗塞発症後8ヶ月経過した73歳女性である。症例2は右前大脳動脈領域出血性梗塞発症後4ヶ月経過した84歳女性である。GVSは両側の乳様突起に貼付した電極から刺激された。電極配置は陰極を左側,陽極を右側とした。刺激強度は対象が耐用可能な強度まで漸増し,最大強度は1.5mAとした。刺激時間は1セッションあたり20分とした。介入期間は2週間とし合計10セッション実施した。GVSは理学療法と組み合わせて実施した。評価項目は線分二等分試験,線分抹消試験,星印抹消試験とした。評価は介入前後に実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,施設長および主治医の許可を得た後に,対象の安全を配慮して評価と介入を実施した。また本人に対し,本研究の趣旨を説明し同意を得てから評価と介入を実施した。さらに評価,介入毎に対象の全身状態や電極貼付部位の確認をした。
【結果】
2名とも10セッションを完遂した。GVS実施中に電極貼付部位に掻痒感やチクチクするような疼痛を訴えたが,火傷やめまい,嘔気などの副作用は起こらなかった。刺激強度は症例1は0.6mA,症例2は0.7mAであった。星印抹消試験において症例1は介入前の抹消数が36個であったのに対し,介入後は46個に増加した。症例2は介入前の抹消数が47個であったのに対し,介入後は54個に増加した。線分二等分試験においては症例1で介入前は平均56.7mmであったのに対し,介入後は平均39.0mmであった。症例2は11.3mmから11.6mmと変化がなかった。線分抹消試験においては症例1,2ともに介入前後とも40個と変化を示さなかった。
【考察】
今回,USNを呈する脳卒中患者2名に対し反復的なGVSを運動療法に組み合わせて実施し,副作用を引き起こすことなく完遂することが可能であった。結果より,2症例とも星印抹消試験において抹消数が増加しており,USNが改善したと考えられた。GVSは陰極側と反対側の大脳半球の頭頂島前庭皮質や下頭頂小葉を活動させると報告されている。2症例ともGVSによって損傷半球への刺激入力が増加したことで損傷半球の活動が高まり,USNが改善したと考えられる。一方,症例1においては線分二等分試験で改善を認めたが,症例2においてはほぼ変化がなかった。星印抹消試験は線分二等分試験と比較し,疲労や運動維持困難などの影響をうける包括的な試験であると報告されている。そのため今回,星印抹消試験において増加を認めた要因の一つに,GVSによって持続性注意および選択性注意が向上したことで星印抹消試験の改善を認めたと考えられた。今後は症例数を蓄積するとともに比較対照群を設置し,GVSがUSNに与える影響のみならずGVSが注意障害に与える影響もさらに調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
USNは脳卒中後の問題点のひとつであり,ADLを低下させることが多い障害であるが科学的根拠の高い治療法はなく,治療法の確立が必要であると考えられる。本研究は2症例と少数例であり比較対照群がないため研究デザイン上,限界が多いが反復的なGVSによりUSNを改善させた可能性があった。また注意障害に対し影響を与える可能性も考えられた。さらにGVSは運動療法と併用することが可能であり,副作用が少なく臨床的に簡便に使用しやすいツールのひとつであったため,臨床的有用性の高い治療法として効果が期待できる可能性があった。以上より,反復的なGVSと運動療法の組み合わせがUSNや注意障害に与える影響を検討することは理学療法研究として意義があると考える。
脳卒中患者の合併症のひとつとして半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)があり,USNはADLの自立において阻害因子となることが多い。近年,USNを呈する患者に対する治療として直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation:GVS)が報告されている。GVSは両側の乳様突起に貼付した電極から直流電流によって前庭器官を刺激する方法である。現在,USNに対しGVSを実施した先行研究として,急性期脳卒中患者に対し即時的な効果が報告されている。また反復的なGVSがUSNへ与える影響を調査した報告として,2症例のケーススタディーではあるが改善が報告されている。しかし,反復的なGVSに運動療法を組み合わせた影響を調査した報告はない。そこで本研究の目的は,反復的なGVSと運動療法の組み合わせがUSNを呈する脳卒中患者に与える影響を予備的に調査することである。
【方法】
対象は左USNを呈した脳卒中患者2名である。症例1は右頭頂葉から後頭葉領域に多発性脳梗塞発症後8ヶ月経過した73歳女性である。症例2は右前大脳動脈領域出血性梗塞発症後4ヶ月経過した84歳女性である。GVSは両側の乳様突起に貼付した電極から刺激された。電極配置は陰極を左側,陽極を右側とした。刺激強度は対象が耐用可能な強度まで漸増し,最大強度は1.5mAとした。刺激時間は1セッションあたり20分とした。介入期間は2週間とし合計10セッション実施した。GVSは理学療法と組み合わせて実施した。評価項目は線分二等分試験,線分抹消試験,星印抹消試験とした。評価は介入前後に実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,施設長および主治医の許可を得た後に,対象の安全を配慮して評価と介入を実施した。また本人に対し,本研究の趣旨を説明し同意を得てから評価と介入を実施した。さらに評価,介入毎に対象の全身状態や電極貼付部位の確認をした。
【結果】
2名とも10セッションを完遂した。GVS実施中に電極貼付部位に掻痒感やチクチクするような疼痛を訴えたが,火傷やめまい,嘔気などの副作用は起こらなかった。刺激強度は症例1は0.6mA,症例2は0.7mAであった。星印抹消試験において症例1は介入前の抹消数が36個であったのに対し,介入後は46個に増加した。症例2は介入前の抹消数が47個であったのに対し,介入後は54個に増加した。線分二等分試験においては症例1で介入前は平均56.7mmであったのに対し,介入後は平均39.0mmであった。症例2は11.3mmから11.6mmと変化がなかった。線分抹消試験においては症例1,2ともに介入前後とも40個と変化を示さなかった。
【考察】
今回,USNを呈する脳卒中患者2名に対し反復的なGVSを運動療法に組み合わせて実施し,副作用を引き起こすことなく完遂することが可能であった。結果より,2症例とも星印抹消試験において抹消数が増加しており,USNが改善したと考えられた。GVSは陰極側と反対側の大脳半球の頭頂島前庭皮質や下頭頂小葉を活動させると報告されている。2症例ともGVSによって損傷半球への刺激入力が増加したことで損傷半球の活動が高まり,USNが改善したと考えられる。一方,症例1においては線分二等分試験で改善を認めたが,症例2においてはほぼ変化がなかった。星印抹消試験は線分二等分試験と比較し,疲労や運動維持困難などの影響をうける包括的な試験であると報告されている。そのため今回,星印抹消試験において増加を認めた要因の一つに,GVSによって持続性注意および選択性注意が向上したことで星印抹消試験の改善を認めたと考えられた。今後は症例数を蓄積するとともに比較対照群を設置し,GVSがUSNに与える影響のみならずGVSが注意障害に与える影響もさらに調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
USNは脳卒中後の問題点のひとつであり,ADLを低下させることが多い障害であるが科学的根拠の高い治療法はなく,治療法の確立が必要であると考えられる。本研究は2症例と少数例であり比較対照群がないため研究デザイン上,限界が多いが反復的なGVSによりUSNを改善させた可能性があった。また注意障害に対し影響を与える可能性も考えられた。さらにGVSは運動療法と併用することが可能であり,副作用が少なく臨床的に簡便に使用しやすいツールのひとつであったため,臨床的有用性の高い治療法として効果が期待できる可能性があった。以上より,反復的なGVSと運動療法の組み合わせがUSNや注意障害に与える影響を検討することは理学療法研究として意義があると考える。