[0815] 大血管術後患者における術前認知機能はICU-AD発症に関連する
Keywords:ICU-AD, 術前MMSE, 大血管術後
【はじめに,目的】
近年,ICUにおける鎮静,鎮痛,せん妄対策としてPADガイドラインとThe ABCDE Bundleが提唱され,早期離床の有用性が明記されているが,一旦術後ICUせん妄(ICU-AD)を発症すると術後の離床自体が難渋するだけでなく,長期に及ぶ認知機能低下や生命予後と関連することが報告されている。心大血管術後患者におけるICU-AD発症の危険因子には年齢,高血圧,脳血管疾患の既往があり,冠動脈バイパス術(CABG)と弁膜疾患術後患者を対象とした研究では術前認知機能との関連が報告されている。一方,大血管術後患者はICU-AD発症の危険因子である人工心肺使用率が高くICU-ADを高率に発症することが予想されるが,大血管術後患者における術前認知機能とICU-AD発症との関連は明らかではない。本研究は,大血管術後患者における術前認知機能がICU-AD発症に関連するか否かを検討した。
【方法】
対象は2012年6月から2013年10月までの期間に,当院で大血管手術を行った60歳以上の74例(73.4±6.1歳)である。術後ICU-ADの診断は,DSM-IVの診断基準に基づき当院精神科医,臨床心理士,理学療法士が後方視的に評価し,ICU-AD発症群と非発症群で2群に分類した。認知機能評価はMMSEを用いた。年齢,術前MMSE,人工心肺使用時間にはMann-Whitney検定を用い,高血圧と脳血管疾患の既往の有無にはχ2検定を用いて2群で比較した。さらにICU-AD発症の有無を従属変数,評価項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。解析はSPSS statistics 21を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究にあたり,当院倫理委員会の了承を得た。
【結果】
対象例におけるICU-AD発症は21例(28.3%)であった。ICU-AD発症群の術前MMSEは非発症群と比べ有意に低値を示した(25.2±2.3点vs 27.2±2.6点,P<0.05)が,年齢や高血圧,脳血管疾患の既往の有無,人工心肺使用時間に関しては有意差を認めなかった。ロジスティック回帰分析にてICU-ADの予測因子は術前MMSEが有意な独立変数として抽出された(P<0.05)。またROC解析にてカットオフ値は26.5点(AUC 73%,95%CI;60.7-85.2,P<0.05)であった。
【考察】
大血管術後患者においてもCABGと弁膜疾患術後患者と同様に,術前MMSE低下がICU-AD発症と関連していた。これは背景に動脈硬化性疾患を有しており,かつ多臓器の酸素供給不足を来しやすい術中因子があることから,心大血管術後患者に共通した特徴と考えられた。また,年齢,高血圧,脳血管疾患,人工心肺使用時間で差がなく,MMSEにおいて有意差を認めたことは,ICU-AD評価には臓器障害や器質的要因よりも,術後日常臨床で使用されるCAM-ICUのような統合機能の評価尺度との関連が高いことが考えられた。ICU-AD予測のMMSEカットオフ値は,23点をカットオフ値とした日常臨床での認知症診断基準のMMSE点数よりも高い点数であった。この背景として,先行研究と同様に人工心肺使用時には,一過性に脳酸素運搬量が低下するため,大血管疾患患者に大侵襲が加わると認知機能面はより影響を受けやすい可能性が考えられた。今後は心大血管以外の症例を対照として患者背景を調査することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】
PADガイドラインとThe ABCDE Bundleを遂行する際に,ICU-AD予防の観点から,大血管疾患患者においては術前MMSEを評価し覚醒・離床を促す必要があるように思われる。
近年,ICUにおける鎮静,鎮痛,せん妄対策としてPADガイドラインとThe ABCDE Bundleが提唱され,早期離床の有用性が明記されているが,一旦術後ICUせん妄(ICU-AD)を発症すると術後の離床自体が難渋するだけでなく,長期に及ぶ認知機能低下や生命予後と関連することが報告されている。心大血管術後患者におけるICU-AD発症の危険因子には年齢,高血圧,脳血管疾患の既往があり,冠動脈バイパス術(CABG)と弁膜疾患術後患者を対象とした研究では術前認知機能との関連が報告されている。一方,大血管術後患者はICU-AD発症の危険因子である人工心肺使用率が高くICU-ADを高率に発症することが予想されるが,大血管術後患者における術前認知機能とICU-AD発症との関連は明らかではない。本研究は,大血管術後患者における術前認知機能がICU-AD発症に関連するか否かを検討した。
【方法】
対象は2012年6月から2013年10月までの期間に,当院で大血管手術を行った60歳以上の74例(73.4±6.1歳)である。術後ICU-ADの診断は,DSM-IVの診断基準に基づき当院精神科医,臨床心理士,理学療法士が後方視的に評価し,ICU-AD発症群と非発症群で2群に分類した。認知機能評価はMMSEを用いた。年齢,術前MMSE,人工心肺使用時間にはMann-Whitney検定を用い,高血圧と脳血管疾患の既往の有無にはχ2検定を用いて2群で比較した。さらにICU-AD発症の有無を従属変数,評価項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。解析はSPSS statistics 21を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究にあたり,当院倫理委員会の了承を得た。
【結果】
対象例におけるICU-AD発症は21例(28.3%)であった。ICU-AD発症群の術前MMSEは非発症群と比べ有意に低値を示した(25.2±2.3点vs 27.2±2.6点,P<0.05)が,年齢や高血圧,脳血管疾患の既往の有無,人工心肺使用時間に関しては有意差を認めなかった。ロジスティック回帰分析にてICU-ADの予測因子は術前MMSEが有意な独立変数として抽出された(P<0.05)。またROC解析にてカットオフ値は26.5点(AUC 73%,95%CI;60.7-85.2,P<0.05)であった。
【考察】
大血管術後患者においてもCABGと弁膜疾患術後患者と同様に,術前MMSE低下がICU-AD発症と関連していた。これは背景に動脈硬化性疾患を有しており,かつ多臓器の酸素供給不足を来しやすい術中因子があることから,心大血管術後患者に共通した特徴と考えられた。また,年齢,高血圧,脳血管疾患,人工心肺使用時間で差がなく,MMSEにおいて有意差を認めたことは,ICU-AD評価には臓器障害や器質的要因よりも,術後日常臨床で使用されるCAM-ICUのような統合機能の評価尺度との関連が高いことが考えられた。ICU-AD予測のMMSEカットオフ値は,23点をカットオフ値とした日常臨床での認知症診断基準のMMSE点数よりも高い点数であった。この背景として,先行研究と同様に人工心肺使用時には,一過性に脳酸素運搬量が低下するため,大血管疾患患者に大侵襲が加わると認知機能面はより影響を受けやすい可能性が考えられた。今後は心大血管以外の症例を対照として患者背景を調査することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】
PADガイドラインとThe ABCDE Bundleを遂行する際に,ICU-AD予防の観点から,大血管疾患患者においては術前MMSEを評価し覚醒・離床を促す必要があるように思われる。