[0812] 地域在住パーキンソン病者の長期的なバランス能力の変化
キーワード:パーキンソン病, Berg Balance Scale, 予後予測
【はじめに,目的】
都内にあるパーキンソン病(以下:PD)友の会にボランティアとして参加したことで,地域在住のPD者の多くが転倒を繰り返しながら生活している実情を知った。PDは慢性進行性に経過し,バランス障害が生じることは周知されているが,PD者の長期的なバランス能力の変化に関する研究報告はない。そこで我々は地域在住PD者のバランス能力についてBerg Balance Scale(以下:BBS)を用いて長期的且つ継時的に評価し,その推移と特徴,それらに影響を与える要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
平成23年7月~平成25年6月に都内のPD友の会に参加した会員で医師からPDの診断を受け,Hoehn&Yahr重症度II~IIIの者13名(男性5名,女性8名)を対象とした。脳血管障害や心疾患の既往がある者は除外した。基本情報として年齢・身長・体重・罹患年数・屋内歩行レベル・転倒頻度・運動頻度・抗PD薬を聴取した。転倒頻度・運動頻度・抗PD薬の変化は測定毎に聴取した。バランス評価はBBSを用いた。測定は検者2名で行い,1回目から4ヶ月以上間を空けて計4回実施した。解析はi)BBS総合点(以下:総合点)を1回目から,その後3回の総合点が,2回以上維持または上回った群(以下:維持向上群)・それ以外を低下群として2群に分類した。一度でも参加困難になった者は対象から外した。維持向上群・低下群の2群における総合点について一元配置分散分析反復測定法後,Bonferroni法を用いて比較検討した。ii)罹患年数は全体の中央値,転倒は1ヶ月での有無,運動は週3回以上を基準として2群に分類した。それぞれの項目と維持向上群・低下群においてχ2検定を行った。全て有意水準は5%未満をもって有意とした。iii)低下群と参加困難になった者における基本情報と総合点について調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者に研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。
【結果】
i)13名のうち維持向上群4名,低下群5名,参加困難になった者4名であった。総合点の平均は維持向上群48.6±6.4点,低下群50.0±4.4点であった。2群共に1~4回目において有意差は認められなかった。総合点は多くの者が1~4回目まで不規則に変動していた。ii)維持向上群は年齢70.3±9.5歳,罹患年数13.3±9.0年,転倒有り3名・無し1名,運動頻度は週3回以上の者2名・3回未満の者2名であった。低下群は年齢66.4±3.3歳,罹患年数15.6±10.5年,転倒有り2名・無し3名,運動頻度は週3回以上の者4名・3回未満の者1名であった。2群間における罹患年数・転倒頻度・運動頻度に有意差は認められなかった。iii)低下群において360度回転・片足を前に出しての立位保持・片脚立位保持の点数が低下していく傾向がみられた。また,参加困難になった者は低下群同様の傾向に加え,転倒頻度が1日1回以上・屋内歩行に歩行補助具が必要・Hoehn&Yahr重症度III,360度回転の項目が2点以下という傾向がみられた。
【考察】
2年間の追跡におけるPD者の総合点は変動を繰り返しており,BBSのみではバランス能力の予後予測について判断できないことが示唆された。また,罹患年数・転倒頻度・運動頻度からBBSの変化を予測することも困難であった。これはPDが多様な運動機能障害を呈す慢性進行性疾患であり,個人差や症状の日差・日内変動が強く関与することやすくみ足などの特異的な症状が影響していたと考える。中馬らによるとPDには自己の日差・日内変動を把握して心身の自己管理をする能力が必要とされている。このことからバランス能力の変動に対して自己管理をして活動レベルの調節を行うことが,社会参加や日常生活活動を維持していくには重要である。総合点は向上群より低下群の方が低かったが,低下群や参加困難になった者は,支持基底面を移動させて重心を保持する課題の点数が低下していく傾向がみられた。これらの課題がバランス能力の変化を把握する指標になるのではないかと考える。今回は対象者が少なく,長期的なバランス能力の変化をBBSのみで評価していたため,PDにみられるすくみ足などの特異的な症状との関連性は明らかにできていないため,今後対象者を増やして検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
地域在住PD者の長期的なバランス能力の変化を追跡することができ,長期的に変動することが示された。360度回転・片足を前に出しての立位保持・片脚立位保持の項目に着目することで,バランス能力が低下していく傾向を予測できる可能性が示唆された。
都内にあるパーキンソン病(以下:PD)友の会にボランティアとして参加したことで,地域在住のPD者の多くが転倒を繰り返しながら生活している実情を知った。PDは慢性進行性に経過し,バランス障害が生じることは周知されているが,PD者の長期的なバランス能力の変化に関する研究報告はない。そこで我々は地域在住PD者のバランス能力についてBerg Balance Scale(以下:BBS)を用いて長期的且つ継時的に評価し,その推移と特徴,それらに影響を与える要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
平成23年7月~平成25年6月に都内のPD友の会に参加した会員で医師からPDの診断を受け,Hoehn&Yahr重症度II~IIIの者13名(男性5名,女性8名)を対象とした。脳血管障害や心疾患の既往がある者は除外した。基本情報として年齢・身長・体重・罹患年数・屋内歩行レベル・転倒頻度・運動頻度・抗PD薬を聴取した。転倒頻度・運動頻度・抗PD薬の変化は測定毎に聴取した。バランス評価はBBSを用いた。測定は検者2名で行い,1回目から4ヶ月以上間を空けて計4回実施した。解析はi)BBS総合点(以下:総合点)を1回目から,その後3回の総合点が,2回以上維持または上回った群(以下:維持向上群)・それ以外を低下群として2群に分類した。一度でも参加困難になった者は対象から外した。維持向上群・低下群の2群における総合点について一元配置分散分析反復測定法後,Bonferroni法を用いて比較検討した。ii)罹患年数は全体の中央値,転倒は1ヶ月での有無,運動は週3回以上を基準として2群に分類した。それぞれの項目と維持向上群・低下群においてχ2検定を行った。全て有意水準は5%未満をもって有意とした。iii)低下群と参加困難になった者における基本情報と総合点について調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者に研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。
【結果】
i)13名のうち維持向上群4名,低下群5名,参加困難になった者4名であった。総合点の平均は維持向上群48.6±6.4点,低下群50.0±4.4点であった。2群共に1~4回目において有意差は認められなかった。総合点は多くの者が1~4回目まで不規則に変動していた。ii)維持向上群は年齢70.3±9.5歳,罹患年数13.3±9.0年,転倒有り3名・無し1名,運動頻度は週3回以上の者2名・3回未満の者2名であった。低下群は年齢66.4±3.3歳,罹患年数15.6±10.5年,転倒有り2名・無し3名,運動頻度は週3回以上の者4名・3回未満の者1名であった。2群間における罹患年数・転倒頻度・運動頻度に有意差は認められなかった。iii)低下群において360度回転・片足を前に出しての立位保持・片脚立位保持の点数が低下していく傾向がみられた。また,参加困難になった者は低下群同様の傾向に加え,転倒頻度が1日1回以上・屋内歩行に歩行補助具が必要・Hoehn&Yahr重症度III,360度回転の項目が2点以下という傾向がみられた。
【考察】
2年間の追跡におけるPD者の総合点は変動を繰り返しており,BBSのみではバランス能力の予後予測について判断できないことが示唆された。また,罹患年数・転倒頻度・運動頻度からBBSの変化を予測することも困難であった。これはPDが多様な運動機能障害を呈す慢性進行性疾患であり,個人差や症状の日差・日内変動が強く関与することやすくみ足などの特異的な症状が影響していたと考える。中馬らによるとPDには自己の日差・日内変動を把握して心身の自己管理をする能力が必要とされている。このことからバランス能力の変動に対して自己管理をして活動レベルの調節を行うことが,社会参加や日常生活活動を維持していくには重要である。総合点は向上群より低下群の方が低かったが,低下群や参加困難になった者は,支持基底面を移動させて重心を保持する課題の点数が低下していく傾向がみられた。これらの課題がバランス能力の変化を把握する指標になるのではないかと考える。今回は対象者が少なく,長期的なバランス能力の変化をBBSのみで評価していたため,PDにみられるすくみ足などの特異的な症状との関連性は明らかにできていないため,今後対象者を増やして検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
地域在住PD者の長期的なバランス能力の変化を追跡することができ,長期的に変動することが示された。360度回転・片足を前に出しての立位保持・片脚立位保持の項目に着目することで,バランス能力が低下していく傾向を予測できる可能性が示唆された。