[0794] 変形性膝関節症女性患者に対して対象者の過去の生活環境による検討
キーワード:変形性膝関節症, 生活環境, 対面聞き取り調査
【はじめに】
日本における変形性膝関節症(以下膝OA)は患者数2400万人,女性に多く,その9割が一次性の膝OAとされている。一次性の変形性関節症(以下OA)の原因は,遺伝子的要因と力学的負荷の増大があげられ,危険因子も肥満,加齢など報告されているが,個々の生活環境に違いがあり原因は特定されていない。またOAは慢性に進行し経過が長いことから発生の日時の特定は困難とされており,罹患後の負担となる姿勢や動作などの報告が多い。罹患前を調査するには地域を特定したコホート研究があるが,臨床研究では難しいのが現状である。臨床では「昔頑張りすぎたから膝に負担が…」などという曖昧な患者説明をよく耳にするが,実際にどのような姿勢や動作が負担になっているのか明確ではない。そこで今回膝OAを罹患している女性患者を対象に,対象者の過去の生活環境で負担となる姿勢・動作を調査するため対面聞き取り調査を実施した。
【方法】
対象は調査日までに膝OAの診断を受けていた女性患者117名(平均年齢77.0±8.4)とした。対象者は認知症がなく,先天性疾患・膝関節外傷のない方とした。期間は平成23年11月から約1年間,調査施設は当院を含む6施設で実施。方法はカルテ及び対面問診により,基本情報,診断名,既往・外傷歴,スポーツ歴を収集。対面聞き取り調査問診シートにて,I.39歳までII.40歳から59歳までIII.60歳以降の3つの年齢層で,①主な仕事(歩き仕事・座り仕事・荷物運びなど5項目),②主な職場・自宅周辺の移動手段(徒歩・自動車など4項目),③主な職場・自宅及び周辺環境(階段・坂道の2項目)をチェック形式で記載(重複回答可)とした。また仕事をしている対象者の職場と無職・主婦などの自宅の移動手段,生活環境で日中の移動手段,日中の生活環境とした。なお解析は解析ソフトSTAT VIEWを用いロジスティック回帰分析で解析し,有意水準は全て5%とした。結果記載は(VS説明変数)とし,それぞれ目的変数に対するオッズ比を示し,信頼区間(95%CI)上限・下限は記載省略とした。
【説明と同意】各施設の倫理委員会または病院長の承諾を得て,患者・患者家族に研究の目的・方法を十分に説明した上で協力の可否を問い,同意書にて同意を得た。
【結果】
I.39歳まで①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比8.582(p<0.0001)座り仕事5.256(p<0.0001)荷物運び2.596(p<0.05),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩12.992(p<0.0001)公共手段6.148(p<0.0001),③日中の活動環境では有意差は認められなかった。
II.40歳~59歳まで①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比8.737(p<0.0001)座り仕事2.278(p<0.05),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩5.045(p<0.0001)公共手段3.032(p<0.001),③日中の生活環境(VS平地)は,階段3.411(p<0.0001)坂道1.967(p<0.05)。
III.60歳以降①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比5.179(p<0.001),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩3.812(p<0.0001)公共手段3.143(p<0.001),③日中の生活環境(VS平地)は,階段6.065(p<0.0001)坂道2.562(p<0.05)。
【考察】
仕事内容は歩き仕事に比べ,立ち仕事・座り仕事がオッズ比は高く,移動手段は徒歩や公共手段がオッズ比は高かった。どちらも年齢層が上がるとともに低下している。運動機能障害における運動病理学的モデルでは,長い期間関節に負担となる動きを続けることが関節変形や疼痛につながるという考えがある。また軟骨変性は20代から始まり,40代で70%進むと言われており,若い時期からの座位・立位の同一姿勢での仕事や,自動車を使わず公共手段を含む徒歩中心の移動が膝関節への負担を大きくしていると考える。日中の活動環境では平地に比べ階段,坂道がオッズ比は高く,年齢層が上がるとともに高い値となっている。平地歩行に比べると階段や坂道では身体重心を上下へ移動させる距離が長く,特に膝関節周囲筋では身体を引き上げる力,身体を支える力が過剰に必要になる動きである。地域柄長崎では階段,坂道が多く,公共手段を使うまでに徒歩移動する距離が長いことも考えられる。
【理学療法研究としての意義】
今後は対照群との比較や性別などの比較が必要ではあるが,疾患の危険因子としてさまざまな環境や動作・姿勢を示すことで,理学療法の役割でもある環境調整や動作分析・姿勢分析の臨床的及び研究的意義が向上すると考える。
日本における変形性膝関節症(以下膝OA)は患者数2400万人,女性に多く,その9割が一次性の膝OAとされている。一次性の変形性関節症(以下OA)の原因は,遺伝子的要因と力学的負荷の増大があげられ,危険因子も肥満,加齢など報告されているが,個々の生活環境に違いがあり原因は特定されていない。またOAは慢性に進行し経過が長いことから発生の日時の特定は困難とされており,罹患後の負担となる姿勢や動作などの報告が多い。罹患前を調査するには地域を特定したコホート研究があるが,臨床研究では難しいのが現状である。臨床では「昔頑張りすぎたから膝に負担が…」などという曖昧な患者説明をよく耳にするが,実際にどのような姿勢や動作が負担になっているのか明確ではない。そこで今回膝OAを罹患している女性患者を対象に,対象者の過去の生活環境で負担となる姿勢・動作を調査するため対面聞き取り調査を実施した。
【方法】
対象は調査日までに膝OAの診断を受けていた女性患者117名(平均年齢77.0±8.4)とした。対象者は認知症がなく,先天性疾患・膝関節外傷のない方とした。期間は平成23年11月から約1年間,調査施設は当院を含む6施設で実施。方法はカルテ及び対面問診により,基本情報,診断名,既往・外傷歴,スポーツ歴を収集。対面聞き取り調査問診シートにて,I.39歳までII.40歳から59歳までIII.60歳以降の3つの年齢層で,①主な仕事(歩き仕事・座り仕事・荷物運びなど5項目),②主な職場・自宅周辺の移動手段(徒歩・自動車など4項目),③主な職場・自宅及び周辺環境(階段・坂道の2項目)をチェック形式で記載(重複回答可)とした。また仕事をしている対象者の職場と無職・主婦などの自宅の移動手段,生活環境で日中の移動手段,日中の生活環境とした。なお解析は解析ソフトSTAT VIEWを用いロジスティック回帰分析で解析し,有意水準は全て5%とした。結果記載は(VS説明変数)とし,それぞれ目的変数に対するオッズ比を示し,信頼区間(95%CI)上限・下限は記載省略とした。
【説明と同意】各施設の倫理委員会または病院長の承諾を得て,患者・患者家族に研究の目的・方法を十分に説明した上で協力の可否を問い,同意書にて同意を得た。
【結果】
I.39歳まで①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比8.582(p<0.0001)座り仕事5.256(p<0.0001)荷物運び2.596(p<0.05),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩12.992(p<0.0001)公共手段6.148(p<0.0001),③日中の活動環境では有意差は認められなかった。
II.40歳~59歳まで①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比8.737(p<0.0001)座り仕事2.278(p<0.05),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩5.045(p<0.0001)公共手段3.032(p<0.001),③日中の生活環境(VS平地)は,階段3.411(p<0.0001)坂道1.967(p<0.05)。
III.60歳以降①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比5.179(p<0.001),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩3.812(p<0.0001)公共手段3.143(p<0.001),③日中の生活環境(VS平地)は,階段6.065(p<0.0001)坂道2.562(p<0.05)。
【考察】
仕事内容は歩き仕事に比べ,立ち仕事・座り仕事がオッズ比は高く,移動手段は徒歩や公共手段がオッズ比は高かった。どちらも年齢層が上がるとともに低下している。運動機能障害における運動病理学的モデルでは,長い期間関節に負担となる動きを続けることが関節変形や疼痛につながるという考えがある。また軟骨変性は20代から始まり,40代で70%進むと言われており,若い時期からの座位・立位の同一姿勢での仕事や,自動車を使わず公共手段を含む徒歩中心の移動が膝関節への負担を大きくしていると考える。日中の活動環境では平地に比べ階段,坂道がオッズ比は高く,年齢層が上がるとともに高い値となっている。平地歩行に比べると階段や坂道では身体重心を上下へ移動させる距離が長く,特に膝関節周囲筋では身体を引き上げる力,身体を支える力が過剰に必要になる動きである。地域柄長崎では階段,坂道が多く,公共手段を使うまでに徒歩移動する距離が長いことも考えられる。
【理学療法研究としての意義】
今後は対照群との比較や性別などの比較が必要ではあるが,疾患の危険因子としてさまざまな環境や動作・姿勢を示すことで,理学療法の役割でもある環境調整や動作分析・姿勢分析の臨床的及び研究的意義が向上すると考える。