第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

循環3

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第5会場 (3F 303)

座長:舟見敬成((一財)総合南東北病院リハビリテーション科), 内山覚(新東京病院リハビリテーション室)

内部障害 口述

[0817] 冠動脈バイパス術前・術後患者の起立負荷に伴う循環調整応答

堀晋之助1, 上西啓裕1, 川崎真嗣1, 湯崎充2, 本田賢太朗2, 垣田真里1, 中村健1, 田島文博1, 岡村吉隆2 (1.和歌山県立医科大学付属病院リハビリテーション科, 2.和歌山県立医科大学付属病院第一外科)

Keywords:冠動脈バイパス術, 起立負荷, 循環調整応答

【はじめに,目的】
心臓リハビリテーション(心リハ)の治療目標は心疾患患者のADL向上と予後改善である。その中で心血管手術後における急性期での心リハの重要な意義の一つに術後早期から離床を図り,臥床に起因する心肺機能低下や起立性低血圧などのdeconditioning予防が挙げられる。
ヒトでは臥位から立位になると重力負荷で下肢へおよそ700mlもの血流量が移動する。これに対して,迅速に血圧を調整するために静脈還流量を感知する心肺圧受容器と平均動脈圧を感知する頸動脈洞・大動脈弓の圧受容器が反応する。これらの圧受容器反射が惹起されることで,交感神経活性が亢進し,心拍数上昇,末梢血管抵抗増大などが起こり血圧は維持される。
また臥床傾向では静脈還流量の増加に対して,生体内で体液過剰と判断され,利尿促進が起こることで体液循環量の減少,また圧受容器反射の感受性低下が起こり結果,心肺機能低下や起立性低血圧が起こる。
しかし,心筋収縮力低下や動脈硬化病変などの冠危険因子がある心疾患患者に対して,また過大な侵襲を伴う開心術後の回復過程において,重力負荷が循環にどのような影響を及ぼすかは明らかにされていない。
そこで,我々は虚血性心疾患の既往があり,冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)予定患者に対して,術前・術後での起立負荷に対する循環調整反応について検討した。
【方法】
対象は2013年4月~10月に当院で施行されたCABG後男性患者12名(平均年齢70±5.3歳,身長166.4±4.6cm,体重60.3±8.9kg,BMI21.8±3.2kg/m2)であった。その内,心筋梗塞後が3名,狭心症が9名で平均グラフト数は2.6±0.5本であった。
測定プロトコールは術前・術後(平均日数14±4.6日)にTilt Table上で仰臥位を取り,安静臥床3分,60度起立負荷5分,回復期として水平臥位3分とした。測定項目は,一回心拍出量,心拍出量,心拍数,血圧とし,一回心拍出量,心拍出量,心拍数は心拍出量計(メディセンス社製MCO-101)を用い,1秒毎に測定した結果を1分間平均した。また血圧測定は1分毎に自動血圧計(TERMO製エレマーノ)で行い,そこから平均血圧(拡張期血圧+脈圧/3)と末梢血管抵抗(平均血圧/心拍出量)を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した。
【結果】
心拍数では,術後で術前と比較し,安静時(術前:60bpm,術後:71bpm)と起立負荷時(術前:65bpm,術後:82bpm)で有意に増加した。また起立負荷時では安静時と比べ,術前で10%,術後で16%と増加傾向であった。平均血圧は安静時(術前:88.1mmHg,術後:83.8mmHg)と起立負荷時(術前:79.7mmHg,術後:77.0mmHg)の比較では起立負荷時で低下傾向であった。一回心拍出量,心拍出量,末梢血管抵抗はそれぞれの比較で有意な変化は認められなかった。
【考察】
術前・術後の比較で,安静時・起立負荷時の心拍数が有意に増加していたことについては,心拍出量に大きな変化なく一定に保てていたことから,循環体液量に対しての代償作用の影響は少ないと考えられる。武山らは開心術後の回復過程において,術後3週目までは交感神経機能が先行して改善されると報告しており,本研究でも回復時期について矛盾せず要因の一つとして考えられる。また起立負荷時に圧受容器反射が惹起され,交感神経活性が亢進し,心拍応答として心拍数が上昇したと考える。
平均血圧,末梢血管抵抗に変動がみられなかったについては,心疾患患者では動脈硬化病変により血管コンプライアンスが低下しており,循環動態に影響を及ぼすほど,下肢への血流シフトが起こりにくくなっていたためではないかと推測される。
今回,虚血性心疾患患者の術前・術後において,起立負荷時でも循環調整応答は保たれていたことが明らかになった。これらは心疾患患者の離床訓練において,リスク管理において安全面に寄与すると考える。La Rovereらは心疾患において圧受容器反射の感受性が強いほど,予後の改善に影響があると報告している。以上のことから,術前・術後でも積極的に離床を図ることが可能で,早期から臥床に起因する圧受容器反射の感受性の低下を効果的に予防し,予後改善につながるのではないかと考える。
今後,心疾患患者について循環調整応答の解明に向けて,健常者との比較検討,また症例数を増やしていくことが必要であると考えている。
【理学療法学研究としての意義】
CABG術前・術後患者に対して,静的な起立負荷では循環調整応答が保たれることが明らかになった。このことは,心疾患において術前・術後でも積極的に早期から離床を行え,deconditioning予防だけではなく,治療目標となる予後改善に寄与する可能性がある。