[0813] 早期パーキンソン病患者におけるバランス障害の関連要因の検討
キーワード:早期パーキンソン病, Berg Balance Scale, 筋力
【はじめに,目的】
パーキンソン病(PD)はバランス障害を認める疾患であり,運動障害の進行とともに能力低下は強くなり転倒の危険性が高くなる。この背景には,固縮や姿勢反射障害および起立性低血圧などのパーキンソン症状に加えて加齢が影響するとされる。また立位保持能力は,Hohen&Yahr重症度分類が比較的軽度であっても健常者と比べると有意に低下を認め,したがってPDの管理では発症早期からバランス能力低下を予防するための介入が重要になると考えられる。しかし,過去においては早期PDのバランス障害についてその特徴を述べた報告は少なく,バランス能力維持のために介入すべき点があまり明確ではない。そこで本研究では,早期PD患者を対象にバランス障害の関連要因を探る事を目的に,Berg Balance Scale(BBS)に関連する因子をパーキンソン症状,加齢による機能低下の面から検討した。
【方法】
対象は理学療法依頼のあった連続症例で,改訂Hohen&Yahr重症度分類(mH-Y)3以下の早期PD患者かつ本研究に同意が得られたものとした。除外基準は脳血管疾患ならびに運動器疾患により歩行困難なものや検査測定の指示に従えないものとした。対象者内訳は,PD患者23名(男性:14名,女性:9名,平均年齢:68.6±10.6歳)で,mH-Yは1;5名,1.5;1名,2;10名,2.5;2名,3;5名であった。合併症は整形外科的疾患が43%(腰椎症・脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア),呼吸器疾患が4%(気管支喘息),循環器疾患が13%(不安定狭心症・慢性心不全・閉塞性動脈硬化症)であった。評価・検討項目は,Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)part別の合計点,UPDRSの振戦,固縮,動作緩慢,軸症状(partII13-15,III27-30)の各項目,SF-36,Five Times Sit to Stand Test(FTSTS),Life-space assessment(LSA),Mini-mental state examination(MMSE),Body mass index(BMI),握力,等尺性膝伸展筋力,過去1ヶ月の転倒頻度とした。等尺性膝伸展筋力は病状優位側と非優位側に分類した。統計処理はBBSの総得点を従属変数,各評価指標を独立変数として重回帰分析を行い,危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。実施前には対象者に本研究の趣旨と目的を十分説明し書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者の保護には十分留意して実施した。
【結果】
対象者の罹病期間は平均4.2年であった。過去1ヶ月に転倒経験ありと答えたものは3名で,転倒頻度は平均4.7回/月であった。BBSは平均51.6±5.0点で転倒のカットオフ値45点よりも高かった。UPDRS合計は平均20.8±11.4点,FTSTSは13.6±5.7秒,LSAは62.1±24.5点,MMSEは27.0±3.3点で本研究の対象者は比較的軽症で機能や能力ならびに認知機能も保たれていた。重回帰分析の結果では,握力とUPDRSの姿勢異常の項目(partIII-28)が独立変数とて採択された(p<0.01)。標準偏回帰係数は,握力は0.52,姿勢異常は-0.42であった(R2=0.43)。
【考察】
結果から,本研究における対象者は罹病期間も短く早期の軽症PDと判断され,バランスも比較的良好であった。そのため転倒頻度も少なかったと考えられる。また本研究では,早期PDのバランス障害には握力と姿勢異常が関与することが示された。握力は全身筋力の指標とされ,その低下には活動量の低下や加齢などが関係すると考えられる。また,姿勢異常はPDによく認める症状であり,早期PDにおいてもバランス障害に影響していることが示された。一般的にPDのバランス障害には姿勢反射障害や薬物治療による副作用が関与するとされる。しかしながら本研究の結果では,早期PDにおけるバランス障害はPD特有の症状よりも全身筋力の低下が関連することが示された。このことより,早期PDにおけるバランス障害の進展を予防するためには,全身筋力や関節可動域の維持改善,ならびに姿勢維持を目的とした運動介入が重要であることが示唆された。これらの結果は,先行研究における早期PDに対する運動療法介入と一致していた。しかし,本研究では症例数が少ないことに加え観察研究であり,また対象が早期PDで転倒した患者も少ないことから,運動介入が実際にバランスを改善し転倒を予防するかは不明である。今後症例数を増やし更なる検討を行う必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では早期PDに対してBBSを用いバランス障害に関連する因子の検討を行った。その結果,PDのBBSには全身筋力の指標である握力と姿勢異常が関与することが示され,病期早期からの筋力増強ならびに関節可動域維持を目的とした運動療法介入の必要性が示唆された。
パーキンソン病(PD)はバランス障害を認める疾患であり,運動障害の進行とともに能力低下は強くなり転倒の危険性が高くなる。この背景には,固縮や姿勢反射障害および起立性低血圧などのパーキンソン症状に加えて加齢が影響するとされる。また立位保持能力は,Hohen&Yahr重症度分類が比較的軽度であっても健常者と比べると有意に低下を認め,したがってPDの管理では発症早期からバランス能力低下を予防するための介入が重要になると考えられる。しかし,過去においては早期PDのバランス障害についてその特徴を述べた報告は少なく,バランス能力維持のために介入すべき点があまり明確ではない。そこで本研究では,早期PD患者を対象にバランス障害の関連要因を探る事を目的に,Berg Balance Scale(BBS)に関連する因子をパーキンソン症状,加齢による機能低下の面から検討した。
【方法】
対象は理学療法依頼のあった連続症例で,改訂Hohen&Yahr重症度分類(mH-Y)3以下の早期PD患者かつ本研究に同意が得られたものとした。除外基準は脳血管疾患ならびに運動器疾患により歩行困難なものや検査測定の指示に従えないものとした。対象者内訳は,PD患者23名(男性:14名,女性:9名,平均年齢:68.6±10.6歳)で,mH-Yは1;5名,1.5;1名,2;10名,2.5;2名,3;5名であった。合併症は整形外科的疾患が43%(腰椎症・脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア),呼吸器疾患が4%(気管支喘息),循環器疾患が13%(不安定狭心症・慢性心不全・閉塞性動脈硬化症)であった。評価・検討項目は,Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)part別の合計点,UPDRSの振戦,固縮,動作緩慢,軸症状(partII13-15,III27-30)の各項目,SF-36,Five Times Sit to Stand Test(FTSTS),Life-space assessment(LSA),Mini-mental state examination(MMSE),Body mass index(BMI),握力,等尺性膝伸展筋力,過去1ヶ月の転倒頻度とした。等尺性膝伸展筋力は病状優位側と非優位側に分類した。統計処理はBBSの総得点を従属変数,各評価指標を独立変数として重回帰分析を行い,危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。実施前には対象者に本研究の趣旨と目的を十分説明し書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者の保護には十分留意して実施した。
【結果】
対象者の罹病期間は平均4.2年であった。過去1ヶ月に転倒経験ありと答えたものは3名で,転倒頻度は平均4.7回/月であった。BBSは平均51.6±5.0点で転倒のカットオフ値45点よりも高かった。UPDRS合計は平均20.8±11.4点,FTSTSは13.6±5.7秒,LSAは62.1±24.5点,MMSEは27.0±3.3点で本研究の対象者は比較的軽症で機能や能力ならびに認知機能も保たれていた。重回帰分析の結果では,握力とUPDRSの姿勢異常の項目(partIII-28)が独立変数とて採択された(p<0.01)。標準偏回帰係数は,握力は0.52,姿勢異常は-0.42であった(R2=0.43)。
【考察】
結果から,本研究における対象者は罹病期間も短く早期の軽症PDと判断され,バランスも比較的良好であった。そのため転倒頻度も少なかったと考えられる。また本研究では,早期PDのバランス障害には握力と姿勢異常が関与することが示された。握力は全身筋力の指標とされ,その低下には活動量の低下や加齢などが関係すると考えられる。また,姿勢異常はPDによく認める症状であり,早期PDにおいてもバランス障害に影響していることが示された。一般的にPDのバランス障害には姿勢反射障害や薬物治療による副作用が関与するとされる。しかしながら本研究の結果では,早期PDにおけるバランス障害はPD特有の症状よりも全身筋力の低下が関連することが示された。このことより,早期PDにおけるバランス障害の進展を予防するためには,全身筋力や関節可動域の維持改善,ならびに姿勢維持を目的とした運動介入が重要であることが示唆された。これらの結果は,先行研究における早期PDに対する運動療法介入と一致していた。しかし,本研究では症例数が少ないことに加え観察研究であり,また対象が早期PDで転倒した患者も少ないことから,運動介入が実際にバランスを改善し転倒を予防するかは不明である。今後症例数を増やし更なる検討を行う必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では早期PDに対してBBSを用いバランス障害に関連する因子の検討を行った。その結果,PDのBBSには全身筋力の指標である握力と姿勢異常が関与することが示され,病期早期からの筋力増強ならびに関節可動域維持を目的とした運動療法介入の必要性が示唆された。