[0808] 重症脳卒中患者における起立-着席運動の改善効果と転帰
キーワード:重症脳卒中患者, 起立-着席運動, FIM
【はじめに,目的】「脳卒中治療ガイドライン2009」によると,起立-着席訓練や歩行訓練などで下肢訓練の量を多くすることは,歩行能力改善のために強く勧められている。重症脳卒中患者の場合でも,たとえ歩行は不能に終わるとしても,移乗やトイレ動作などの介助量を軽減させるために下肢の訓練量を十分に確保することは有意義であろう。これまでに重症脳卒中患者を対象として下肢訓練の方法や量に関して具体的な記載をした報告はない。今回われわれは,重症脳卒中患者(入院時FIM運動項目(以下,FIM-M)37点未満)に対して,身体活動量(筋活動量)の増加およびADL改善を目的に起立-着席運動(以下,起立)を実施した。その方法ならびに結果について報告する。
【方法】2009年4月1日から2013年10月31日までに入退院した初発脳卒中患者438名のうち,入院時に起立が困難であった重症例71名から重度の意欲障害,意識障害例20名を除いた51名(男性30名,女性21名,平均年齢72.2±10.1歳)を対象とした。診断名は,脳梗塞25名,脳出血24名,クモ膜下出血2名で,右片麻痺25名,左片麻痺26名であった。起立は,座面の高さ,足の位置,速度などを各症例に応じて設定し,起立能力の改善にしたがって条件を変更していった。介助起立は1日平均300回,起立が自立すれば1日平均350回,毎分6回ペース(起立5秒,着席5秒)で行った。さらに,起立自立例には,階段昇降,歩行の順に運動を追加し,1日3~4時間程度,週7回の運動療法を実施した。調査内容は年齢,発症から当院入院までの日数(以下,入院前日数),入院日数,入退院時FIM-M,入退院時FIM,入退院時の麻痺側,非麻痺側の握力および膝伸展筋力(isoforce GT-330(OG技研)を用い,測定値を体重で除して算出)とし,転帰先を自宅群,施設・転院群に分けて2群間で比較した。各項目の比較には対応のないt検定を使用した。さらに,2群間で有意差を認めた項目を説明変数とし,自宅復帰の可否を目的変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。統計解析は,SPSS 11.5J for Windowsを用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認を得た。データ収集は後方視的研究のため,個人は特定されないように匿名化した。
【結果】自宅復帰率は47.0%。自宅群/施設・転院群の順に,入院日数83.4±14.2/71.0±21.1日(p<0.05),入院時FIM-M24.6±7.3/19.5±5.2点(p<0.01),退院時FIM-M53.7±17.5/36.5±12.4点(p<0.01),入院時FIM43.0±14.8/34.6±9.1点(p<0.05),退院時FIM76.8±23.1/55.1±15.0点(p<0.01),入院時非麻痺側握力21.1±7.6/15.6±7.1kg(p<0.05),退院時非麻痺側握力26.2±7.7/19.9±8.6kg(p<0.01),退院時非麻痺側膝伸展筋力0.9±0.3/0.7±0.2kgf/kg(p<0.01)に有意差がみられた。また,多重ロジスティック回帰分析の結果,退院時FIM(β=-0.067,オッズ比0.935,p=0.002)に有意な関連性がみられた。
【考察】本研究の結果から,重症脳卒中患者では起立によりADLの改善が得られ,平均83日の入院期間で約半数(47.0%)が自宅復帰できることが明らかになった。さらに,自宅への退院は退院時FIMとの関連が強いこと,麻痺側よりも非麻痺側の筋力が関与することも示唆された。これは,一般的に重症脳卒中患者は安静臥床期間が長く,麻痺側のみならず非麻痺側にも廃用性の筋力低下が生じやすいことや,ほぼ例外なく運動麻痺が高度なために麻痺側下肢に対するリハビリの効果は乏しく,非麻痺側の下肢筋力増強により起立動作やピボット動作がより少ない介助量で行えるようになったことがFIMに反映されたと推測される。また,運動量に関して近藤らは,ADLの改善,自宅退院率の向上には訓練強度や量を増やすことが最も有効であり,起立では1日300回程度を推奨している。本研究の対象患者でも同等の運動量が実施できた。毎分6回ペースでは1時間(3単位)で360回となるために現実的ではあるものの,重症例に対して妥当な運動量であるかどうかについてはさらなる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】今後,他の訓練方法や治療成績と比較・検討されることにより,重症脳卒中患者における効率的な理学療法の考案に寄与するであろう。
【方法】2009年4月1日から2013年10月31日までに入退院した初発脳卒中患者438名のうち,入院時に起立が困難であった重症例71名から重度の意欲障害,意識障害例20名を除いた51名(男性30名,女性21名,平均年齢72.2±10.1歳)を対象とした。診断名は,脳梗塞25名,脳出血24名,クモ膜下出血2名で,右片麻痺25名,左片麻痺26名であった。起立は,座面の高さ,足の位置,速度などを各症例に応じて設定し,起立能力の改善にしたがって条件を変更していった。介助起立は1日平均300回,起立が自立すれば1日平均350回,毎分6回ペース(起立5秒,着席5秒)で行った。さらに,起立自立例には,階段昇降,歩行の順に運動を追加し,1日3~4時間程度,週7回の運動療法を実施した。調査内容は年齢,発症から当院入院までの日数(以下,入院前日数),入院日数,入退院時FIM-M,入退院時FIM,入退院時の麻痺側,非麻痺側の握力および膝伸展筋力(isoforce GT-330(OG技研)を用い,測定値を体重で除して算出)とし,転帰先を自宅群,施設・転院群に分けて2群間で比較した。各項目の比較には対応のないt検定を使用した。さらに,2群間で有意差を認めた項目を説明変数とし,自宅復帰の可否を目的変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。統計解析は,SPSS 11.5J for Windowsを用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認を得た。データ収集は後方視的研究のため,個人は特定されないように匿名化した。
【結果】自宅復帰率は47.0%。自宅群/施設・転院群の順に,入院日数83.4±14.2/71.0±21.1日(p<0.05),入院時FIM-M24.6±7.3/19.5±5.2点(p<0.01),退院時FIM-M53.7±17.5/36.5±12.4点(p<0.01),入院時FIM43.0±14.8/34.6±9.1点(p<0.05),退院時FIM76.8±23.1/55.1±15.0点(p<0.01),入院時非麻痺側握力21.1±7.6/15.6±7.1kg(p<0.05),退院時非麻痺側握力26.2±7.7/19.9±8.6kg(p<0.01),退院時非麻痺側膝伸展筋力0.9±0.3/0.7±0.2kgf/kg(p<0.01)に有意差がみられた。また,多重ロジスティック回帰分析の結果,退院時FIM(β=-0.067,オッズ比0.935,p=0.002)に有意な関連性がみられた。
【考察】本研究の結果から,重症脳卒中患者では起立によりADLの改善が得られ,平均83日の入院期間で約半数(47.0%)が自宅復帰できることが明らかになった。さらに,自宅への退院は退院時FIMとの関連が強いこと,麻痺側よりも非麻痺側の筋力が関与することも示唆された。これは,一般的に重症脳卒中患者は安静臥床期間が長く,麻痺側のみならず非麻痺側にも廃用性の筋力低下が生じやすいことや,ほぼ例外なく運動麻痺が高度なために麻痺側下肢に対するリハビリの効果は乏しく,非麻痺側の下肢筋力増強により起立動作やピボット動作がより少ない介助量で行えるようになったことがFIMに反映されたと推測される。また,運動量に関して近藤らは,ADLの改善,自宅退院率の向上には訓練強度や量を増やすことが最も有効であり,起立では1日300回程度を推奨している。本研究の対象患者でも同等の運動量が実施できた。毎分6回ペースでは1時間(3単位)で360回となるために現実的ではあるものの,重症例に対して妥当な運動量であるかどうかについてはさらなる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】今後,他の訓練方法や治療成績と比較・検討されることにより,重症脳卒中患者における効率的な理学療法の考案に寄与するであろう。