[0810] パーキンソン病患者におけるバランストレーナー施行前後の即時効果の検討
Keywords:パーキンソン病, バランス能力, 歩行能力
【はじめに,目的】
パーキンソン病(以下,PD)は,振戦,筋固縮,無動,姿勢反射障害を主症状とし,これらは歩行や日常生活動作で転倒の危険リスクとなる。近年,ドイツ・メディカ社は転倒の危険がない立位状態での安全な体重移動が可能なバランス能力向上を目的に開発された機器,バランストレーナー(以下,BT)を開発している。我々は第48回日本理学療法学術大会でPD患者に対してBT施行前後でのバランス,歩行能力の即時効果を検証し,BT施行後に両者の向上を認めたと報告した。そこで,今回は姿勢反射障害が顕著に生じていないHoehn&Yahr stage(以下,H&Y stage)I・II群,生じているIII群に分け,BT施行前後での即時効果を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院神経内科医からPDと確定診断を受けた患者28名(H&Y stage I:8名,II:13名,III:7名)とし,歩行に介助を要する者は除外した。対象をI・II群(男性:13名,女性:8名,平均年齢:73.7±6.8歳),III群(男性:3名,女性:4名,平均年齢:76.0±4.9歳)の2群に分類した。測定項目は立位姿勢で前後左右のバランスを移動距離として測定する静的なバランス指標のMulti Directional Reach Test(以下,MDRT),動的な指標のTimed Up&Go(以下,TUG),歩行能力として10m歩行時間(歩数・歩幅の計測含む)をBT施行前後に測定した。BTは骨盤・膝・足部を固定できるスタンディングテーブル様の機器であり,テーブル部分には付属のパソコンが設置されている。テーブル部分は体重をかけた方向へ水平面上で360°可動できる構造になっており,体重を預けても一定の所で止まるため,転倒の危険がない。また上肢はパソコンの横に肘関節90度屈曲前腕支持で置き,骨盤は腸骨稜の高さで後方から腰サポーター,膝は最大伸展位で前方から膝サポーター,足部は踵部を踵カップ・前足部を足ストラップでプレート上に固定する。テーブル・各サポーター・踵カップは対象者の身長や足長,立位姿勢に合わせて設定可能である。テーブル部分の動きはパソコンと連動し,テーブル部分に体重をかけて前方へ移動させればパソコン上のキャラクターも前方へ動く。そして,画面にはキャラクターの動いた軌跡が表示される。パソコンには課題が内蔵されており,今回はパソコン画面上360°の方向に60°間隔で6個配置されている目標物に向かってキャラクターを体重移動で操作し,到達させる課題を施行した。目標物はランダムに指定される。目標物に到達すると次の目標物が指定され,10秒以内に到達しない場合も次の目標物が表示される。目標物は1セットで12個出現し,これを3セット施行した。尚,セット間には1分間の休息を設けた。統計はBT施行前後の各項目に対してWilcoxonの符号付順位和検定を行い,有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に則り実施した。
【結果】
BT施行前後の変化量を示す。I・II群ではMDRT(cm)は前方1.88±9.91,後方0.12±5.44,右方1.71±6.62,左方1.21±6.72,TUG(秒)は-0.31±7.18,10m歩行時間(秒)は-0.63±4.06,歩数(歩)-1.4±7.6は,歩幅(m)0.01±0.15で全ての項目で有意差は認めなかった。III群ではMDRTは前方5.21±10.80,後方1.93±2.32,右方4.14±7.52,左方3.57±6.51,TUGは-4.73±6.30,10m歩行時間-2.58±3.62,歩数-3.3±6.3,歩幅0.06±0.12でMDRTの右方,10m歩行時間,歩幅で有意差を認めた。
【考察】
H&Y stage I・IIの症状は一側性または両側性であるが姿勢保持の障害は認められない,IIIは立ち直り反射に障害が認められるが,機能障害は軽ないし中程度であり,誰にも頼らず生活できると定義されている。IIIのように立ち直り反射障害が認められると重心移動距離が少なくなることが予想される。今回,BT施行後のIII群において10m歩行時間の短縮と歩幅の拡大を認めた。これらの変化から,転倒の危険がない安全な立位状態で行えるBTの施行中に重心を大きく動かすことや体幹・下肢の筋活動量が賦活されたことが歩行能力向上に繋がったと考えた。一方,I・II群は立ち直り反射の障害が顕著に生じていないため,BTを施行してもバランスと歩行能力の有意な改善を認めなかったと考える。MDRTではIII群の右方のみ有意差が認められたが,他の方向もI・II群と比較してリーチ距離が拡大していることが結果から分かる。このことからIII群ではBTを施行することで静的バランスにも正の影響を与える可能性が示唆された。今後は,BT施行前後における重心移動距離の変化やBT施行中に下肢筋の筋電図を測定し,BTが身体機能にもたらす影響について検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
姿勢反射障害の生じているH&Y stage IIIのPD患者においてBT施行後に歩行能力向上が認められた。また,静的バランス能力の向上をもたらす可能性が示唆された。
パーキンソン病(以下,PD)は,振戦,筋固縮,無動,姿勢反射障害を主症状とし,これらは歩行や日常生活動作で転倒の危険リスクとなる。近年,ドイツ・メディカ社は転倒の危険がない立位状態での安全な体重移動が可能なバランス能力向上を目的に開発された機器,バランストレーナー(以下,BT)を開発している。我々は第48回日本理学療法学術大会でPD患者に対してBT施行前後でのバランス,歩行能力の即時効果を検証し,BT施行後に両者の向上を認めたと報告した。そこで,今回は姿勢反射障害が顕著に生じていないHoehn&Yahr stage(以下,H&Y stage)I・II群,生じているIII群に分け,BT施行前後での即時効果を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院神経内科医からPDと確定診断を受けた患者28名(H&Y stage I:8名,II:13名,III:7名)とし,歩行に介助を要する者は除外した。対象をI・II群(男性:13名,女性:8名,平均年齢:73.7±6.8歳),III群(男性:3名,女性:4名,平均年齢:76.0±4.9歳)の2群に分類した。測定項目は立位姿勢で前後左右のバランスを移動距離として測定する静的なバランス指標のMulti Directional Reach Test(以下,MDRT),動的な指標のTimed Up&Go(以下,TUG),歩行能力として10m歩行時間(歩数・歩幅の計測含む)をBT施行前後に測定した。BTは骨盤・膝・足部を固定できるスタンディングテーブル様の機器であり,テーブル部分には付属のパソコンが設置されている。テーブル部分は体重をかけた方向へ水平面上で360°可動できる構造になっており,体重を預けても一定の所で止まるため,転倒の危険がない。また上肢はパソコンの横に肘関節90度屈曲前腕支持で置き,骨盤は腸骨稜の高さで後方から腰サポーター,膝は最大伸展位で前方から膝サポーター,足部は踵部を踵カップ・前足部を足ストラップでプレート上に固定する。テーブル・各サポーター・踵カップは対象者の身長や足長,立位姿勢に合わせて設定可能である。テーブル部分の動きはパソコンと連動し,テーブル部分に体重をかけて前方へ移動させればパソコン上のキャラクターも前方へ動く。そして,画面にはキャラクターの動いた軌跡が表示される。パソコンには課題が内蔵されており,今回はパソコン画面上360°の方向に60°間隔で6個配置されている目標物に向かってキャラクターを体重移動で操作し,到達させる課題を施行した。目標物はランダムに指定される。目標物に到達すると次の目標物が指定され,10秒以内に到達しない場合も次の目標物が表示される。目標物は1セットで12個出現し,これを3セット施行した。尚,セット間には1分間の休息を設けた。統計はBT施行前後の各項目に対してWilcoxonの符号付順位和検定を行い,有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に則り実施した。
【結果】
BT施行前後の変化量を示す。I・II群ではMDRT(cm)は前方1.88±9.91,後方0.12±5.44,右方1.71±6.62,左方1.21±6.72,TUG(秒)は-0.31±7.18,10m歩行時間(秒)は-0.63±4.06,歩数(歩)-1.4±7.6は,歩幅(m)0.01±0.15で全ての項目で有意差は認めなかった。III群ではMDRTは前方5.21±10.80,後方1.93±2.32,右方4.14±7.52,左方3.57±6.51,TUGは-4.73±6.30,10m歩行時間-2.58±3.62,歩数-3.3±6.3,歩幅0.06±0.12でMDRTの右方,10m歩行時間,歩幅で有意差を認めた。
【考察】
H&Y stage I・IIの症状は一側性または両側性であるが姿勢保持の障害は認められない,IIIは立ち直り反射に障害が認められるが,機能障害は軽ないし中程度であり,誰にも頼らず生活できると定義されている。IIIのように立ち直り反射障害が認められると重心移動距離が少なくなることが予想される。今回,BT施行後のIII群において10m歩行時間の短縮と歩幅の拡大を認めた。これらの変化から,転倒の危険がない安全な立位状態で行えるBTの施行中に重心を大きく動かすことや体幹・下肢の筋活動量が賦活されたことが歩行能力向上に繋がったと考えた。一方,I・II群は立ち直り反射の障害が顕著に生じていないため,BTを施行してもバランスと歩行能力の有意な改善を認めなかったと考える。MDRTではIII群の右方のみ有意差が認められたが,他の方向もI・II群と比較してリーチ距離が拡大していることが結果から分かる。このことからIII群ではBTを施行することで静的バランスにも正の影響を与える可能性が示唆された。今後は,BT施行前後における重心移動距離の変化やBT施行中に下肢筋の筋電図を測定し,BTが身体機能にもたらす影響について検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
姿勢反射障害の生じているH&Y stage IIIのPD患者においてBT施行後に歩行能力向上が認められた。また,静的バランス能力の向上をもたらす可能性が示唆された。